公園は憩いの場です。
大小さまざまなタイプの公園があり、少なくともこれまでの人生のなかで一度は訪れたことがあるでしょう。
ただしそれは公園自体が”自分に合っていたから”、そして”利用できたから”です。
一方で、”利用したくても利用できない”ひとたちもいます。
「みーんなの公園プロジェクト」は、ユニバーサルデザインによるインクルーシブ(包括的)な遊び場づくりを提言、普及を目指す市民グループです。
障害の有無に関係なく、公園を利用できることはとてもいいことですよね。
では、一体どういったものが「インクルーシブな遊び場」なのでしょうか。
設立の経緯、普段の活動など、気になる内容を取材してきました。
みーんなの公園プロジェクトとは
みーんなの公園プロジェクトは、障害の有無に関係なくすべての子どもたちが、自分の力を生き生きと発揮しながら、さまざまな友達とともに遊び・学べる公園の普及を目指している市民グループです。
こういった活動は、よくNPO法人などが行なっている印象のなか、「市民グループ」である点が意外でした。
代表を務めているのは、倉敷芸術科学大学の教授である柳田宏治(やなぎだ こうじ)さん。
そして、岡山県立岡山東支援学校教員の林卓志(はやし たくし)さん、特別支援学校の元教員の矢藤洋子(やとう ようこ)さんの3人で構成されています。
主な活動内容は、大きくわけて以下の3つです。
主な活動
- 【調べる】多様な利用者のニーズ調査や国内外の公園事例調査、また先進的な取り組みや指針などの調査
- 【考える】各調査の結果や、公園・遊具関係者を含むひととの意見交換などをもとに、有効な工夫や遊び場づくりのポイントを考察しガイドを作成
- 【広める】Webや書籍などでの情報発信の他、各公園事業への助言や情報提供などに協力
直接的に「現地で公園をつくっている(建設・設置する)」わけではありません。
たとえば、自治体などからの「新しい公園をつくるのでアドバイスがほしい」「図面を見てほしい」などの相談に乗っています。
すべての活動を紹介できませんが、それぞれどんな活動をしているのか一部を見てみましょう。
【調べる】多様な利用者のニーズ調査
ニーズ調査の場合、たとえば以下のような利用者への聞き取りを行なっています。
- 地元の障害のある子どもと親の会
- 障害者団体
- 特別支援学校
- 障害児通所支援事業所
- 一般の子育て支援グループ
すべての子どもたちが遊ぶ権利を持っています。(国連・子どもの権利条約 第31条)
でも現状の公園にある物理的・社会的障壁によって、障害のある子どもたちは貴重な遊びの機会を逃していました。
公園をつくる側である自治体や遊具メーカー、デザイナーたちは、そうした子どもたちのニーズを十分には把握できていない状態です。
それには、障害関連団体だけにニーズ調査をすればいいような気がします。
するとどうでしょう。障害のある子どもたちだけが利用できる遊具しかない公園が完成してしまいます。
いい事例に思えるかもしれませんが、別の問題が発生してしまうのです。
障害のない子どもを始めすべての子どもたちから、多様な仲間たちとの出会い、育ちあう機会を取りあげることになります。
障害のある子どももない子どもも一緒に遊んでこそ、お互いへの理解も深まるのです。
そのために、さまざまなひとや組織・団体のニーズ調査を行なっています。
活動を始めたころ、倉敷でも障害児支援グループやいろいろな親子グループにヒアリングをしたそうです。
「公園は私たちを迎えてくれていないんだ」、「障害のある子どもも一緒に遊べる公園があるといいな」などの切実な声が上がり、「障害のある子どもが一緒に遊べる公園が有り得るなんて知らなかった」と驚く声も。
でも、これらの意見は、現在でも同じようによく聞かれるとのことです。
それもそのハズ、10年以上前から公園の状況はほとんど変わっていないからだと柳田さんは言います。
【考える/広める】さまざまな情報発信
みーんなの公園プロジェクトでは、調査の結果などをWebや書籍などで情報発信を行なっています。
Webでの情報発信は、公式ホームページを作成。
たとえば以下のようなコンテンツにて、たくさんの情報を掲載しています。
- 利用者調査
- 私の思い・みんなの思い
- 公園を知る│海外事例
- 公園を知る│国内事例
インクルーシブな公園の事例として、わかりやすくたくさんの画像つきで海外と国内の公園を紹介しているのです。
筆者は、てっきり「現地の協力者に撮影や取材をお願いしたんだな」と思っていたのですが、そうではありませんでした。
なんと、すべての撮影や取材などはメンバー3人が休暇などを利用し現地へ行き、実際に行なっているとのこと!
