松本隆を特集「ことば数が多くても少なくても過不足ない物語を描くプロの作詞家」

"職業作詞家”松本隆のスタートは松田聖子

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シンガーソングライターで"選曲家"の松崎真人が、'70~'90年代の日本の曲・日本語の曲を中心に"厳選かけ流し"(イントロからアウトロまでノーカット)でお届けするSTVラジオ・真夏の特別プログラム『ナイタースペシャルMUSIC☆J~日本語ロックの8人』。7月30日(金)は、松本隆を特集。「はっぴぃえんど」から紐解く…という、よく語られるプロファイリングではなく、「なぜ松本隆が作詞家として選ばれるのか」という視点で、松崎真人がトークを展開します。特集枠に入る前に、松本隆の事実上の"作詞家デビュー"作と言える、この曲から…。(文中敬称略)

松崎:三浦徳子からバトンタッチして、初めて松本隆が作詞を手がけた曲です。

M19「白いパラソル/松田聖子」

松崎:この曲、作曲は財津和夫です。元はと言えばチューリップが制作を進めていた曲の詞が上手く行かなくて、ディレクターが松本隆さんを引っ張ってきて、「夏色の思い出」という詞を書かせたんです。チューリップとしては不本意だったかも知れませんが、これが図らずも、職業作詞家としての松本隆のデビュー作になったわけです。

松崎:山下達郎はアルバム「MELODIES」の頃から、詞を自分で書く方向に大きく舵を切っていました。ただ、NHKの朝ドラの仕事が来た時「ちょっとこれは、自分で詞も書くのはしんどいぞ」と言うことで、誰かに詞を振るとなったら「もう松本隆しかいない」と、ご指名でした。山下達郎は、決して言葉数が多く乗る曲調ではないんです。なので、少ない言葉数で、物語の世界観を描ける作詞家でないとダメなんです。だから、一語一語に無駄がなかったり、多義的にとれる言葉が入っていたりすることが条件なんですが、山下達郎の狙い通り非常にビジュアル的な歌詞になっています。1996年の曲です。

M20「DREAMING GIRL/山下達郎」

松崎:冒頭の2行が素晴らしいですね。「♪きみが、跳んだ、水たまり」というところだけで、もう世界観がフワ~っと出るでしょう。これが、曲のテンポと詞(ことば)を出してくるテンポのうまいシンクロなんですよ。僕はよく、久保田早紀「異邦人」の話をしますが、聴いてる人がイメージしやすいタイミングで、パッパッと詞を入れられると、強く心に焼き付くんです。そこら辺を判っている人が、松本隆だと思うんです。

松崎:山下達郎がこれだけ強くラブコールして、自分で詞を作るのを少しお休みにして、誰かに詞を頼むとしたら「松本隆しかいない」とまで言い切ったのは、こうしたことがあったんだと思います。2人(松本隆・山下達郎)ともドラマー出身ですからね、「ここに詞を入れちゃうと、歌詞が結局、聞こえなくなるぜ」とかも判りながら(詞を)書いてるんじゃないかなと言うところも(2人の信頼関係の礎に)もちろんあります。

松崎:次は伝説の作品です。太田裕美は「木綿のハンカチーフ」で大メジャーになるんですが、一時、松本隆の作詞から離れてました。久々に「A LONG VACATION」の出る時に、大滝詠一(作品)でやるのですが、もちろん作詞は「A LONG VACATION」の前哨戦だったので、松本隆が書いています。

松崎:当時、渡辺(プロダクション)が傾くほど、シングル1枚でLP1枚分の予算を使ったと言われている曲です。

M21「恋のハーフ・ムーン/太田裕美」

松崎:吉田拓郎は30歳を迎えるにあたって「Rolling 30's」という2枚組LPを出すわけです。(中略)この時に松本隆。いつかは一緒にやってみたいと思っていたんでしょう。この「言葉」は、松本隆の詞なんだけど、吉田拓郎も書きそうだなって詞なんですよ。しかも「DREAMING GIRL」とは逆に言葉数が多いんです。なので、1曲が4分から5分というポップスサイズの曲の中で、言葉数が少なかろうが多かろうが、ちゃんとそこに過不足のないストーリーを詞(ことば)で描くという意味で、本当のプロだなと松本隆のことは思います。

