涙の銀メダル 〝美しき空手家〟清水希容の「真面目」すぎる素顔

銀メダルを獲得した清水希容の演武

努力の証しが垣間見えた涙だった。東京五輪・空手女子形決勝(5日、日本武道館)は、清水希容(27=ミキハウス)がサンドラ・サンチェス(スペイン)に敗れ、銀メダル。昨年12月の全日本選手権で8連覇を逃すなど、近年は苦しい戦いを強いられながらも、五輪初採用となった空手で日本人メダル第1号となった。悲願の金メダルにはあと一歩届かなかったが、空手界の歴史に新たな1ページが刻まれた。その美しき空手家の素顔とは――。

5年分の感情が込み上げてきた。大会前に「今までの空手人生の思いをぶつけたい」と語っていた清水は、決勝で得意形の「チャタンヤラクーサンクー」を披露して27・88点をマークしたが、ライバルのサンチェスに0・18点及ばず。試合後には「たくさんの人たちが応援してくれたのに、勝てなくて本当に申し訳ない。ここまで来るのにすごくしんどかったので、勝ちたかった」と声を震わせた。

どうしたら強くなれるのか――。常に自問自答を繰り返してきたからこその銀メダルだ。周囲の関係者が「真面目です」と口をそろえるほど、練習熱心なのが清水の魅力。東大阪大敬愛高時代の恩師・山田ゆかり氏も「高校の時、大学の時もだと思うんですけれども、ずっと空手漬けなんですよね」と舌を巻くが、真面目過ぎるゆえの弊害もあった。「空手以外のことを全くやっていなくて、もっと遊びがあったり、余裕があったりしたほうが伸びるだろうなと思っていた」

そこで、山田氏は清水にあるアドバイスを送ったという。

「大学に入ってからは『空手だけじゃなくて、いろんなことにチャレンジしたら』と伝えた。例えばバレエを見に行ったり。何か違うスポーツを見たりして、自分の刺激にしたり、何かを吸収できたら」

高き向上心を持つ清水は恩師の言葉に耳を傾けた。「呼吸法や柔軟性など、いろんなところに刺激を与えられるし、リラックス効果もある」とヨガに取り組んだり、写経にも挑戦。フィギュアスケート男子で五輪2連覇を達成した羽生結弦(ANA)の滑りやメンタル面も参考にした。かつて本紙に「表現力やヒザの使い方が参考になる。意志の持ち方、気持ちの持ち方がすごい勉強もなる。彼は求めているものがすごい高くて、自分にもストイックな姿勢を見習いたい」と話していた。

他競技を参考に、五輪延期によって生まれた〝空白の1年〟には真摯に空手と向き合った。「今年はいかに自分をどれだけ出せるか」と、男子形の金メダル候補・喜友名諒(劉衛流龍鳳会)が拠点を置く沖縄へ足を運び、約4か月間武者修行に励んだ。

さらに、棒を使ったユニークな練習も敢行。清水が師事する古川哲也コーチによると「空手は素手で戦う部分とまたそれを補う、補完する上で武器術と古武道的なものが並行してある。棒を使用することで空手の素手の技も強くなるし、より技への理解が深まることもある」。金メダルを取るために、貪欲にレベルアップを目指してきた。

ただ、目標を現実に変えることはできなかった。「もっと気持ちを出せたんじゃないかな。もっといい演武ができたのでは、という後悔がある」と唇をかんだが、ここですべてが終わったわけではない。「しっかりと次の世界選手権(11月)で取り返すという思いを持って挑みたい」。悔しさをバネに、今度こそライバルの壁を打ち破る。

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