<社説>喜友名選手金メダル 沖縄史に新たな金字塔

 初めて五輪に採用された沖縄生まれの競技において、沖縄で生まれ育った選手が頂点に立った。沖縄の歴史に新たな金字塔が打ち立てられた。 東京五輪男子空手形で、県出身選手として初めて金メダルを獲得した喜友名諒選手に最大限の賛辞を贈る。

 喜友名選手は開幕前から日本選手団の中でも金メダル候補最有力といわれた。世界一に幾度も輝いた実力あっての評価だが、勝利が当然のような重圧もあっただろう。その中で実力を出し切った。心技体ともに充実して大舞台に臨めたのは、師の佐久本嗣男氏とともに不断の努力を続けてきたからだ。

 裂帛(れっぱく)の気合がほとばしる喜友名選手の演武は、新型コロナウイルスのまん延などにより沈滞する空気を一掃するかのような迫力に満ちあふれていた。

 今まで空手になじみの薄かった人も、テレビ中継などを通し、空手の神髄、その魅力に触れたと思う。

 喜友名選手に代表される一流の技は見る者に感動を与える。突きや蹴りといった身体の動きの迫力。見えない敵を見据える眼光の鋭さ。技術論を超えて空手が持つ魅力を発信しているからだ。

 東京五輪の公式ホームページによると、世界空手連盟(WKF)には194の国と地域が加盟し、競技人口は約6千万人という。

 国際柔道連盟に加盟するのは約200の国と地域だ。柔道の競技人口は統計がないが、同じ日本発祥の競技として空手は柔道とほぼ肩を並べる存在といえるだろう。

 喜友名選手の活躍をきっかけに、国内さらには国際社会へ沖縄発祥の空手が一層広がることを期待する。それは単に競技としてでなく、沖縄の心を伝えるものとしてだ。

 近代空手道の父と称される船越義珍は「空手に先手なし」との言葉を残している。剛柔流空手の創始者・宮城長順は「人に打たれず、人打たず、ことなきを基とするなり」と説いたという。

 空手家が鍛えるのは人を打つための拳ではない。無用の敵をつくらず、己を律する心を鍛えているのだ。

 空手を始めるきっかけは喜友名選手への憧れでもいい。そこから沖縄の空手が伝える心の在り方へ学びを深めてもらいたい。争いを回避するために自らを鍛え、他者を尊重する空手の精神は現代にも通じるからだ。実際に海外から多くの空手家が沖縄へ学びに来る。それを一段と高めていくのは発祥の地である沖縄の務めともいえる。また指導できる人材は県内に豊富にいるはずだ。

 残念ながら次回のパリ五輪で空手は採用されていない。しかし県内では国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産登録へ向けた取り組みも進む。2028年のロサンゼルス五輪で再び沖縄空手が世界に発信できるよう空手界に奮起を促したい。

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