『山の日』世界文化遺産 関西二大霊峰から捧げる ~疫病退散への祈り 比叡山・高野山 ~

新型コロナウイルス感染急拡大の中、2度目の夏「山の日」を迎えた。

【写真】『山の日』世界文化遺産、関西二大霊峰から捧げる~疫病退散への祈り~

比叡山頂から琵琶湖を望む
高野山・高野七口の一つ「不動坂口」女人堂がある

平安の高僧、最澄と空海が唐で密教を学んだ。最澄は788(延暦7)年、比叡山に一乗止観院(後の根本中堂)を創建、空海が真言密教の根本道場として高野山の下賜を時の嵯峨天皇に願い出て、勅許を得たのは816(弘仁7)年。以来1200年もの歳月が流れた。関西の二大霊峰、比叡山と高野山。世界文化遺産にも登録されて久しい。

伝教大師・最澄 (真影・延暦寺大講堂)
弘法大師・空海(金剛峯寺金堂)

この独特な空間に触れたいと、とりわけヨーロッパから多くの人々が訪れるようになった。山と自然、そこに流れる密教という神秘に遭遇するフランス人やドイツ人、イタリア人…「ヨーロッパでは国境をまたげば感じ方、表現が違う」と話したのは高野山のスイス人僧侶。しかしコロナ禍でその姿を見ることはできない。こうした中、疫病退散の願いを込め、粛々と法要が営まれている。またその発信のあり方も変わった。

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1200回忌を迎えた伝教大師・最澄の遺徳を偲ぶ「伝教大師一千二百年大遠忌・御祥当(ごしょうとう)法要」。2021年6月、比叡山延暦寺(滋賀県大津市)で3日間営まれた。

大遠忌は50年に1度営まれ、 この法要に先立ち、最澄が灯して以来1200年以上消えていないとされる灯「不滅の法灯」を本堂である根本中堂から分灯し、厳粛な雰囲気の中、 森川宏映・第257世天台座主(95)と16人の僧侶が大講堂で読経した。

伝教大師一千二百年大遠忌「御祥当法要」森川宏映・第257世天台座主(中央)<2021年6月4日>
根本中堂から分灯された「不滅の法灯」コロナ禍で全国行脚は凍結に

延暦寺・大講堂には、 兵庫県加西市の法華山一乗寺の所蔵で最澄の肖像画では現存するもので最も古いとされる御影(複製画)も掲げられた。 そして「伝教大師・最澄1200年魅力交流委員会」の委員で、歌舞伎俳優・市川猿之助さんが映像で登場、 最澄が残した言葉 「一隅を照らす、これ即ち国宝なり」「我が志を述べよ」などを”聖句”として読み上げた。また委員長の鳥井信吾・サントリーホールディングス副会長も動画でメッセージを奉納し、最終日の法要は、天台座主ご名代として、書写山・圓教寺(兵庫県姫路市)第百四十世長吏、大樹孝啓・探題大僧正(97)が大導師を務めた。

伝教大師一千二百年大遠忌「御祥当後法要」天台座主ご名代 大樹孝啓・探題大僧正 <2021年6月5日>
歌舞伎俳優・市川猿之助さんによる映像での「伝教大師聖句」奉読<2021年6月4日>

延暦寺では新型コロナウイルス感染防止のため、予定した来賓らの招待は見送り、法要の模様は動画サイト「YouTube(ユーチューブ)」でもライブ配信された。

「聖徳太子及び天台高僧像」のうち最澄像(複製画)<兵庫県加西市・一乗寺所蔵>

延暦寺・水尾寂芳(みずお・じゃくほう)執行は、伝教大師・最澄 (767~822年) が詠んだ「おのずから 住めば持戒のこの山は 誠なるかな 依心(えしん)より依所(えしょ)」という歌を引き合いに出し、「修行には自分自身が正しくあろうとすることが大切であるが、それよりも修行をする環境がもっとも重要であることが、修行を通じてはじめてわかる。この比叡山はまさにその修行にふさわしいところで、住んでいるだけでおのずから戒律を守ることができると話す。山そのものが、訪れる人々に力を与える。伝教大師のみならず、この山で修業し、「籠山(ろうざん=山に籠る)」という形で示された。そして鎌倉時代の各宗派の祖師方(法然、親鸞、日蓮など)も比叡山で修業を続けた。日本人の心の中にも”比叡山”がある。神秘な力、特別な場所。コロナ禍の今、疫病を鎮めるべく粛々と山上で祈りを捧げ、その模様を映像を通じて触れていただけたら」と話す。

「おのずから 住めば持戒のこの山は 誠なるかな 依心より依所」延暦寺・水尾寂芳執行
延暦寺・大講堂

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5月、 高野山真言宗総本山・金剛峯寺(和歌山県高野町)でも、 新型コロナウイルス感染症で亡くなった人々の追悼と早期終息を祈願する法会が壇上伽藍(がらん)で営まれた。

「新型感染症早期終息祈願並びに物故者追悼法会」2年連続で営まれた<2021年5月3日 金剛峯寺・金堂>
愛染堂では護摩祈祷も厳修された

山内の塔頭(たっちゅう)寺院の住職や金剛峯寺の僧侶ら計約30人が祈りをささげ、金堂では、金剛峯寺・第414世座主、葛西光義 (かっさい こうぎ)・高野山真言宗管長(88)が導師を務めた。この様子も金剛峯寺のFacebookで映像配信された。

法会は金剛峯寺Facebookで配信、金堂の正面と内陣にカメラがセットされた<2021年5月3日>
高野山内の塔頭(たっちゅう)寺院の住職や金剛峯寺の僧侶ら計約30人で営まれた

金剛峯寺では、最初の緊急事態宣言が出された昨年(2020年)、4月21日から拝観を停止していた。境内の一部は散策できたが、壇上伽藍(金堂や根本大塔など)に立ち入ることができない日が続き、約7万人が訪れるとされる5月の大型連休、実質的な観光客はその1割程度だったという。今年は感染対策に気を遣いながら兵庫、大阪、そして地元・和歌山から訪れる家族連れが少し増えた。

金堂内陣では若い僧侶が動画撮影を担当<2021年5月3日>
本尊・薬師如来に新型コロナウイルス感染症の早期収束を祈った<2021年5月3日>

7月に高野山真言宗・宗務総長を退任した添田隆昭(そえだ・りゅうしょう)氏は「1200年前、弘法大師・空海(774~834年)は弟子たちを引き連れ、都でまん延した疫病(えきびょう)の収束を祈り、日照り・干ばつを終わらすべく雨乞いの修法を執り行った」

高野山真言宗・添田隆昭宗務総長(取材当時・現在高野山大学学長)「祈りによって安心、そこに宗教の役割がある」<2021年5月3日>

そして「当時から人は、疫病神(やくびょうがみ)という言葉で人格化していた。新型コロナウイルスという”疫病”はそもそも、人にしか反応(感染)しない。人はそのコロナウイルスを真正面から退治しようとするが、ウイルス自体は意に介さない。そこでこのウイルスと共存しながら、人が生活スタイルを変えていく、さらに医療現場の皆さんを力づけ、コロナウイルス感染症によって亡くなられた方々の冥福を祈り続けたい」と日常のあり方を説いた。

金剛峯寺・金堂

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