延長の末に本命スペインに0―1の敗戦 最少得点差にある、とてつもない実力差

サッカー男子準決勝 日本―スペイン 延長後半、スペインのアセンシオ(下)に決勝ゴールを決められた日本=埼玉スタジアム

 数年の歳月を経た時に「もったいなかったな」と思い出す試合がいくつかある。2010年W杯、PK戦の末にパラグアイに敗れた決勝トーナメント1回戦。同じく1回戦で2点をリードしながら、2―3の逆転負けを喫した2018年W杯のベルギー戦だ。やり方によっては日本が勝利していてもおかしくなかった。残るのは後悔だけだ。

 埼玉スタジアムで8月3日に行われた東京五輪の準決勝、スペインとの試合をこれらと同列に並べられるのだろうか。確かに、あと5分を耐え抜きPK戦に持ち込んだなら勝利の可能性が少しは高まっただろう。ただ、120分を通してゴール枠内に日本が放ったシュートが1本だけだったという事実を振り返ると、スペインは明らかに日本より巨大な存在だった。

 ペドリ、オヤルサバル、オルモ、ガルシア、シモン、パウ・トーレス。この6人は、ある意味ではW杯よりレベルの高い欧州選手権に参加していた選手だ。しかも、パウ・トーレス以外の5人は、惜しくもPK戦で敗れた準決勝のイタリア戦に先発したメンバー。スペインのA代表のレギュラーが五輪代表に移行してきたといってもいいチームだった。

 圧倒的にボールを支配し、相手を押し込む。唯一難があるとすれば、その割にはゴール数が少ないことだけ。日本がつけ込むとしたら、そこしかなかった。事実、日本はアタッカー陣がファーストディフェンダーとしてパスコースを限定して、遠藤航、田中碧の2ボランチ、酒井宏樹、吉田麻也、板倉滉、中山雄太の4バックが高い集中力と組織力でスペインの攻撃に粘り強く対処した。そして、守備ラインに空いた穴を、GK谷晃生が最後のところで体を張ってストップした。前半38分、後半31分のミルのシュートに対する反応は、まさにファインセーブだった。ただ、残念ながら日本の褒められる点は、守備面だけだった。

 後半11分、メリノへの吉田のタックルが一度はPKと判定された。しかし、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の確認で判定が覆り、日本は命拾いをした。それでもスペインの優勢は変わらない。他チームとの対戦では攻撃に違いを生み出すことができた久保建英、堂安律も守備に追われ、徐々に体力を削られていく。この二枚看板は延長前にピッチを退いたが、堂安が「最後のひと振りのパワーが残っていなかった」と話している。限界ぎりぎりでのプレーのなかで、もう余力はなかった。

 後半33分、久保がGKを強襲するシュートを放つ。だが、当然のように正確なポジショニングを取っていたシモンは正面でこれを受け、はじき飛ばした。日本の唯一のゴール枠内へのシュートでさえ可能性は感じられなかった。

 心がすり切れるような、ひりひりとした神経戦が続いた。日本の守備陣は、よく集中力を保ってゴールを割らせなかった。その中で残念なことは、交代によってフレッシュな選手を入れたにもかかわらず、守備の負担が増えるという誤算が起きたことだ。ここまで献身的な守備でチームを助けてきた林大地。この1トップに代わって後半20分に投入された上田綺世が、体力は残っているはずなのに守備時に普段のようにはボールを追えなかった。ストライカーとして攻撃面では林より高い評価を受ける上田が、本来はバックアップメンバーだった林にレギュラーポジションを奪われたのは、このあたりに理由があるのでは、と思われた。

 体力的にも精神的にも、限界の状況でボールを追い続けた日本。対するスペインは、余力を残していた。後半39分、18歳で欧州選手権のベストイレブンに選出されたペドリに代わって投入されたのがアセンシオだった。レアル・マドリード所属のロシアW杯メンバー。オーバーエージの豪華なアタッカーをベンチに置けるのが、スペインの強さだった。

 完璧な集中力を見せていた日本守備陣。ただ一度、反応が遅れたのが決勝点を許した場面だった。延長後半10分、スペインのスローインの場面。ボールを受けたオヤルサバルがペナルティーエリア内にいたアセンシオに横パス。板倉の寄せが一瞬遅れる間にターンしたアセンシオは、そのまま左足を振り抜いた。

 敵ながら美しい軌道のシュートだった。レフティのファーサイドを狙ったカーブをかけたシュート。残念ながら大外から巻いて、遠いポスト際に飛んでくるシュートを止められるGKは世界のどこを見回してもいない。ここまで好守を連発してきた谷も、さすがにこれには対処できなかった。

 スコアだけを見れば、延長戦までもつれての0―1の敗戦。接戦にも見える。しかし、この1点にはスペインとの間にとてつもない差があったといえる。それを最も感じていたのがスペインを第二の母国という久保だったのではないだろうか。「(スペインは)うまかったし、強かったし、自分たちもしっかりとプランを練って臨んだつもりだけど、あと一歩及ばなかったかなと思います」

 本気で金メダルを目指していただけに、日本チームには大きな失望があるだろう。それでも日の丸をつける以上、立ち止まることは許されない。くしくも3位決定戦の相手は、53年前と同じメキシコだ。日本男子サッカーが唯一メダルを獲得した3位決定戦の前、日本サッカーの父、故デットマール・クラマーさんが語った言葉をもう一度思い出そう。

 「金や銀もいいが、銅の色もいいものだ」

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル

 サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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