「ひらめき・こと・もの・ひと」づくりプログラムとは? 新ファンクションカリキュラム一気に公開! その2 詳細解説編

前回概要を紹介した東京都市大学の画期的な工学教育プログラム『ひらめき・こと・もの・ひと』づくりプログラム。今回は、その具体的なカリキュラム構成と、プロジェクトリーダーであり理工学部長の岩尾徹先生のお話を交えて詳細をお伝えする。

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文部科学省に採択された新しいタイプのカリキュラム

従来の大学での学びは“学術分野”が基盤になってきたが、これからは社会の要請・産業分野の変化に応じた新しい教育プログラムの展開に注目が集まる。文部科学省の「知的集約型社会を支える人材育成事業」は、そうした新しいタイプの教育カリキュラムやプログラムを選定し助成するもので、2020年には全国で6大学が採択され、「ひらめき・こと・もの・ひと」づくりプログラムはその一つ。理工学部の機械工学科・機械システム工学科・電気電子通信工学科の3学科を横断した専門科目、「ものづくり」の履修とともに、文理融合の「ひらめきづくり」「ことづくり」といった授業科目で“アイデアを生み出し形にする”トレーニングを行う。従来の大学教育にはないこれらの授業科目は産業界から招聘した教授陣も担当し、学修アドバイザーによるケア体制も整っている。他に、社会課題やグローバル化に対応したテーマ型教養科目中心の「ひとづくり」を加えた4つのカテゴリーで構成。それに「AI・ビッグデータ・数理・データサイエンス」の科目群が並走することで、文系・理系の枠組みや分野を超えた「統合的な学び」が構成されている。

所属学科の専門分野を磨きあげていく従来型のカリキュラムを選択しても、この新ファンクション(機能)カリキュラムを選択しても卒業要件は同じ124単位だ。科目名と取得できる単位などを一覧で下図に示した。

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開学以来もっとも大きなカリキュラム変更

既存の教育では、従来型の人材しか育成できない。その考えから、学部の枠や大学教育に対する固定概念をすべて取り払った、今までにないプログラムが誕生しました。ここまでの大きなカリキュラム変更は、本学90年の歴史の中でも初の試み。学生たちが、思う存分発想力や提案力を磨いていくことが期待されます。

選抜された110名が参加してスタート

このプログラムは初年度、3学科の新入生360人に対して募集を行い、応募者の中から約110名を選んで始まった。授業の多くは、問いを見つける問題発見と課題解決型で対話中心のものが占める【2P参照】。これには2020年からスタートした「SD PBL」(チームを組み、学生主体で持続可能な社会に資する問題発見や課題解決に取り組む)がバックボーンになっているが、受講する電気電子通信工学科の山田さんは、「これこそ自分が求めていたもの。一人だけで講義を受け学んだり実験を重ねていくだけでなく、チームでディスカッションしながら学生自ら問題を発見し探究していくことに魅力を感じた」と志望動機について語る。他に、「閉塞感のある製造業の課題を、新しい発想で解決できる人材になりたい」という現実的なものもある。ここまで授業を受けた感想について女子高から進学した学生は、「アイデア力や起業力を授業科目として学べることにワクワクしている」と語る。この他、すべての学びが統合されてきたことにより、物事の本質や概念が理解できるようになってきたという声も。なお、本年度はパイロット的に3学科を対象としているが、段階的に拡大して2024年度には全学的な展開となる予定だ。

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岩尾先生、プログラム導入の背景と目的を語る

――背景の一つには、本学が中心的に輩出する製造業では今、ゲームチェンジ(革新的な技術による従来の産業構造からの変革)が着々と進行していることがある。例えば、これまで日本の強みとされてきた自動車産業では、自動運転の普及で新規参入が増え、シェアリングエコノミーが拡大すれば、自動車そのものに対する価値観が変わることが予想され、その優位は揺るぎかねない。巨大な発電、送配電など生活を支えるインフラを扱う電力業界にも転機が訪れている。世界的にグリーンエコノミーへの転換が進む中で、再生可能エネルギーや、エネルギーを効率良く運用するエネルギーDXを扱う新しいプレーヤーへの期待が高まっている。まさにゲームが変わろうとしている。またこれまで、メイドインジャパンは品質や機能の優れていることの代名詞ではあったが、一方で過剰なまでの機能を備えていて、ガラパゴスと揶揄されることも多い。品質や機能が豊富なことはゲームチェンジ時代においても重要だが、マーケティングにはむしろ、それが何に使えるかのストーリー、つまり<こと>の要素の方が重要だ。品質が良ければ売れるという時代ではなくなりつつある。物と物を繋いだり、物にストーリー性を持たせて世に送り出す、そんな力を育てていくことは急務だと思う。

