【レスリング】向田真優 婚約者コーチと “有言実行 ”の金! 交際認めた「恩人」語るカザフスタン秘話

「恩人」との約束を果たした向田真優

レスリング女子53キロ級級決勝(6日、幕張メッセ)で、向田真優(24=ジェイテクト)は龐倩玉(中国)を下し、初出場で金メダルを獲得した。セコンドに就いた婚約者の志土地翔大コーチ(34)と二人三脚で迎えた大舞台で、見事に2人の夢を実現させた。両者の交際を反対する声が大きかったなか、カザフスタンで交際許可を出し、夢実現を後押しし続けた後見人が〝秘話〟を明かした。

悲願達成に涙がこみ上げてきた。志土地コーチと抱擁後、向田はインタビューで開口一番「ここに来るまで、2人で(練習)できる環境をつくってくれ、感謝しています」と恩人たちの名前を挙げた。真っ先に出たのがJOCエリートアカデミーのチーフマネジャーで、当時日本レスリング協会事務局長だった菅芳松氏(74)。2人の交際の〝後見人〟だ。

向田と志土地コーチは、至学館大で選手とコーチとして出会い、2019年に恋愛関係が発覚した。志土地コーチが「僕たちの関係は賛否両論あると思う」と語るように、学生と指導者ということもあり「五輪に向けた大事な時に何をやっているのか」「他の選手への影響が大きすぎる」とレスリング界でも交際を反対する声は少なくなかった。

同年9月、カザフスタンで行われた世界選手権で向田は銀メダルを獲得し東京五輪代表に内定。現地の体育館で、菅氏は向田と志土地コーチに「お話があります」と呼ばれた。2人は「私たちの交際を許可していただけませんか。必ず東京五輪で金メダルを取ります」と切実に訴えてきた。

菅氏は小学校時代の向田を発掘し、エリートアカデミーにスカウトした人物。「いろいろな人に『菅さんの許可がなければ付き合うことは認められない』と言われたそうですよ。真優は一度こうと決めたら貫くタイプ。私が三重からアカデミーに連れてきた。助けてあげたかった」。悲壮な覚悟で願い出る2人に、交際許可を出した。両者は同年10月に婚約した。

向田が大学卒業後、2人は東京に拠点を移した。練習場所を探す際も、菅氏は向田が希望する安部学院高の許可を得て、環境を整えた。日本代表でも志土地コーチが強化コーチとして引き続き合宿に参加できるよう、関係者に「外さないでほしい」と頼み込んだ。「今はアスリートファーストの時代。欧米の選手団ではパートナーが指導者という例はたくさんある」(菅氏)。志土地コーチが向田の専属コーチとして、常に指導できる体制を整えた。

菅氏の努力のかいあり、向田は見事にエリートアカデミー初の五輪金メダリストとなった。「最高ですよ。予算もないなか、試行錯誤してやってきたのは五輪金メダリストを出したかったから。真優は私たちの夢をかなえてくれた。中学生のころは、泣きべそでね。負けるとすぐ泣くんです。でも、泣きながら『練習お願いします』と訴えてくる。負けず嫌いなんですよ」と、教え子の快挙を手放しで喜んだ。

向田は「2人の夢をかなえることができて、とてもうれしいです」と目を輝かせた。カザフスタンで恩人に誓った約束を、見事に果たした夜だった。

© 株式会社東京スポーツ新聞社