この話をインタビューで聞いたとき、驚いたものです。
ユニバーサルデザインによる公園の遊び場づくりガイドとしては、その名のとおりの書籍を発行しています。
公式ホームページ内の情報をはじめ、より実践的な内容が盛りだくさんです。
書籍を読んでほしい対象としては、公園施設の計画・設計、整備・管理に携わる専門的分野などのかた。
そして、障害のある子どもとその家族/支援者、子育て/町づくりのNPOのひとたちなど、遊び場づくりに関心があるひとたちも対象となっています。
筆者が印象に残ったのは、資料として掲載のあった「ユニバーサルデザインの遊び場チェックシート」です。
情報提供のみならず、実践できる仕組みをつくっている点が素晴らしいと思いました。
「インクルーシブな遊び場」ってどんなもの?
ところで、「インクルーシブな遊び場」ってどんなものなのでしょうか。
みーんなの公園プロジェクトのホームページを確認すると、以下のように書かれていました。
インクルーシブな遊び場とは障害の有無などを問わずあらゆる子どもが自分の力を生き生きと発揮しながらさまざまな友達と共に遊び学べる場所
最初に書いたように、みーんなの公園プロジェクトは上記の普及を目指しています。
実はあまり知られていませんが、倉敷市にも似たコンセプトでつくられた遊び場があるそうです。
それは、倉敷市笹沖の「くらしき健康福祉プラザ」の屋外にある「リハビリテーション広場」。
もともとは、障害のあるかたが屋外でもリハビリテーションができるようにとつくられたそうです。
倉敷の車いすの会の代表や療育関係、当時の養護学校(現:特別支援学校)の先生などいろいろなひとが意見を出して、2001年に完成しました。
障害者だけではなく小さな子どもやお年寄りなど、一般のひととも関われるような場にしたいという想いも込められていて、具体的には次のような工夫があります。
- 【レイズド花壇】花壇自体が少し高くしてあり、車いすのままでも花を触れるし、香りも間近で感じられる
- 【ゲート】視覚障害者でも、たとえば「花の香り」「葉の音」でリハビリテーション広場に来たとわかる工夫がされている
- 【すべり台】車いすのかたもスロープでアクセスでき、寝そべって滑ってもいいし、みんなで並んで滑ってもいい形状
「こんな近くにあったんだ!」とびっくり。
「インクルーシブ」などが問われる時代より前にリハビリテーション広場ができあがっていたことにも驚きです。
「知っているひとしか、知らない」という状態は、実にもったいないことだなと感じました。
日本ではあまり広まっていなかったインクルーシブな遊び場づくりですが、海外ではどんどん進化し、人気を集めているのだとか。
つづいて、「みーんなの公園プロジェクト」代表の柳田宏治さんに、活動や公園の話を聞いてみました。
柳田宏治さんインタビュー
「みーんなの公園プロジェクト」代表の柳田宏治さんに、活動や公園の話を聞いてみました。
「みーんなの公園プロジェクト」を立ち上げたキッカケ
──「みーんなの公園プロジェクト」を立ち上げたキッカケはなんですか?
