来島者は増えた。環境は荒れた。地元に落ちる金は少ない…。環境にやさしい観光とは。屋久島の教訓から学ぶ〈未来への提言 奄美・沖縄世界自然遺産〉

登山者で渋滞する縄文杉登山道=2013年5月4日、ウィルソン株前

 「登山客が多すぎて山の環境にはよくなかった」。屋久島で民宿を営む傍ら登山ガイドをしている満園茂さん(67)は振り返る。15年ほど前までスタッフは週5日以上、縄文杉を案内していた。

 屋久島は1993年、白神山地(青森、秋田県)とともに国内で初めて世界自然遺産に登録された。ネームバリューは一気に上がり、観光客は急増した。

 入り込み客は2007年度の40万6000人をピークに減少する。推定樹齢7200年の縄文杉見たさの観光客が一巡し、リピーターは一部にとどまるためだ。

■踏まれる植物

 減ったとはいえ、行楽シーズンになると縄文杉への道は混雑する。林野庁のスタッフとして約10年間登山道をパトロールした川村貴志さん(52)は「登山道をはみ出して歩いたり食事をしたりして植物が踏み荒らされ、道の脇が見る見る荒れていった」と語る。

 10年度に山中のトイレのし尿全てを人力で搬出するまでは、周辺に埋設していた。登山者の増加で大量のし尿が発生し、悪臭の苦情のほか、植生への影響も懸念された。

 環境悪化を問題視した屋久島町は11年、エコツーリズム推進法に基づき、縄文杉ルートなどへの登山客を制限する条例案を議会に提出した。だが、観光業者の反発を受け、否決された。

 町は17年、し尿搬出など環境保全事業の財源を登山者から徴収する入山協力金制度を設けた。初年度は6500万円の収入があったものの、登山者が減り事業収支は18年度から赤字が続く。不足分は町が負担しており、観光と環境保全の両立の難しさを物語る。

■島の文化発信

 山岳ツアーの大半は島外の旅行代理店が企画するため、島に落ちる金が少ないのも課題だ。地元住民からは「島の自然を使って金を搾取されている」といった声も上がる。

 屋久島環境文化財団と町、7集落でつくる里めぐり推進協議会は12年、縄文杉頼みの観光からの脱却を狙い、里めぐりツアーを始めた。語り部が集落の歴史や文化を紹介し、屋久杉の箸作り体験などを楽しめる。

 地元主導の取り組みに屋久島観光協会の後藤慎会長(47)は「集落ごとに独特の文化があり、観光客には魅力的。うまく発信できれば盛り返せる」と期待する。軌道に乗れば、山への環境負荷を抑えられ、島外資本に金が流れる経済構造を転換する一歩になる。

 民宿を経営する長井三郎さん(70)は自然遺産の目的は観光振興ではなく、山の保全と強調する。「屋久島は観光客を増やすことを目標としてしまった。自然の許容量を考え、環境への負荷のない観光を目指すべきだ」と話す。

 「遺産の島」の先進地がたどった28年間は「奄美・沖縄」の教訓になる。

縄文杉の手前で列をなす登山者=2013年5月4日、屋久島町
縄文杉を眺める登山者=2013年5月4日、縄文杉デッキ

© 株式会社南日本新聞社