侍ジャパンに劇的勝利もたらした甲斐拓也 試合後の言葉に滲んだ「功は人に譲れ」の教え

サヨナラ打を放った侍ジャパン・甲斐拓也【写真:Getty Images】

内野5人シフトを敷かれながら、右翼フェンス直撃のサヨナラ打を放った

■日本 7ー6 米国(2日・ノックアウトステージ・横浜)

2日に行われた東京五輪野球競技の準々決勝で、米国にサヨナラ勝ちして準決勝進出を決めた野球日本代表「侍ジャパン」。1点ビハインドの9回、土壇場で同点に追いつくと、延長タイブレークの末に最後は甲斐拓也捕手(ソフトバンク)が右翼フェンス直撃の適時打を放ち、激戦に終止符を打った。

まさに劇的な1勝だった。9回まで1点を追う苦しい展開。鈴木誠也外野手(広島)の四球、浅村栄斗内野手(楽天)の右前安打で一、三塁とし、柳田悠岐外野手(ソフトバンク)の二ゴロの間に同点に。延長タイブレークの米国の攻撃を栗林良吏投手(広島)が無失点に封じ、サヨナラへの道筋が出来上がった。

無死一、二塁で始まった侍ジャパンの攻撃。まず村上宗隆内野手(ヤクルト)の代打で起用された栗原陵矢捕手(ソフトバンク)が初球できっちりバントを決めて走者を進めた。1死二、三塁で打席に立った甲斐。米国は中堅手を内野に置く“内野5人シフト”を敷いたが、初球を捉えた打球は右翼への大飛球に。シフトお構いなしのフェンス直撃適時打で劇的な勝利を迎えた。

劇的な勝利のヒーローとなった甲斐。試合後のテレビインタビューでは「色々考えられる状況だった。監督の話も聞いて、頭を整理して打席に入ることができた。外野手が内野に来て、ということでしたけど、初球から振りに行こうと思った」と振り返った。そして、その後、並べた言葉が印象的だった。

「栗林がゼロに抑えたことが勝ちに繋がった」

「栗林がああいった結果で、ゼロに抑えたことが勝ちに繋がったと思います。栗林が初球から自分のボールを投げてきてくれて、いい球を投げた結果だと思います。本当にナイスピッチングだなと思います。全員が最後まで諦めずに戦った結果だと思います」

すぐに延長10回の米国の攻撃を完璧に封じ込めた栗林の投球に称賛の言葉を送ったのだ。

甲斐には常に大事にしている言葉がある。「功は人に譲れ」――。尊敬してやまない亡き野村克也氏から授かった言葉だ。捕手はあくまで投手を支える黒子で表に出る存在ではない。勝てば投手のおかげ、打たれたら捕手のせい、捕手とはそういう存在であるべき。自らを「月見草」と称した野村氏から教わった捕手としての心得。これが表れた言葉に映った。

「まだ3試合終わっただけで、まだ試合はあるので。金メダルを取るためにやっているので、毎日が切り替えだと思います。今日は今日で切り替えてやっていきたい」と、最後までその表情を崩さなかった甲斐。侍ジャパンの正捕手として、金メダルを手にするまで、気を緩めることはない。(Full-Count編集部)

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