「ぬくもりや癒やし感じて」 アニメーション映画美術家 山本二三さん【インタビュー】

「作品を通じて故郷をPRしたい」と話す山本さん=長崎市、県美術館

 長崎県五島市出身のアニメーション映画美術家、山本二三さんの個展「『五島百景』完成記念 山本二三展 the BEST」が長崎市の県美術館で開かれている。「天空の城ラピュタ」や「時をかける少女」などの名作アニメで手掛けた背景画に加え、約10年をかけて五島列島の風景を描き続けた作品群「五島百景」も一堂にそろった。個展や故郷を描くことへの思いを聞いた。

 -個展の見どころは。
 会場を見てきたが、やはり原画は画集の絵よりも柔らかさやぬくもりを感じられる。例えば「もののけ姫」のシシ神の森では、ぼかしのテクニックを使って歩くと足がめり込むような地面の硬さを表現した。絵の中に視線が入っていくように描く技術を感じてほしい。作品になるときは切り取られる「バレ」という部分を見せて展示した背景画もある。描いた日の気分や絵の具の湿り具合などが分かり、勉強になるはず。

 -五島百景を描いた理由は。
 15歳で島を離れ、自転車で行ける範囲の五島しか知らなかった。だが23歳ごろに帰省した際、友人と車で島内の大瀬埼灯台などを巡り、こんなに素晴らしい所だったのかと感じた。それから「いつか五島を絵にしたい」と思ってきた。

 -制作の思い出は。
 地塗りから、少しずつピントが合うように五島の風景が出来上がる過程がとても楽しかった。背景画では動くものを描かないが、五島百景では波の動きや流れも表現できる喜びもあった。近年は日本画の作品で新しい表現を勉強したり、読書の時間を増やして文化や歴史の知識に触れたりしており、新たな挑戦や学びを反映した作品群になった。

 -苦労したことは。
 年齢的に体力や集中力がなくなってきていた。「百景」ではなく、東海道五十三次のように「53」にしておけばよかったとも思う。だが、修業を続けた伝統的なアニメーションの技法で、地元の人々の心のよりどころになっている風景を描きたかった。特に大変だったのは人物を描くこと。デッサン力を求められるからだ。実家の集落で初盆に披露する(五島伝統の念仏踊りの)チャンココを題材にした作品では、青年らのにこやかな表情や動きを表現するのに時間がかかった。

 -県民へのメッセージを。
 パソコン上で絵を描く時代に(絵の具と筆を使った)「アナログ」な方法で制作を続けているが、アナログという言葉には「ゆったりとした」という意味もあるらしい。新型コロナウイルス禍で何かと窮屈な中、(展覧会を通じて)安らぎや癒やしを感じてもらいたい。故郷には感謝しており、誇りを持っている。作品を通じてPRしたい。

 「『五島百景』完成記念 山本二三展 the BEST」は9月5日まで長崎市出島町の県美術館企画展示室で開催。長崎新聞社、県美術館主催、大誠ハウス特別協賛。チケットは一般1200円、高校・大学・70歳以上800円、小中学生600円(いずれも土日祝日は100円増し)。県美術館(電095.833.2110)。

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