もう一つの背景には、近年の卒業生の追跡調査の結果がある。本学の学生は専門性や技術の高さでは定評があるが、統合的学びや人を巻き込んで新しいことを始める力が弱いことがわかってきた。特に私が着目しているのが、入社ほぼ10年後の35歳。仕事に脂が乗り、次のステップへのターニングポイントと位置づけられるが、ここで、単にものづくりのプロフェッショナルにとどまるのか、マネジメント力や企画開発力を身につけ、組織や研究チームをリードするポジションに就くのかで、その後のキャリアは違ってくる。

いずれのケースにおいても、求められるのは、全体最適解を導くために、「アイデアと技術を繋いでイノベーションを起こせる力」であり、発想力を鍛え、自分の責任で新しいもの生み出す“人の上にではなく、人の前に出る”というタフさだ。どれも、成果主義に偏り、インターネットで誰よりも早く解を探し出すことが良い成績につながるという『捜し物競争』的な教育からは生まれてこない。まさに、ひらめき、こと、ものに加えてひとづくりの4つの力、文理の垣根を超えた幅広い教養と深い専門を備えた融合知、見識を4年間で身につけてもらうカリキュラムがどうしても必要だと考えた。目指してほしいのは、統合的学びを通した知識集約的な思考アプローチにより、グローバルで未来志向の判断力、多様な人々と共創する力、論理的かつ総合的に判断し、自ら挑戦する力とマネジメント力を身につけた人材。そして、若い学生の将来とこの国の未来のために、すべての学びを統合させ、学生の生きる力になることを目指している。本プログラムにより、問いを生み出し、力強く、前へ進んでいくタフな学生を輩出し、全体最適解を導くことで明るい未来を切り拓く「社会変革のリーダー」を育てていきたい。

「ひらめきづくり」 のある日の授業では、「通学途中に不便を感じたこと」をテーマにディスカッション。日常の何気ない気づきを新しい課題として共有し、次に「機械や電気の技術を使って解決できる可能性」を探るステップに進む。高校の探究活動に似ているが、「技術はイノベーションを起こすための駆動力である」を合言葉に、高校までに身につけた理科や数学の力、自分の学科の学びを用いて結論を導く。大学ならではの高度でアカデミックな展開だ。

「ことづくり」 の授業では世界を変えたスタートアップとしてGAFAM(Google・Apple・Facebook・Amazon・Microsoft)を取り上げたり、日本でベンチャー企業を起こしたトップを招いて講演を聞いたり、各企業の概要説明から、学生自ら各企業の問題点と社会課題を抽出し、それらを技術の力で解決に導いたりする。すでに10社から協力が得られており、それらの企業から、経営者、研究者、技術者、人事担当者などが参画して学生とディスカッションするような授業も行われる。

プログラムに連接する総合型選抜も新設

本年度の入試では、このプログラムに連接する「総合型選抜」も新設される。タイプ1「学際探究入試(機械・電気系)」では、このプログラムの理解と志望理由を見るために「志望理由書」「小論文」を課し、「探究」をキーワードにした新しい総合問題を課す。気づき、問いを立てる力、問題発見、仮説を立て課題を解決する力を見るために、数学や物理学の力を駆使してその課題を技術の力で解決、結論まで導いてもらう。総合問題では、文科省検定済み教科書を6冊まで持ち込み可としている。まさに「探究」や高大接続改革をも意図した新しい試みでもある。「面接」はなく、合格後の辞退も可能だ。またこのプログラムに連携し、英語で60単位以上の専門科目を学ぶことができ、研究室への優先配属、学部大学院一貫教育、大学院での早期修了も目指す、電気電子通信工学科の「国際イノベータ育成オナーズプログラム」に参加するタイプ2の募集もある。こちらは、英語での面接を課す。

プログラムの詳細は特設ホームページで確認できるほか、7/18(日)にはキャンパス来場型(人数制限・来場条件あり)の説明会も行われる。

__総合型選抜(1段階選抜制)
学際探究入試(機械・電気系)__

出願期間:9/9(木)~ 9/16(木)

試験日:10/9(土)

試験場:世田谷キャンパス

合格発表:10/18(月)

入学手続き:12/10(金)一括

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