【東京五輪】「普通の子」がわくわくさせた 無名から飛躍の陸上・泉谷駿介 恩師ら「悔しさバネに」

陸上・泉谷駿介(資料写真)

 胸焦がす力走だった。陸上男子110メートル障害の日本記録保持者、泉谷駿介(21)=順大、武相高出身=は4日の準決勝で敗退し、日本史上初の決勝進出を逃した。それでも、無名の中学時代からひたむきに走り続けて挑んだ日本勢57年ぶりのセミファイナルだ。恩師らは世界の強敵に臆せず立ち向かった姿に「悔しさをバネにする子。これからが本当に楽しみ」とさらなる飛躍へ期待を寄せた。

◆努力と負けず嫌いの天才

 「前の組が好タイムだったというのもあって、気持ちが入り過ぎてしまったかな」。武相高陸上部監督の田中徳孝さんは、いつになく落ち着かない様子のスタートに、一抹の不安を覚えていたという。

 予感は的中し、序盤のハードルにぶつけて失速。3着で駆け込むもタイムで惜しくも届かなかった。「残念だけど、この経験は力になる」。うなだれる教え子の心中を思いやった。

 若くして日本の1番手にのし上がった。人は「天才」と称するが、田中さんはかぶりを振る。「強いて言うなら努力の天才、負けず嫌いの天才。頭が下がる」

 挫折が心と体をつくってきた。高校2年時の全国高校総合体育大会(インターハイ)で入賞を逃し、おえつを漏らした。涙は糧となり、偏っていた食生活を手始めに見直しを図った。

◆向上心の塊「さらに大きくなる」

 日々のトレーニングにも表れた。「(練習から)100パーセント、力を出し切ることができる子は珍しい。精神的なリミッターがないから、こちらがブレーキを踏むまで一生懸命汗を流していた」。歩みは翌2017年夏のインターハイ制覇に結ぶ。ただ、その不屈の精神は高校時代に始まったことではない。

 出身の横浜市立緑が丘中陸上部で当時顧問を務めた上田菊代さん(現茅ケ崎中)も目を細める。「あの子のいいところは練習が大好きなことと素直さ」

 入学時の身長は150センチ前後。リレーメンバーに選ばれず涙したこともある。成長期前の少年が日の目を見る機会は少なかったが、「向上心の塊。悔しさを土台にして基本に忠実に、丁寧に取り組んだ」と振り返る。

 恩師2人は泉谷の走りに夢を見る。「普通の子だった選手が(努力で)ここまで行けた。子どもたちにとっては希望になる」と上田さん。田中さんも続ける。「わくわくさせてくれる選手で、まだまだ途中経過。あのスピードとバネを考えたら幅跳びでも目指せるのではないか。この悔しさは高2のインターハイ以来のはずだから、きっとさらに大きくなる」

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