山西利和、日本初の競歩・金メダルを名言する頭脳派が、“世界一”よりもっと選手冥利に尽きるもの

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5日夕方、東京五輪・男子20km競歩がスタートする。実は日本の競歩界は世界最高レベルを誇る。その中でも特に金メダル候補と目されているのが、現在世界ランキング1位の山西利和だ。日本初のオリンピック金メダルを狙う頭脳派ウォーカーが、“世界一”以上に目指すものとは――?

(文=守本和宏、写真=GettyImages)

なぜ競歩王国・日本が生まれたのか?

日本でも徐々に認知されてきたが、実は、日本の競歩チームは世界最高レベルを誇る。

今年7月に発表された、最新の競歩世界ランキングを見れば驚く人も多いだろう。20km競歩は、1位・山西利和、8位・池田向希、10位・高橋英輝。そしてオリンピック欠場の鈴木雄介が6位と、トップ10に日本人が4人。

50km競歩に至っては、1位・鈴木雄介、3位・丸尾知司、5位・川野将虎、10位・小林快、11位・勝木隼人、12位・藤澤勇、13位・荒井広宙と、トップ13に日本人が7人。20km競歩世界記録保持者の鈴木雄介は「自分が望む結果を得る状態まで仕上げられない」と、今大会出場を辞退したが、日本は世界に誇る“競歩王国”である。

その強さの理由は、山西をはじめとした実力派選手の充実。そして、日本代表競歩ブロック全体を挙げての強化が、大きい。

文武両道の頭脳派ウォーカー山西利和

今回の東京五輪での最注目は、現在25歳の山西利和となるだろう。

京都出身で中学校までは中長距離ランナーだったが、高校に入って競歩に転向。早い段階から日本代表入りして、高校時代から国際舞台で活躍してきた。京都大学進学後は、文武両道。「大学は(高校より)自由度が高かったので、両立しやすかった」と語る中、大学4年時の2017年にユニバーシアード競技大会20km競歩優勝を果たしている。

この頃すでに国内トップレベルの選手だった山西。だが、2018年にアジア大会20km競歩で2位になると、以降は揺るぎないトップ選手となった。2019年、日本選手権後の全日本競歩能美で1位。さらに競歩とゆかりの深い土地、スペインのラ・コルーニャでの大会(IAAF競歩グランプリ)で、20km競歩日本人初の優勝を遂げる。そして、大きな転機となったのが、その後の2019ドーハ世界陸上(世界陸上競技選手権大会)、日本初の金メダルだった。

2019ドーハ世界陸上では、大会2日目に50km競歩で鈴木が、オリンピック・世界選手権を通して日本競歩史上初となる金メダルを獲得。それに続く、8日目。20km競歩の山西が1時間26分34秒で優勝。日本男子20km競歩初となる金メダルに輝いた。当時から本人は「世界一を取ったからどうではなく、レースを見て、誰かが何か感じてくれたなら競技者冥利(みょうり)に尽きる。東京五輪では、皆さんに何か感じてもらえるレースがしたい」と、数年先を見据えていた。

以降の山西は、日本選手権20km競歩で連覇を飾るなど、国内主要大会で負けなし。特徴とするスピードにも磨きをかけ、オリンピック本大会に向け、本人がよく使う言葉「地力を上げて」きた。東京五輪直前の合宿では本人も、金メダル獲得を明言している。

「金メダルをターゲットにやってきたので、そこは変わらず、取りにいきたい」
「ラスト5kmを切ってペースの上がる大会が多いので、しっかり対応して最後に勝ちきること。そのパターンにこだわらずにレース全体をうまくコーディネートしたい」
「“金メダル候補”ともいわれるが、僕自身は(オリンピックに)一回も出たことない選手。気負わず、思いきっていければいいかなと思っている」

練習中、定期的に測るLT値(運動強度の大きさにより、血中の乳酸濃度が急激に上昇するポイント)をベースに、実力アップを認知してきた頭脳派ウォーカー山西。自分らしく冷静に、日本競歩初となるオリンピック金メダルに向け、準備を進めている。

日本の競歩はなぜ強いのか。その“連携力”

さて、気になるのは「どうしてそこまで日本競歩は強いのか」だ。2012年のロンドン五輪で7位に入賞し、近年の競歩を世界的レベルに押し上げた森岡紘一朗氏は語る。

「日本代表の中でも競歩ブロックのトップ選手は、年間通して一緒にトレーニングする機会が本当に多い。国際大会を迎えるプロセスも同じ過程が踏めるので、まだ代表になってない選手も他選手の知見を追体験して、成功に結び付ける例が近年多く出てきている。そのプロセスが、確実に選手の経験として身に付いている」

「トレーニングの流れや成功例が全体に共有され、より洗練されてきた。遠回りもする中で、必要なこと、いらないことの取捨選択の精度が上がった。だから、ある一定レベルからトップに行くまでのプロセスが直線的になっている。何点かの成功事例に当てはめると、トレーニング理論がある程度確立できて、次の世代を担う選手たちは、それをなぞることができる。結果として、より早くトップレベルに近づける。この洗練により、日本競歩が世界トップに近づく取り組みになってきたのだと思います」

実際に先の世界陸上金メダルも、50km競歩で出た鈴木が、高温多湿対策として非常に冷たい水を飲んでいたため、内臓に負担がかかりトイレに行くタイムロスもあった。このフィードバックを踏まえ、男女20km競歩では“冷やすのは外から。水分補給は常温。エネルギー補給・電解質補給を行い、クーリングと給水のバランスを考えたほうがいい”と学習。対策を講じて、メダルなどの結果に結び付けた裏側があった。

選手・コーチ・医科学サポートなど、その手厚い“連携”こそ、日本競歩の強さの秘密といっていいだろう。

日本のメダルは射程圏内。可能性は山西だけでなく…

過去10年ほど、世界トップレベルを歩き続けてきた日本競歩。だが、オリンピックで見ると、前回リオデジャネイロ五輪の50km競歩で銅メダルを獲得した荒井広宙が初。20kmは松永大介の7位入賞が最高位。世界陸上でも、2019年の金が初と、選手たちの持ち記録にしては意外ともいえるほど、国際成績はよくない。

これは、国内の主要レースが冬に行われるのに対し、オリンピックや世界陸上は夏の暑さの中、行われるのが大きな要因になっていたと個人的には思う。この暑さ対策は、日本の競歩ブロックも長年ケアしてきたことだが、今回の東京五輪はホーム(開催は北海道)。他大会と同様に、厳しい暑さ、過酷なレースが予想されるが、日本の気候に慣れているのは多大なアドバンテージだ。さらに、外国人選手がこの気候で実力を100%出し切れるかも、影響する。

それら要素を踏まえれば、日本選手の金メダルは十分に射程圏内と考えてよいだろう。また、その可能性は山西だけでなく、出場するほぼ全選手が持っていると捉えてよい。それだけ、今年の競歩は注目である。

もう一つちなみにいうと、オリンピックでの50km競歩開催は今回の東京五輪が最後(20km競歩は存続予定)。理由はもろもろあるが、簡単にいうと、競技時間が長くて、人気がないからだ。世界最強チーム、競歩の連携を示せるのは今大会が最後。と聞けば、どうだろう。あなたはきっと、自然と競歩を応援したくなったはず?

<了>