<社説>広島原爆投下76年 核禁条約批准を約束せよ

 広島はきょう6日、長崎は9日に、米軍による原爆投下から76年を迎える。 核兵器を全面的に禁止する初の国際規範となる核兵器禁止条約が今年1月に発効して、最初の広島、長崎「原爆の日」となる。核なき世界の誓いを日本から国際社会に発信する日として、被爆体験の継承は重要性を増している。

 しかし、核廃絶の先頭に立つべき日本が核禁条約に参加していない。日本世論調査会の全国調査で、核禁条約に日本が「参加するべきだ」と答えた人が71%に上った。被爆国の責務として早期の条約批准を果たしてもらいたい。

 被爆の実相を世界と次世代に伝えることとともに、被爆した人々の救済もまだ終わっていない課題だ。時間を経過してから症状が現れるなど、放射能に起因する健康被害は他の戦争被害とは異なる特殊性を持つためだ。

 広島市は2日、原爆投下直後に降った「黒い雨」訴訟の原告へ、被爆者健康手帳の交付を始めた。一審に続いて広島高裁も原告全員への被爆者手帳の交付を認め、政府が上告を断念したことで判決が確定した。

 国が線引きにこだわってきた「特例区域」外の住民まで、被爆者援護法に基づく援護の手が差し伸べられた意義は大きい。一方で、体験者の高齢化が進む中で原告84人中14人は提訴後に亡くなった。訴訟継続を断念する判断は遅きに失したといえる。

 菅義偉首相の上告断念の談話には「過去の裁判例と整合しない点があるなど、重大な法律上の問題点があり、政府としては本来であれば受け入れ難い」とあり、救済拡大が心からの対応なのか疑問を拭えない部分がある。

 その菅首相は6日の広島平和記念式典への出席に伴い、「黒い雨」訴訟の原告らとも面会する方向だという。上告を断念した自身の政治判断を誇示するためのパフォーマンスであってはならない。

 首相談話は「世界唯一の戦争被爆国として、核兵器の廃絶と世界の恒久平和を全世界に訴えていく」と締めくくっている。その言葉に偽りがないのであれば、核禁条約批准を広島の地で約束することで被爆者に寄り添うべきだ。

 今年は、東京五輪期間と重なる原爆の日でもある。広島市や前市長の秋葉忠利氏は、原爆投下時刻の午前8時15分に合わせ、選手や大会関係者に黙とうを呼び掛けるよう国際オリンピック委員会(IOC)に要請した。しかし、バッハ会長は6日に黙とうする方針はないと返答した。

 「平和の祭典」を掲げる五輪であり、核兵器の恐ろしさを全世界で共有することが被爆国で開催する意義であろう。何の発信もないならば、五輪の在り方と、政府がコロナ禍でも日本開催にこだわってきた意味とは何なのかが一層問われる。原爆の日に合わせた行動の実施を、菅首相はIOCに働き掛けるべきだ。

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