松崎:作詞家が「言葉」という本質そのもののタイトルをつけるというのは、よっぽどのことじゃないですか。当時、驚きながら、感動しながら聴いた思い出が蘇ります。これも古びない曲であり、歌われている気持ち、人間としての気持ちは全く変わっていないんじゃないかなと、僕は思います。

M22「言葉/吉田拓郎」

このほかに、松本隆特集として紹介した曲は…

M23「星間飛行/クラムボン」
M24「ガラス壜の中の船/大滝詠一」
M25「風をあつめて/はっぴぃえんど」

<松崎真人の編集後記>
「白いパラソル/松田聖子」松本隆が「松田聖子という個性はどんな物語の中で、どんなキャラクターを演じると輝くか」について、まだ手探り状態なのが今聴くとわかる。その回答は「裸足のマーメイド」のフレーズ「好きよ…嫌いよ」。つまり「じらす少女」。ともあれ松本隆が多くのロックサイドの人間を歌謡曲側に招聘したことで、歌謡曲というジャンル自体が大きく変容していった。それを少年期に目の当たりに出来たのは幸せだった。(松崎真人)

<7月30日のプレイリスト>
M01「歩いて帰ろう/斉藤和義」
M02「出逢った頃のように/Every Little Thing」
M03「Take You to the Sky High/角松敏生」
M04「いつか(SOMEDAY)/EPO」
M05「冷たいキス/ICE BOX」
M06「お化けのロック/郷ひろみ+樹木希林」
M07「これでいいのだ/筋肉少女帯」
M08「いつのまにか君は/浜田良美」
M09「雨の日のひとりごと/八神純子」

M10「Dog Days/岡村靖幸」
M11「天気読み/小沢健二」
M12「あいつのブラウンシューズ/松原みき」
M13「Raining/Cocco」
M14「なんとなく なんとなく/ザ・スパイダース」
M15「秘密の合言葉/ザ・テンプターズ」
M16「嵐の金曜日/ハウンド・ドッグ」
M17「渚のライオン/早見優」
M18「青空のように/大滝詠一」
M19「白いパラソル/松田聖子」

M20「DREAMING GIRL/山下達郎」
M21「恋のハーフ・ムーン/太田裕美」
M22「言葉/吉田拓郎」
M23「星間飛行/クラムボン」
M24「ガラス壜の中の船/大滝詠一」
M25「風をあつめて/はっぴぃえんど」

8月3日は山下達郎+吉田美奈子「描く風景からフォーク的情緒を切り離した」

地下レコード室からの発掘盤©STVラジオ

『ナイタースペシャルMUSIC☆J』~特集「日本語ロックの8人」~は、いよいよ後半戦。8月3日(火)は「山下達郎/吉田美奈子~描く風景からフォーク的情緒を切り離した~」です。STVラジオ地下レコード室での音源発掘も順調に進んでいます。山下達郎、吉田美奈子のそれぞれのデビューアルバムも揃いました。

水曜日以降のラインナップはご覧の通り。ビッグネームが並びます。

<8/4 (水)>桑田佳祐「たかが歌詞じゃねえかこんなもん」は反語である。
<8/5 (木)>忌野清志郎〜ザ・ブルーハーツ「パンク〜ニューウェーブを通過して得たもの」
<8/6 (金)>桜井和寿と草野正宗〜現在へ(1999以来進化は止まったのか?)

特集のアーティストにまつわる思い出やエピソードも含め、リクエストもお待ちしています。もちろん、特集に限らず、日本の曲・日本語の曲へのリクエストもお送り下さい。 mj@stv.jp

STVラジオ『ナイタースペシャル MUSIC☆J ~日本語ロックの8人~』(7月27・28・29・30日、8月3・4・5・6日 各17:55~20:50)※RCCラジオ同時ネット

ナイタースペシャル MUSIC☆J~日本語ロックの8人~

放送局:STVラジオ 他1局ネット

放送日時:毎週火曜~金曜 17時55分~20時50分
※放送局によって日時が異なる場合があります。

出演者:松崎真人(シンガーソングライター/北海道出身)

番組ホームページ

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※放送情報は変更となる場合があります。

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