がん患者の『不安』には特徴が・・・精神腫瘍医に聞きました 両側乳がんになりました102

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7月8日(木)のピンクリボントークではこのコロナ禍でがんとうまく付き合っていこうというようなテーマで斗南病院の精神科長 上村先生にお話を伺いました。

その後の患者さんとのお話とともにフルバージョンはYouTubeをご覧ください。

https://youtu.be/D-j4RrGSgkw

コロナ禍で”ココロの悩み”増えている

コロナ禍で人との接点がなくなり、さらに精神的な悩みを訴える方が増えている、というお話をしました。

がん患者さんのこころのつらさは2つにわけられると上村先生はおっしゃいます。

『不安』と『気持ちの落ち込み』です。

上村先生『”不安”は基本的にはこれからどうなるかってことに対する不安で”気持ちの落ち込み”とは何かを失ったことによって起きる気持ちの落ち込みのこと。この二つを上手く解消していくことが、不安とうまく対処するための方法という風に思っています。』

先生のお話にはがんと言われても自分らしく過ごすためには?家族ががんと言われたときにできることもあるのでは?という気づきがありました。

不安とうまく対処する”5つのコツ”

上村先生『まず一つ目は自分のサインを知る。人それぞれ心の辛さを感じる時のサインっていうのがあります。

私は仕事が煮詰まってきたりすごいストレスなことがあると、とたんに完璧を求めるようになったり、極端にキレイにしたくなったりするんですね。それで余計イライラしたりするってことがあります。

人それぞれ特有のサインがあるので自分は気持ちが辛くなった時はこういう症状になるよってことをまず知ってる事が一つです。

2つ目はとにかく誰にでもいいので辛いんだよってことを伝えるってことが重要です。重い病、特にがんを抱えていると不安や心配な気持ちが強くなることはほとんどの人がなるわけですですから、主治医や看護師さんに伝えられなくてもこういったチャンネルを持っていれば、相談するサイトありますし、精神科医、心療内科医や心理士さんっていうのは心のケアの専門家で精神疾患の患者さんだけを見ているわけではないのでどうぞ気軽に相談していただければという風に思います。』

上村先生『3つ目は、睡眠の症状というのに着目してほしいと思います。睡眠障害っていうのは、もっとも敏感な心の辛さのサインです。なぜか眠れなくなったっていう時はやはりストレスを抱えているということが多いかもしれません。辛さから来る不眠は間違いなく改善します。辛さが解消することで不眠は改善します。最近は依存や習慣性のない新しい睡眠薬も非常に多く出てきています。安心して飲める睡眠薬というのを(専門医に受診して)試してもらえばいいかなと思います。』

『4つ目は”不安”は二つに分けて考えるべきだろうと言われています。不安の要素には”安心していい不安”と”心配な不安”にわけられます。最も重要なのは安心できる不安には理由が明確なもの。今日はこんな嫌なことがあったとか、先行きこういうことが不安であるという明確な理由があるとき。心配な不安の代表的なのは”なぜかわからないけど不安になる”ということです。

表現ができる不安か、対処できる不安か、他人にわかってもらえると感じられる不安か、長く続かない不安か、そして不安があることで大きく生活に支障をきたしてるからきたしていないかが大事なポイントです。

なんか不安だなって感じた時に、そうかこういう理由で不安なんだなっていう風に分かればまだ経過を見ていいと思いますが何で不安なんだか分からないって言うような気持ちになった時は誰かに相談したほうがいいのかなと、私はひとつの目安にしています。』

『5つめはすぐに相談したほうがいい不安があります。なんとなくこういった不安は全て自分の弱さから来るんじゃないだとか、今病気になったのは自分の過去の行いが悪かったからじゃないかとか、全てを投げ出したい、なんか考えることにすごく時間がかかるようになった。全く夕食のメニューも決められなくなった、みたいな症状は少し急いで相談したほうがいいのかなという風に思います。』

不安に冷静に対処するためにがん患者さんには共通する考え方の特徴がある、ということを伝えたいと先生は言います。これは不安に対して自分が冷静に対処するために必要なことだそうです。先行きのことがすごい不安だと言うようなことがありますがそれは目の前のことが不安だということが起点になってる事があります。

『“現在バイアス”っていう言葉があります。今日の1000円と1年後の1100円どっちがいいか。

今日の1000円のところに立っていると1年後の1100円ってよく見えない。ところが1年後の位置にある1000円から2年後の1100円はよく見える状況になっています。

がん患者さん達の考え方の特徴として、あまりに目の前のことを考えてしまうと遠い先の将来のことを考えられなくなってしまいます。

ですのですごい副作用の強い治療に飛びついちゃったり、将来的に結果があまり分からない民間療法に飛びついちゃったりするのはすぐ結果がでる、きょうの1000円の方を見過ぎてしまうためにちょっと乱暴な選択をするっていうことがあるということを少し覚えておいていただきたいと。』

『もう一つは損得の考え方です。私たちは利益よりも損をすることを2.5倍くらい感情として大きく感じると言われています。

1000円もらうときのうれしさのバーと1000円なくした時の悲しさのバーの距離は1000円無くした時の悲しさのバーの長さの方が2.5倍長くあるわけなんです。

例えば、化学療法を受ける時に何かを損したくない。例えば今の現状を失いたくないのでちょっと治療に踏み切れなかったり、そういうなことが起きてきます。副作用がちょっとでも出ると、すごく大きく何かを失ったように感じるので利益のある化学療法を受けられなかったり、治療を受けられなかったりします。こういった考え方の特徴というのも少し理解しておくべきだろうという風に思います。』

がん治療の選択に限らず、私たちがとる選択肢というのはほとんどこれまで経験したことがない選択肢なので正解がないテーマを相手にしている、と先生は話します。

『ネガティブケイパビリティ』のすすめ

上村先生『私がオススメしたいのはこのネガティブケイパビリティいう言葉です。ネガティブケイパビリティというのは”どうにも答えの出ない、どうにも対処しようもない事態に耐える能力”のことを言っています。

つまり急いで答えを求めずに、急いで理由を求めずに不確実さを受け入れることができる能力のことを言っています。』

『私たちは何かが起きると解決策を見出そうとしてそこに答えを求めていくがあまりに無力感を感じたり、イライラを感じたりしてしまいます。こういう時だからこそ正解を安易に求めないようにしていくということが必要かなという風に思っています。私達は緩和ケアの領域にいますと患者さんの命の長さや患者さんの生活の質、どっちをどのくらい大事にしていいかというのは答えがない問題を毎日扱ってきていました。

コロナ感染症がある、ないにかかわらず共通のテーマでして、皆さんも是非このことを意識していただければと最後にお伝えしたいと思います。』

□緩和ケアチャンネル

https://www.youtube.com/user/kanwacare

【上村恵一先生】

斗南病院 精神科長

精神科専門医・指導医、一般病院連携精神科専門医・指導医

臨床精神薬理学専門医・指導医、

日本サイコオンコロジー学会 登録精神腫瘍医

(文:阿久津友紀 乳がん患者)

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