家庭の事情で野球を諦める子どもを減らしたい 元高校球児が差し伸べる支援の手

総合住宅メーカー「株式会社 大倉」の清瀧静男氏【写真:中戸川知世】

資本金30億円企業のトップ、清瀧静男氏が全面支援する野球用品贈呈制度

一言で言えば「恩返し」なのかもしれない。社会人まで野球と真剣に向き合った日々、野球から生まれた縁は、企業の代表取締役となった今でも大いに生かされている。大阪に本社を置く総合住宅メーカー「株式会社 大倉」の清瀧静男氏は「このくらいのことは、ずっとできると思います」と笑顔でうなずく。

このくらいのこと、とは何か――。

ポニーリーグが昨年12月に発表した「SUPER PONY ACTION パート2」。この中で新たに盛り込まれた取り組みの1つが「ポニーファミリー サプライ用品助成制度」だ。コロナ禍の影響で経済的な負担が大きくなった家庭の子どもたちに、スパイクとグラブの引換券を贈呈する制度で、家庭の事情で野球を諦めなければならない子どもたちを救いたいという想いが込められている。

この制度を全面サポートするのが、大倉グループというわけだ。

対象となるのは、世帯収入が400万円以下の家庭(日本学生支援機構の給付奨学金制度に定める家計基準を参考)、もしくは障害等級1級か要介護者が同一世帯に居住する家庭で、証明書を提出するとSSK野球用品引換券が贈呈される。選手が日本代表チームに選ばれた場合には、ユニホームなど購入しなければならない用品も贈呈。金銭的な心配をせずに、子どもたちが好きな野球に思いきり打ち込める環境をサポートするものだ。

清瀧氏自身、和歌山県で過ごした子どもの頃から野球漬けの日々を過ごした。高校は強豪・近畿大学附属高へ進み、1992年、93年には夏の甲子園に出場。3年時には主将を務めた。卒業後は社会人野球の新日鉄堺へ入ったが、1年目のオフに休部が決まり、新日鉄君津へ移籍。元ソフトバンクの松中信彦氏とともに主軸を任されたほどだった。

プロになりたい想いもあったが、怪我が原因で現役を引退。活躍の場を野球からビジネスに変えた。ミキハウスを経て、2008年に大倉へ入社。創業59年、資本金30億円の総合住宅メーカーで代表取締役CEO兼COOに就くと、AIとIoTの技術を実装したスマートシティを開発する地方創生プロジェクトや、ストーカーやDV対策が可能な新しい防犯システム開発、社会貢献を念頭に置いた事業にも取り組んでいる。

新しいグラブが買えずにボロボロになるまで使う「そういう美学はやめましょう」

ポニーリーグで道具提供支援をすることになったのは、会食の席での何気ない会話がきっかけだった。

「たまたま食事の席で中学硬式野球の話になったんですよ。そこで『道具が買えなくて野球を辞める子も多いんですよ』という話を聞きました。今はグラブでもバットでも、軽く4、5万円はするんですよね。コロナ禍の影響もあって、家計への負担は大きく、とても買えない家庭もある。それでは子どもがかわいそうだから道具の支援をしましょう、と。会食で使うお金を子どもたちの支援に回した方がええわってね(笑)」

知人を介してスポーツ用品メーカー・SSKの協力を仰ぎ、「サプライ用品助成制度」をスタート。年間600万円の支援を予定していたが、初年度から予算を超える応募が寄せられた。反響の大きさに驚きつつ、予算枠を拡大して応募者全員に道具が行き渡るよう手配した。

「新しいグラブが買えずにボロボロになるまで使っていたという美学はやめましょう、時代を変えていきましょう、と。なんか悲しい気持ちになるのは嫌じゃないですか。今後は世帯収入の基準をもっと下げて、会社が潰れるか、僕が死ぬまでやろうかなと(笑)。いや、このくらいのことは、ずっとできると思います」

怪我が原因で辞めた野球。「少し前まで野球と向き合うことができなかったんですよ。怪我で辞めて悔しい想いをしているんで。でも、今でもその経験は生きているんですよね」。1人でも多くの子どもに野球の楽しさを味わってもらいたいと、ポニーリーグを通じて支援することを決めた。

これからも様々な形で野球を愛する子どもたちを支援していくつもりだ。

「困っている時に困っていると言える雰囲気や環境作りをしないといけない。助けてもらった人は別の人の手助けをしますから。そういう想いを繋いでいければ」

育ててもらった野球への恩返し。善意のバトンは次世代に繋がれていく。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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