柳田(敬称略)──
1990年代始めにアメリカで、障害者差別禁止法(通称:ADA)ができました。
当時私は家電メーカーに勤めていたので、「障害を持っているひとが、家電製品を使えない場合には訴えられるかも!?」と思い、アメリカで2年ほどADAのインパクトをリサーチしていたんです。
もともと私のリサーチの中心はITC関連だったんですが、せっかくだから建築やいろいろなサービス、さまざまな分野の調査も行ないました。
そのなかで、レクリエーション施設や公園も付随的に調べていました。
当時、私の子どもが2歳くらいで、ベビーカーを押しながらリサーチしていたんです。
とくに公園のリサーチがおもしろく、遊具などを見て「障害者も使えるようにするには、こんなデザインにしているのか」などがわかり、すごく刺激になりました。
柳田──
その後、2004年に退職し大学の教員になりました。
大学では、ユニバーサルデザインが研究分野のひとつだったんです。
当時の岡山県知事がユニバーサルデザインに力を入れていて、2005年に「おかやまユニバーサルデザインアドバイザー会議」を設置しました。
ここに私と特別支援学校の元教員の矢藤さんが委員として入っていて、出会ったんです。
矢藤さんはアドバイザー会議に参加する前、一時アメリカに住んでいて、障害のある子どももない子どもも一緒に遊べる公園を目の当たりにし、衝撃を受けたそうです。
そこで「日本でもユニバーサルデザインの公園ができたら、絶対いいよね」という話になりました。
まずは多くのひとに知ってもらうため、自分たちにできることをやろうということで、矢藤さんの元同僚である林さんも加わり、2006年に3人でスタートしたんです。
普段、どのような活動を?
──普段、どのような活動を主におこなっていますか?
柳田──
自分たちの足で調べたことを、ホームページに掲載して情報を提供することがメインです。
私たちは遊具や公園づくりの専門家ではないので、どちらかといえばユーザー側のほうに軸足を置いて活動しています。
海外の公園のリサーチは、メンバーが海外出張の機会や休暇を利用して現地を訪れ、行なっています。
国内の公園のいくつかは3人で行ったこともありますし、ときには障害のある子どもと家族や学生たちと一緒に検証して、それらの結果をホームページに掲載しています。
その他、障害のある子どもと親の会や障害者団体などにヒアリングを行なったり、海外の指針や取り組みの情報を翻訳して公開したりしています。
そうするうちに、公園づくりに携わる行政や企業などから「インクルーシブな遊び場のガイドがほしい」という声をもらうようになりました。
そこでこれまでの知見をまとめた本が「すべての子どもたちに遊びを – ユニバーサルデザインによる公園の遊び場づくりガイド」です。
うれしいことに最近、各地でインクルーシブな遊び場づくりへの関心が高まってきたんですよ。
市民のかたから「自分のまちにもこんな公園がほしい」と相談を受けたり、自治体のかたから「整備予定の公園の図面ができたので見てほしい」などの依頼があったりして、アドバイスをすることも、ここ1年2年で増えてきました。
海外のインクルーシブな遊び場にはどんな工夫がある?
──海外のインクルーシブな遊び場にはどんな工夫がありますか?
柳田──
車いすのまま乗り込める回転遊具や、背もたれ付きなど自分に合ったシートを選べるブランコなど、多様な子どもが一緒に楽しむための工夫がいろいろあります。
たとえば、普通の砂場だと車いすユーザーは砂に触れられないのですが、砂場の中にアクセシブルなデッキをつくって、周りに砂をすくったり貯めたり流し落としたりできるいろいろな仕掛けを設けたケースもあります。
上には日除けもあって、障害のある子どももない子どもも自然とここに集まるので、関わりが生まれやすいですよね。
各地の先進的な取り組みを調べた結果、私たちは遊び場のユニバーサルデザインのポイントを次の5つだと考えています。
- アクセシビリティ
- 選択肢
- インクルージョン
- 安心・安全
- 楽しさ!
