菅内閣支持率は過去最低水準、今後更に下落も。衆院選はどうなるのか(米重克洋)

下落の傾向を強める内閣支持率

菅義偉内閣の支持率は、7月半ばからの新型コロナウイルス感染再拡大に伴って、下落の傾向がより一層鮮明になっている。選挙ドットコムとJX通信社が7月10日・11日に行った合同調査では、「強く支持する」もしくは「どちらかと言えば支持する」とした人は27.9%(前月比-1.0pt)だった。一方で、「どちらかと言えば支持しない」「全く支持しない」とした人は46.6%(+0.9pt)となっている(いずれも電話調査の結果)。

同様に、7月中旬以降に行われた各社調査でも菅内閣の支持率は下落し、過去最低水準となっている。例えば朝日新聞が7月17日・18日に行った世論調査では支持率は31%(前月比-3pt)となり、発足以来過去最低だった。また、その翌週の23〜25日に行った日本経済新聞の世論調査でも、支持率は前月より9ポイント下落して34%となった。日本経済新聞の調査は、中間的な回答をした有権者に改めて「お気持ちに近いのはどちらか」といった質問を投げかける方式をとっているため、支持率も不支持率も他社より高めに出ることが知られているが、それでも支持率は3割強にとどまり、9ポイントもの下落幅を記録した点に注目すべきだ。さらに言えば、同じ調査で、自民党の政党支持率は38%と菅内閣の支持率を上回っていることから、菅内閣は与党支持層からの支持さえも不安定であることが窺える。

実際、選挙ドットコム・JX通信社の7月の合同調査で、自民党支持層に占める菅内閣の支持率は約6割弱にとどまっている。また、翌週の朝日新聞の世論調査でもやはり菅内閣の自民党支持層に占める支持は6割強だった。このように、時の政権が与党支持層を十分に固めきれないことは、選挙結果に大きく影響する。

都議選での伸び悩み―「菅総裁」で支持層を取りまとめられるのか

先の都議選では、自民党が都民ファーストの会を抑えて第一党に返り咲いたものの、議席数は半数に遠く届かない33議席にとどまった。朝日新聞が行った出口調査では、自民党を支持する有権者のうち、自民党候補に投票したと答えた人は67%にとどまっている。残りの3割のうち半分強は、事実上知事不在の選挙だったにも関わらず「小池都政の知事与党」としてのカラーを前面に押し出した都民ファーストの会に流れた。「菅総裁」で支持層を取りまとめられるのかどうか、自民党議員も不安に感じたのではないだろうか。

安倍政権の後半期、森友加計問題の余韻の中で行われた2019年の参院選でも、自民党が事前の世論調査で示されていたほどの得票率を得られなかった。支持層を十分に取りまとめられなかった結果、とりわけ都市部の選挙区で同党候補が最下位に滑り込んで当選する現象が見られた。大阪では自民党は候補を元府知事の太田房江氏1人に絞り込んだにも関わらず、強気に2人を擁立した日本維新の会が1、2位を独占し、太田氏は4番手の最下位当選だった。同様に、隣の兵庫県でも定数3のところ、自民党の加田氏は3位につけて、立憲の安田氏を小差でかわした。東京でも、定数6人のところ、5番手から7番手の候補がデッドヒートを演じた結果、自民2人目の候補である武見氏がかろうじて6番手に滑り込み当選となった。

参院選は中選挙区制であり、定数3の県区なら3位内に入れば当選となるため、当選順位がどうあれ見かけの議席数に与える影響は少ない。そのため、こうした「成績」の微妙な悪さが然程政権のモメンタムを削ぐことはなかったが、同じことが小選挙区で起きると選挙結果は激変しかねない(付け加えると、当時の安倍内閣の支持率は今の菅内閣の支持率よりもかなり高い)。これこそが「野党共闘」で統一候補の擁立を模索する立憲民主党など野党各党の戦略でもある。

「ゲームチェンジャー」は現実となるか

政権にとって好材料があるとすれば、その野党が未だ致命的に弱く、枝野氏ら野党の「首相候補」がそのプレゼンスを決定的に欠いていることだ。更には、ワクチン接種の進捗で以後の感染拡大防止が期待できる集団免疫に近づく、といったことも挙げられる。しかし、ウイルスの動向は世論の動向以上に予測が難しい。いわゆるデルタ株は、ワクチン接種が進んだ国でも猛威を奮っており、我々がかなり近い時期にウィズコロナを脱出できるという希望を打ち砕きつつある。まさに「ゲームチェンジャー」だ。

このデルタ株により、これまで感染者数を減らすための最大の政策的オプションとして機能していた(ように見えた)緊急事態宣言が、今回は上手く機能していない。こうした状況が続くと、政権支持率の上昇は当面見込みにくい。特にオリンピック閉幕後は、テレビ報道の話題も専らコロナ中心となり、高齢層を中心に有権者の警戒感や不信感を煽るものになる可能性が高い。これらは明確に政権の足を引っ張ることになる。

そうした中でも、衆議院の任期満了は否応なしに近づいてくる。もし、来る総裁選が解散より前に行われて、自民党が再び菅首相を総裁に選出した場合、衆院選はどうなるのか。恐らく、従来の安倍政権下のような自民党一強の結果にはなりにくいだろう。尤も、野党共闘の枠組みで、枝野氏らが削り取れる与党支持層は相当限られるのだが、小池知事のように現に直近の選挙で与党支持層を削り取った実績のある「ゲームチェンジャー」の登場も考えられないわけではない。更に、現在の与野党のみの構図を前提としても、相対的に無党派層の多い大都市や、野党支持層の多い地域では、オセロのように議席が入れ替わる可能性もある。総選挙後の国政は与党が3分の2を占める「安倍一強」の頃からは打って変わって、再び絶えず政局の足音がする、政治の季節に入るかもしれない。

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