観光復活のカギは地域鉄道にあり レトロ電車、スイーツトレインなど 「地域鉄道フォーラム2021」から(前編)【コラム】

地域鉄道フォーラムのトークセッションに顔をそろえた、トキ鉄の鳥塚亮社長、嵯峨野観光鉄道の井上敬章社長、東京女子大の矢ケ崎紀子教授(コーディネーター)、津軽鉄道の澤田長二郎社長=左上から時計回り=。各社の取り組みは後編で紹介します

季節は夏真っ盛り――。本サイトをご覧の皆さんは、乗り鉄に、写真撮影に、沿線散策にと、鉄道紀行を考えていた方も多いでしょう。ところが新型コロナは一向に収束せず、感染者は全国規模で増え続けます。旅行には厳しい環境が、もう少し続きそうです。

行政や産業界が描くのは、もちろん早期の感染収束、そしてコロナ後のニューノーマル(新しい日常)社会で、経済や観光の復活を「鉄道」に託すシナリオです。振り返れば、コロナ前の日本は空前といわれる鉄道ブームに沸き、観光列車は日本人、訪日外国人を問わず地域観光のシンボル的存在でした。今回は、これからの鉄道を関係を考える好材料として、オンライン開催された「地域鉄道フォーラム2021『観光と鉄道』」を、2回に分けて報告したいと思います。

主催は交通環境整備ネットワーク

基調講演とトークセッションのフォーラムは、交通環境整備ネットワークが主催し、国土交通省鉄道局が後援しました。交通環境整備ネットワークは、本サイトでも紹介させていただいた「鉄道写真詩コンテスト」を主催するなど、一般の人たちが鉄道に親しむ活動に力を入れます。フォーラム名の地域鉄道は地方鉄道のことで、国はこの呼び名を採用します。

前編の基調講演では、観光庁の片山敏宏観光戦略課長が観光と鉄道の政策プランを紹介しました。2020年の観光産業はコロナで総崩れでしたが、それでも追い風が吹いた時期もありました。

それは2020年秋口の「Go To トラベル」。政府の旅行支援事業は感染を拡大させたとの批判もありますが、国はコロナ収束を見極めながらGo Toを再開して、経済や観光を立て直す意向です。

全国95事業者が運行する地域鉄道

地域鉄道の輸送人員の推移。減少しているのは事実ですが、2010年度以降は持ち直しの動きも見て取れます

ここから話題を鉄道に移し、まずは地域鉄道の全体像を見ます。国が地域鉄道とするのは全国95社で、中小私鉄(民鉄)49社、第三セクター鉄道46社。営業キロ最長は岩手県の三陸鉄道の163.0キロ、最短は和歌山県の紀州鉄道の2.7キロです。

片山課長の講演で目に止まったのが、「地域鉄道の輸送人員の推移」。グラフを見れば一目瞭然、2010年度を底に明らかに持ち直しの動きが見られます。記憶をたどれば、このころから訪日外国人が増え、日本人も含め地域鉄道に乗車する旅行者が目立つようになりました。

鉄道を観光資源化する「魅力的な滞在コンテンツ造成」

こうした総論を並べても本サイトをご覧の皆さんの心に届かないと思いますので、鉄道を観光資源化する取り組みを具体的に見ましょう。最初は、国が助成する「誘客多角化などのための魅力的な滞在コンテンツ造成」。魅力的な滞在コンテンツ――、何ともお役所的な物言いですが、要は鉄道を観光・旅行の目的化する取り組みに対する国の支援制度です。

通常の鉄道は観光目的地までの移動手段ですが、そこから一歩踏み出し、鉄道そのものを観光してもらう。例えば、一般的な観光旅行に、車両や施設(駅、車両基地など)の見学プログラムを追加すれば、鉄道ファンはもちろん、鉄道に関心のない一般旅行者にも参加してもらえるでしょう。それが、魅力的な滞在コンテンツというわけです。

琴電のレトロ電車に乗車して大名行列を見る

琴電・町歩きツアー点描。レトロ電車と仏生山大名行列のワンシーン

トップに紹介されたのは、新潟県の三セク・えちごトキめき鉄道の「直江津駅扇形機関庫を中心とした魅力創出推進事業」です(タイトルは適宜簡略化しています)。しかし、トキ鉄の鳥塚亮社長はトークセッションに登壇したので、報告は後編に回し、まずは「公共交通機関・ことでんの電車で行く町歩きツアーと仏生山大名行列」。香川県高松市の旅行会社・穴吹トラベルが、2020年11~12月に催行しました。

琴電(以下、漢字表記します)は、鉄道ファンにおなじみの香川県の地域鉄道。ツアーは穴吹トラベルを中心に、高松琴平電気鉄道(琴電)と、仏生山地区コミュニティ協議会、仏生山大名行列運営委員会、仏生山観光協会、仏生山まちプランニングルームの地域観光・街づくり団体が共同企画しました。

