召命募集と養成で思うこと 聖コルベ志願院 ヨセフ 李信衡神父

By 聖母の騎士社

 小神学生が絶えず気合を入れながら上がって行く。大人の拳ほどの石からかなり大き目の石が散在していて、所どころに木などが倒れて山道を塞いでいた。足首には、かなりの力が入り、息が上がってしまう。それでも、中高生の小神学生たちは簡単に登って行く。五月連休のいい天気の日を選んで、長崎・外海にある「次兵衛岩」巡礼に来ていた。諸説はあるものの、トマス金鍔次兵衛神父様が追手から身を隠したとされる岩穴が残されている。山奥のまた奥まったところ、夜には獣の泣き声や風と揺れる木の音にどれだけ体も心も細くなり、不安と戦っていたのか、想像するだけでも胸が苦しくなってくる。しかし、逆にこの森の漆黒の闇が心に平安をもたらしたのかもしれない。小神学生たちが少しでもトマス金鍔神父様の心を感じ取って欲しいと願いながら、岩を目指す。

 2017年に初めて修道会の小神学生養成機関である「聖コルベ志願院」に着任した時に、期待よりも不安が大きかった。小神学生出身ではなく、日本の大学を卒業した後に召命の道を歩んできた私が、この大きな役目を担ってもいいのかどうか、とても心配だった。実際、様々な判断ミスをし、すべてをやさしく包み込む包容力がなかったことを、今は反省している。それでも、スポーツ刈りの丸い顔の、いたずら好きな中学2年の小神学生は、いつの間に背も顔も伸び、順調に行けば来年は大神学生になり、東京の大学で勉学を続けることになる。後輩にも配慮する姿を見ながら、思わず微笑んでしまう。ここまで成長させてくださった神様に感謝を捧げる。

 とても残念なことだけど、司祭・修道者召命に悪いニュースが多かった4年間だった。小神学生を受け入れていたいくつかの男子修道会が小神学生の養成から手を引く。シスターたちの修道会も学生志願者の召命が減り、中学生の志願者募集停止の知らせも舞い込んできた。久しぶりに顔を合わせた教区・修道会の養成担当者は、心配の顔で来年度の募集のことを話し合うという場面もあった。それでも、私はまだ諦めていない。種を撒き、希望を置き、この道の素晴らしさを伝えていく。却ってこの時代だからこそ、小神学生・志願者の道は確保されるべきであり、この道を通して召命を育む必要があると信じている。

 聖コルベ志願院は、中学校3年間を長崎南山中学校に通い、高校は修道会が経営している聖母の騎士高校で学ぶ。中学1年生から親元を離れ、他の仲間たちと共に生活し、遊び、勉強をして、お祈りを捧げる。将来の夢を、違う道から探すことも度々あるけれど、幾度も選択をして行くことによって神様の呼びかけを確かなものにして行く。召命募集の時には、もちろんその子自身の意志も重要ではあるが、まだ幼くやはりご両親の信仰と、その子にどのような未来を抱いているかによって左右されて行く。だからこそ、時にはご両親の決心によって、その子に司祭・修道者の将来を託すことも有りだと感じている。この世の荒波に飲み込まれることなく、少し離れたところから観望し、主体性を持って人生を歩んでいく。そのような「畑に隠された宝石」のような人生のあり方がここにあると、私は思っている。

 聖コルベ志願院が建っている地は、聖コルベ神父様が生活をし、苦しい中でも毎日お祈りを捧げ、宣教した場所である。その地は、特別に祝別された長崎であり、迫害と殉教の歴史を通して脈々と信仰を伝えてきた。その証しは、今も私たちの中に生き続けている。

 追手の追跡を振り切りながら、信徒に奉仕をし続けたトマス金鍔神父様のように、私たちも上手にこの荒波を乗り越え、受け継いた信仰を伝えて行くために召命募集と養成に力を注いで行く。(お祈りください!)

聖母の騎士 2021年8月号より掲載

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