厳しすぎる世界の“脱炭素ロードマップ”その中身とは?注目のテクノロジーと関連銘柄を一挙紹介

「脱炭素」の実現に向けた取り組みは世界的に加速する見通しです。6月開催のG7サミット(主要7ヵ国首脳会議)の共同宣言には、2050年までのCO2ネットゼロ排出、各国の2030年目標へのコミットが盛り込まれました。11月に英国で開催されるCOP26(気候変動枠組み条約締約国会議)では、さらに具体的な取り組みが話し合われると予想されます。

そのたたき台になると注目される報告書に、国際エネルギー機関(IEA)が5月に発表した「世界エネルギーセクターのための2050年ネットゼロ・ロードマップ」(以下、報告書)があります。世界で2050年までにエネルギー関連CO2排出量をネットゼロにするシナリオに沿った、エネルギー技術や投資、イノベーションなどに関する野心的かつ実行可能なロードマップです。


ネットゼロはいかに野心的なのか?

ではこの“ネットゼロ”はどれほど野心的なのでしょうか?まず、CO2排出量予想に関する「現行政策シナリオ」を確認しましょう。パリ協定締約国が国連に登録する国別削減目標を反映した「現行政策シナリオ」では、CO2排出量は2050年にかけてほぼ横ばいになると予想されています。

上記シナリオに加え、これまでネットゼロ排出の達成を誓約した主要国(日本や米国、EU、中国、韓国など)が完全かつ期限内に達成することを前提にしたものが「発表誓約ケース」です。このケースではCO2排出量は大幅に減少するものの、ネットゼロには程遠く、2100年に50%の確率で世界の平均気温は工業化以前の水準から2.1℃上昇すると予想されています。

パリ協定が掲げる世界の平均気温の上昇をできる限り1.5℃に抑える目標を達成するためには、2050年にネットゼロ排出となる「ネットゼロ排出シナリオ」の達成が必要になるとみられています。

日本では4月、2030年度のCO2排出量目標を2013年度比46%減と従来の同26%減から大幅な削減目標を掲げましたが、さらなる排出量削減の取り組みが必要になってくるかもしれません。

<写真:ロイター/アフロ>

2050年にかけた世界マクロの前提

「ネットゼロ排出シナリオ」では、2050年までに世界人口は20年から約25%弱増加して97億人に、一人当たりGDPは3.2万ドルに倍増する一方、エネルギーの経済効率は約3倍改善し、一人当たりエネルギー消費量も26%程度減少すると想定されています。

エネルギー関係では、太陽光発電と風力発電の年間追加容量が2030年に2020年の約4倍増、電気自動車の販売台数は同約18倍増、クリーンエネルギー投資額は2030年に2016~20年平均の3.6倍に増える見通しです。

官民によるクリーンテクノロジーに関する消費増が雇用増をもたらし、GDP成長率(2026~30年)は現行政策シナリオに比べて年率0.5%弱押し上げられ、電力・バイオエネルギー関連雇用は2030年に2019年から約1,400万人増加する見通しです。

世界の2050年ネットゼロ・ロードマップ

「ネットゼロ排出シナリオ」に沿ったセクター別ロードマップによると、電力・熱分野の重要なマイルストーンは以下の通りです。

(1)2021年にCO2排出削減対策のない石炭火力発電の新設を停止。
(2)2030年に先進国は排出削減対策のない石炭火力発電を段階的に廃止、太陽光・風力発電が年1,020GW増加。
(3)2035年に先進国の発電が全てネットゼロ排出。
(4)2040年に世界の発電がネットゼロ排出。
(5)2050年に世界の発電量の約70%が太陽光と風力発電。

その他の分野については、2030年の世界では、新建築物は全てカーボンゼロ対応、世界の自動車販売の60%が電動車、重工業でほとんどの新クリーンテクノロジーが実証される見通しです。

達成に必要な投資額と注目のテクノロジー

日本では2020年時点で全発電量の7割強を石炭火力発電に依存していることから、今後はかなり積極的に技術開発や発電の低コスト化を進め、エネルギー転換を加速させる必要がありそうです。

技術開発などでネットゼロを達成する為に世界で必要とされる発電関連投資額(年あたり)は、2016~2020年の0.5兆ドルから2021~2030年の1.6兆ドルへ拡大すると予想されています。中でも、再生可能エネルギーや最終消費における効率化や電化、送電網などのインフラ関連、低排出燃料などへの投資増が見込まれています。

<チーフESGストラテジスト 山田 雪乃>

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