ツアーの目玉は、琴電レトロ電車の貸切乗車。2020年秋に4両が在籍していた琴電のレトロ車は、いずれも戦前生まれ。引退が迫っていました。普通に走らせたのでは、鉄道ファンが殺到して〝三密〟になってしまう。そこでツアーは、参加者を10人(車両定員は96人)に限定して、感染拡大を防止しました。

もう一つのポイントは「仏生山大名行列」の見学。初代高松藩主の松平頼重が菩提寺の法然寺に参詣する様子を再現した秋のイベントですが、2020年はコロナのため中止。そこでコミュニティ協議会、大名行列運営委員会、観光協会などはツアー客のためにメンバーを30人程度に絞った〝ミニ行列〟を再現。あわせて、AR(拡張現実)も活用しながら、参加者が迫力いっぱいの写真を撮影できるように工夫しました。

鉄道ファンは祭り好き――の定説はありませんが、レトロ電車と大名行列に参加者は大満足。ツアーは、観光客の眼を高松市内中心部から、郊外に向けさせるきっかけにもなったようです。

余談ですが、琴電の検車区や車両工場は仏生山にあるので、その点も鉄道ファンの心に刺さったかもしれません。事業は、2年目の2021年度も継続されます。

農林水産業や商工業との連携で鉄道観光資源を磨き上げ

次の2件は、同じく国の事業になる「地域の観光資源の磨き上げを通じた域内連携促進事業」の地域鉄道モデルです。「磨き上げ」も観光庁が好んで使う言い回しで、鉄道事業者が地域の農林水産業や商工業とタッグを組み、製品やサービスを観光資源化する取り組みを表します。

フォーラムでは、茨城県のひたちなか海浜鉄道の「ほしいもカフェトレイン運行によるほしいもツーリズム」、熊本県のくま川鉄道の「人吉復興ツーリズム~レールがつなぐ人・文化・歴史、くま川鉄道沿線ストーリー」が報告されました。

海浜鉄道の延伸ルートをウォーキング

ひたちなか海浜鉄道のキハ205と、ほしいもスイーツ。国鉄タイプの気動車は岡山県の水島臨海鉄道から購入しました

ひたちなか海浜鉄道は、こちらも説明不要の地域鉄道。茨城交通湊線を三セクの海浜鉄道が引き継いで、2008年4月に営業開始しました。最近の話題では2021年1月、現在の終点の阿字ヶ浦から国営ひたち海浜公園西口付近までの、約3.1キロの路線延伸が国交省から認可を受けました。

ほしいもカフェトレインでは、列車内でケーキのような、ほしいもスイーツを味わいながら阿字ヶ浦へ。到着後は、ウォーキングイベントで海浜公園まで歩き、海浜鉄道延伸に思いをはせました。

後日談では、ツアーの模様をオンライン配信。今回はバーチャルだったツアー客にも、次回の来訪を促しました。

くま鉄の魅力を地元の高校生が語る

くま鉄のレールサイクルと新しい地域観光拠点「発船場人吉・球磨川」、球磨川を渡るくま鉄の列車

人吉復興ツーリズムは、2020年7月の球磨川はんらんで被災した熊本県の三セク鉄道・くま川鉄道(くま鉄)が舞台。くま鉄は現在、全線で運休中ですが、鉄道を忘れないでもらおうと、相良藩願成寺―川村で線路上を歩く「レールウォーク」のほか、軌道自転車で散策する「レールサイクル」のイベントを実施します。

地域住民との連携では、地元の高校生がくま鉄の魅力を語る「くま川鉄道沿線ストーリー」が話題。沿線では、球磨川くだり観光船の発着場が観光拠点「HASSENBA HITOYOSHI/KUMAGAWA(発船場人吉・球磨川)」にリニューアルされ、観光復活のシンボル的存在になっています。

後編では嵯峨野トロッコ列車などをご案内

ということで、前編はここまで。後編ではトークセッションから、トキ鉄、京都府の嵯峨野観光鉄道、青森県の津軽鉄道の観光振興策を紹介したいと思います。

後編の予告を少々。セッションのコーディネーターを務めた東京女子大学現代教養学部の矢ケ崎紀子教授は、「近距離やブロック内のマイクロツーリズムが増えているのが、最近の傾向。少人数、個人旅行、分散、戸外・自然などのキーワードに、観光復活のカギがある」と話していました。

本文では触れませんでしたが、国交省鉄道局の木村大鉄道事業課長のあいさつでは、スイスやイギリスの観光鉄道が写真で紹介されました

文:上里夏生
(画像は全て「地域鉄道フォーラム2021」の発表を筆者がキャプチャしたものです)

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