航空機の技術とメカニズムの裏側 第288回 最近のニュースから(2)ユナイテッド航空が発注を決めた電動式旅客機

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ユナイテッド航空は、スウェーデンのハート・エアロスペース

ES-19とはどんな機体か?

ロールス・ロイスが製作した電動式航空機の技術実証機「ACCEL」はスポーツ機ぐらいのサイズを持つ小さな単発機で、胴体内は蓄電池で埋め尽くされた格好。そこから得られる電力を使って、機首に組み込んだ電動機によってプロペラを回す。

そんな話が先にあると、「小さな技術実証機でもそれなのに、実用的な旅客機を電動式にすることなんて可能なの?」という疑問が芽生えてしまう。しかし、疑問が芽生えるということは、記事にする価値があるということでもある。

ES-19は、先にも書いたように19人乗り。さらに運航乗務員2名と客室乗務員1名を加えて、総数22名ということになるだろうか。用途がまるで違うものを比較しても仕方ないが、運べる人の数は、兵員24名を乗せられるMV-22Bオスプレイよりも、若干、少ないぐらいとなる。

当節、旅客定員が19人というと、えらく規模が小さな機体という印象を受ける。ATR42-600は旅客定員が48人だし、その前に日本エアコミューターや北海道エアシステムで使用していたサーブ340Bも、ATR42-600よりは少ないながら、旅客定員は36名ある。ES-19は大雑把にいって、サーブ340Bの半分だ。

ハート・エアロスペースにいわせると、「1980年代のリージョナル機は旅客定員の平均が20名だったが、今は平均80名になっている。ターボプロップ・エンジンにかかるコストを考えると、定員が少ない機体では不経済で商売にならない」という。確かに、定員が4倍になったからといって、エンジンの取得や維持管理にかかる経費が4倍になるわけではない。だから、エンジンの性能が許す範囲で定員を増やせば、シートあたりのコストは下がる(増やした定員に見合った利用があれば、だが)。

だから、ターボプロップ旅客機は大型化してきてしまった、という理屈。それに対して、「少人数・短距離の飛行では、ターボプロップ機は不経済。電動機ならターボプロップ・エンジンの20分の1、ターボファン・エンジンの百分の一の価格で取得できるし、整備経費も安い」というのが、ハート・エアロスペースの言い分だ。ES-19の初期モデルでは400kmの飛行が可能で、蓄電池の性能が向上すれば、さらに延伸できるとしている。

問題は蓄電池の置き場所

全体配置は、直線翼を高翼に配置した、ターボプロップ・エンジンを使用する小型旅客機と似た形。ただし違うのは動力源で、主翼の下面にナセルを4組取り付けて、そこに電動機とプロペラを組み込んでいる。問題は、4基の電動機を駆動するための電源である。

エレクトロフライト(Electroflight)という会社の蓄電池システムを使用することは分かっている。ただ、ロールス・ロイスのACCELでは、1基の電動機を駆動するために(スペースが少ない小型機だからとはいえ)胴体内を蓄電池で埋めていた。しかし、ES-19は商業運航を計画している旅客機だから、胴体内を蓄電池で埋めるわけにはいかない。

ES-19の推進システムは、504個のセルで構成するLi-ion蓄電池モジュール×30個で容量180kWhを確保して、出力400kWの電動機を回す構成と伝えられている。それが4組あるから、総出力は1,600kWとなる。ただし、推進用電動機だけでなく、機内の照明や外部の灯火も、搭載するアビオニクスも、そして空調や与圧のシステムも、すべて蓄電池から電力の供給を受けなければならない点には注意が必要だろう。

客室のコンフィグレーションは、左右に1列ずつの腰掛を8列、そして客室最後部に3列。これで2×8+3=19席となる。胴体は一般的な円筒形の断面ではなく、縦長だ。そして、側面に設けられた扉の下縁が胴体の下端に近いところまで来ているから、床下スペースはなさそうだ。おそらく、人が立って歩けるギリギリの寸法ということで胴体の高さを決めたのだろう。胴体左側面の後端に大きな扉があるが、これは貨物室ではないだろうか(たいてい、リージョナル機の貨物室はこの辺である)。

蓄電池の充電にかかる時間は、所定のスペックを満たした充電設備があれば、40分を切れると見込んでいるそうだ。充電に時間がかかるとターンアラウンドタイムが長くなり、運航の制約要因になってしまう。到着・降機・機内整備・搭乗といったプロセスで40分ぐらいはかかるだろうが、充電時間が短くて済むに越したことはない。

なお、蓄電池は使い続けているうちに劣化するため、1,000サイクルが交換の目安になる。ただし飛行経路によっては、3,000サイクルまで伸ばせるというのが同社の考え。そして、機上で使用できなくなった蓄電池でも、地上で別の用途に充てることができるし、用済みになったら素材をリサイクルすることで環境負荷を抑えられる、というのがハート・エアロスペースの見解。

ただし、蓄電池は劣化したら交換しなければならないので、交換作業がやりにくい場所・搭載方法では困る。ES-19の推進システムは、電動機とプロペラと蓄電池を一体化して翼下ナセルに組み込む構成。これなら交換はやりやすそうだし、機体の重心に近い位置に重量物が集まる利点もある。前述した理由から、客室の床下に蓄電池を積むスペースがあるとは思えないし、蓄電池みたいな重量物を胴体内の後方に搭載すれば、重心が後方に寄り過ぎて、縦の静安定性を維持できなくなる。だから主翼まわりに搭載するのは理に適っている。

なお、機体構造は一般的なアルミ合金を使用する。これはリスクとコストを抑えるため。推進システムが最大の売り、かつ課題である以上、それ以外のところは可能な限り、実績がある技術でまとめるのが賢明である。

著者プロフィール

井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。

マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。