東京五輪の陸上男子400メートルリレー決勝(7日、国立競技場)で、日本はバトンパスがつながらず無念の途中棄権に終わった。悲願の金メダルを狙った頂上レースの舞台裏で、いったい何が起きていたのか。
9レーンから1走の多田修平(住友電工)が好スタートを切ると、2走の山県亮太(セイコー)は背後から多田が近づいてくるのに合わせて走り出し、左手を伸ばした。しかし、バトンを手にすることはなくテークオーバーゾーンを通過。2人はしばらくその場から動くことができなかった。
予選を38秒16の1組3着だった日本は、決勝の目標タイムを37秒50に設定。ただし、そのためには予選のような〝安全バトン〟ではなく極限のパスが必要だった。くしくも金メダルのイタリアのタイムは37秒50だった。
レース後、日本陸連の土江寛裕短距離強化コーチは「金メダル、もしくは失格のギリギリのラインを攻めた結果」と振り返ったが、山県は「リスクをとる戦いだったが、受け入れるには時間がかかる」と肩を落とした。それでも、3走を任されていた桐生祥秀(日本生命)は「たとえメダルを取っても銀、銅では満足していなかった。金しか目指していなかったので、そのためにはあのようなパスが必要だった。これは4人の責任」と言いきった。
また、桐生は日本が得意としてきたバトン技術の向上が限界に近づいていると指摘。その上で「今回の五輪を見ても走力で離されている。僕自身、9秒台を1回しか出していないのでコンスタントに、こういう舞台でも出して流れをつくることが大事」と強調した。
一方で、日本チームは2019年世界選手権で37秒43の日本新記録をマークするなど、本番に向けて順調に強化を続けてきたが、コロナ禍による大会の1年延期で「(チームとして)積み上げてきたものがなくならないとしても、勢いを失ってしまう」(陸連関係者)との声も出ていた。どの国も同じ条件とはいえ、コロナ禍がリレー侍へ与えた影響は少なくなかったようだ。