50歳独身、貯金2000万・住宅ローン1500万。繰り上げ返済でどれくらいトクに?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、50歳、看護師の女性。老後資金について気になりだした相談者。1,500万円の住宅ローンの返済プランと、老後資金貯蓄はどのように進めるのが効率的? FPの氏家祥美氏がお答えします。

看護師です。退職し、現在転職活動中です。50歳を過ぎ、老後資金について気になります。住宅ローンの繰り上げ返済か貯蓄かどちらを優先し、どのように進めていったらよいかわかりません。

住宅ローンは、残債1,500万円、変動金利0.775%、35年ローン、残り24年5カ月です。貯蓄は約2,000万円と、親の死亡保険が1,000万円ほどあります。公的年金は13万円くらいで、退職金は期待できません。

【相談者プロフィール】

・女性、50歳、看護師(まもなく再就職予定)、独身

・お住まいの都道府県:大阪府

・住居の形態:持ち家(マンション・集合住宅)

・毎月の世帯の手取り金額:27万円(予定)

・年間の世帯の手取りボーナス額:75万円(予定)

・毎月の世帯の支出の目安:24万1,000円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:9万円

・食費:2万円

・水道光熱費:7,000万円

・保険料:2万6,000円

・通信費:5,000円

・車両費:2万8,000円

・お小遣い:3万円

・その他:3万5,000円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:8万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:30万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):2,000万円

・現在の投資総額:0円

・現在の負債総額(住宅ローン):1,500万円

(変動金利0.775%、35年ローン、残り24年5カ月)

・老後資金:公的年金13万円くらい?

・親の死亡保険:1,000万

・退職金は期待していません。


氏家:こんにちは。このたびはご相談いただきありがとうございます。看護師としてのキャリアを持つご相談者さんですが、50代に入り、今後のこともいろいろ考えるようになったようですね。繰上げ返済と貯蓄のどちらを優先して老後に備えていくのか、一緒に考えていきましょう。

住宅ローン、繰り上げ返済のタイミングはいつ?

住宅ローンの繰上げ返済か老後資金の貯蓄か、ということなので、まずは現在の住宅ローンの状況を整理しておきましょう。

現在、住宅ローンの残債は1,500万円です。35年ローンを10年余り返済したところで、残りの期間は24年5カ月(293カ月)。変動金利0.775%ということなので、1カ月あたりの返済額は、5万6,200円くらいだと思われます。このローンの他に、管理費と修繕積立金がかかり、1カ月の住居費は9万円となっています。

ローン開始から10年間が経過して、住宅ローン減税が終わったところですね。これまでは、金利1%未満で借りられていることもあって、住宅ローン減税を優先して繰上げ返済をしないできました。その住宅ローン減税の恩恵がなくなったいま、どの程度繰上げ返済をしていいのかわからないというところだと思います。

ご相談者さんは現在50歳。あと24年5カ月返済を続けると、住宅ローン完済時には74〜75歳になってしまいます。公的年金の受取額が13万円くらいというと、年金生活でローンを返済していくのは難しそうですし、退職金も期待できないとなると退職金でローンの一括返済も難しそうです。一方で、現在は貯蓄をしっかりお持ちですから、住宅ローン減税がなくなった今のタイミングで繰り上げ返済を行い、利息負担を軽減しておくのがいいでしょう。

600万円の繰り上げ返済で10年間の返済期間短縮、利息負担を95万低減

貯蓄は2,000万円あります。極端な話、このうちの1,500万円でローンを完済してしまっても500万円の貯蓄が手元に残せる状況ではあるのですが、そこまで返済を急ぐ必要はありません。

いま50歳で転職活動中ですが、仮に65歳までフルタイムで働き続ける前提とした場合、65歳までに繰り上げ返済をしておくと、年金生活に入ってから住宅ローンを返済する必要がなくなりますから、まずはこの65歳あたりを繰り上げ返済のターゲットとして考えてみましょう。

