先駆者

 「刑務所の中に障害者や高齢者がうじゃうじゃいると知った。本当に申し訳なかった。気づくのが遅かった。だけど、気づいたからには何とかしなきゃいけないと考えた」▲とてもシンプルな行動原理を本社主催のシンポジウムで語ってくださったのは先月の10日だった。まだひと月もたっていない▲自らの行為の意味や刑罰の意味を十分に理解できないまま犯罪を繰り返し、刑務所の内と外を行き来する「累犯障害者」の支援をはじめ、障害者福祉の分野で意欲的な取り組みを続けた社会福祉法人南高愛隣会(諫早市)元理事長の田島良昭さんが亡くなった▲気づいた、だから、放っておかない。制度がない、だったら自分たちで考える。障害者の就労を支える仕組みや、累犯者の更生を社会内で図る仕組み。「田島さんの発想は出発点に“人”があるから、網から人がこぼれ落ちない」と報道部の同僚が解説してくれた▲訃報を伝えた昨日の紙面、東京五輪の陸上女子5000メートル、廣中璃梨佳選手の快走が同居していた▲もしも田島さんにもう少しだけ時間が残されていたら-と考えた。〈先を走る者〉と書いて先駆者。「世界」を引き連れるようにトラックを進む果敢な姿に、自身の歩みを重ねながら応援していたかもしれない。想像が飛躍しているだろうか。(智)

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