ご相談者さんの場合、預貯金から600万円をまとめて繰上げ返済すると、今後の返済期間を293回→170回に短縮できます。これにより、返済期間を10年間縮めることができるので、65歳にはローンを完済できる計算になります。また、600万円繰り上げ返済をすることで、利息負担を約95万円軽減できます。

65歳以降の年金不足に備えてiDeCoを始めよう

現在の家計の状況を見てみると、手取り月収27万円に対して、毎月24万1,000円の支出があります。住宅ローン完済後の65歳からは、5万6,200円のローン支払いが無くなることで、毎月の支出が18万5,000円程度に抑えられます。

とはいえ、ご相談者さんの場合、公的年金の見込み額が13万程度なので、差額の5万5,000円については貯蓄から取り崩すことになりそうです。ここを今から対策しておくと、老後の不安が少し解消できるでしょう。

そこでお勧めしたいのがiDeCo(イデコ)です。iDeCoは、個人型確定拠出年金といって、自分年金づくりの仕組みです。証券会社や銀行等でiDeCo口座を作って毎月一定額ずつ投資信託等で積立運用を行うのですが、投資した金額がその年の所得から差し引かれるため、所得税・住民税を節税する効果があります。運用期間中、受取時にも税金の優遇があります。60歳になるまでは途中で引き出せない点には注意が必要ですが、ご相談者さんの場合には60歳になるまで大きな支出は無さそうですし、あったとしても預貯金の範囲内でカバーできそうなので、問題ないでしょう。

勤務先に企業年金がない会社員の場合、iDeCoへの拠出可能額は月額2.3万円(企業型確定拠出年金がある会社員は月額2万円、企業型確定拠出年金と確定給付年金の両方がある会社員は月額1万2,000円)です。いつもは余ったお金をそのまま貯蓄に回していると思いますが、すでに貯蓄はしっかりあるので、iDeCoへの貯蓄可能額を上限いっぱい投資に回すことを提案します。

来年5月以降は65歳になるまで積み立てできるように

現状のiDeCoでは、60歳になるまで積み立てを行い、60歳からの10年間で年金もしくは一時金(組み合わせも可)で受け取りを開始するルールになっていますが、2022年5月以降は65歳になるまで積み立てができるようになり、65歳から75歳までの間に受け取りを開始するようになります。いまよりも投資可能期間が長くなり運用期間も長くなるので、50歳からでも始めやすくなります。

また、この制度改正では、iDeCo加入に際して勤務先との労使協定や規約の変更なども不要になるので、会社員の方もいま以上にiDeCoを利用しやすくなります。勤務先の制度的に加入が難しいようであれば、来年5月以降にチャレンジしましょう。

生活規模を大きくしなければ老後も問題なし

最後にもう一度、全体をまとめておきましょう。

現在2,000万円の預貯金をお持ちですが、このうち600万円を住宅ローンの繰上げ返済に回すと、現在1,500万円ある住宅ローンが900万円まで減らせます。残りの返済期間は10年短縮できるので、65歳にはローンが完済できるようになります。

50歳から65歳までの家計の収支は、手取り27万円が継続する場合、2.9万円×12カ月=34.8万円と、ボーナスからの貯蓄30万円をあわせた64万8,000円が年間の黒字ということになります。

このうち毎月の黒字の中から月額2万3,000円を、iDeCo口座を開設して運用を始めます。iDeCoは2022年5月から65歳まで積立が可能になるので、あと15年間非課税で運用ができることになります。

65歳時の金融資産は、住宅ローン繰り上げ返済後の1,400万円に、64.8万円×15年=972万円が加算されて、2,372万円(運用考慮せず)となります。これにどこかのタイミングでお母さまの生命保険1,000万円も加算されることになります。すでに持ち家があって合計3,372万円の金融資産が用意できていれば、生活規模を大きくしない、健康をなるべく維持することを心がければ生活していけるでしょう。

また、この中にはiDeCoの運用部分も含まれ、65歳以降に受け取りを始めることになります。公的年金が13万円なので、iDeCoを年金形式で受け取ると、毎月のキャッシュフローが改善され、取り崩している感覚を和らげることができます。

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