考え抜かれたさりげない工夫があれば、障害などの違いは特別なことではなくなって、だれもが自分らしくみんなで楽しむことが可能になります。
なかには、定期的にプレイイベントを開催している公園もあり、地域のあらゆる子どもに人気です。
インクルーシブな遊び場は、多様な子どもたちだけでなく、親同士や近隣住民にとっても交流の場になっているんですよ。
日本でもインクルーシブな公園をつくろうという動きが
──日本でもそんなインクルーシブな遊び場をつくる動きはありますか?
柳田──
去年(2020年)、東京の砧(きぬた)公園に都立公園として「初」のインクルーシブな遊び場が完成しました。
それがメディアに大きく取り上げられて、「自分たちのまちにもつくろう!」という動きが広がり始めています。
今年(2021年)の春には、神奈川県藤沢市の遊び場にインクルーシブな遊具が設置されましたが、これは地元の障害のある子どものお母さんが自治体に働きかけて実現したものなんですよ。
他にも宮城、京都、愛知、兵庫など各地で計画が進んでいます。
自治体がリードするケースもありますが、障害のある子どもの親や支援者たちが中心になってアンケート調査や署名活動を展開したり、理想の遊び場のプレゼンテーション資料をつくって自治体に働きかけたりするひともいます。
東京ではこの(2021年)夏、都立公園で2か所目となるインクルーシブな遊び場が、府中の森公園に完成する予定です。
こうした公園では遊び場をつくるのには2年~3年ほどかかり、1年度目「調査・計画」、2年度目「設計」、3年度目「工事」のような感じです。
ですので、今(2021年)から2年~3年後には、インクルーシブな遊び場の事例が各地にでき始めると思います。
インクルーシブな遊び場が当たり前の時代とは
──インクルーシブな遊び場が当たり前になった場合、どんなことが起こると予想されますか?また、どんな社会になってほしいと考えていますか?
柳田──
残念ながら今は、「インクルーシブな遊び場」を「障害児のための特殊な遊び場」だと誤解しているひとも多いのが現状です。
でも自分たちの身近な公園にインクルーシブな遊具が置かれたとか、そのニュースが夕方のローカル番組に取り上げられるとか、より多くのひとに知られるようになれば、そこを利用したひとに「インクルーシブな遊び場」の価値が理解されるようになると思います。
するとそこからまた次のひとたちへその価値が伝えられ、「私たちのところにも、こういう公園がほしい!」と声があがるでしょう。
支援学校の親御さんたちの会話のなかにも話題に上がり、自治体のひとたちにとっては「インクルーシブな遊び場を知らない」ということが”許されない”ようになるかもしれません。
インクルーシブな遊び場が当たり前になると、障害や年齢、国籍、背景がさまざまな子どもたちが一緒に遊ぶのが普通のことになるでしょう。
そうして公園があらゆる地域住民の交流拠点となることで、ひとびとの間に多様性の理解が進み、インクルーシブな社会につながるといいと思います。
みーんなの公園プロジェクトが目指すもの
──今後の目標、実現したいことはなんですか?
柳田──
「くらしき健康福祉プラザ」の例で触れたように、実はユニバーサルデザインの考えが日本に入ってきた1990年代後半から、障害のある子どものニーズに配慮した公園は各地でつくられてはいたんです。
ただそれぞれが単発的な取り組みで終わってしまって、その後しっかりと検証し、継続的に改善していくところまでつながっていませんでした。
日本のインクルーシブな遊び場づくりは、ようやく本格化してきたところです。
これから成功や失敗がいろいろでてくるでしょう。
それらの情報やノウハウを広く共有して全体的なスパイラルアップにつなげられるよう、情報の収集や発信を続けたいですね。
またインクルーシブな遊び場づくりには、障害のある子どもや家族を含む地域住民の参加が不可欠です。
自治体や企業と、地域の多様なひとたちが協働し対話を重ねるなかで、「こういう公園をつくろう」とビジョンを共有して、「私たちの公園だ」という公園づくりのプロセスが定着していけばいいと思っています。
おわりに
みーんなの公園プロジェクトのような動きがあると、長い時間はかかりそうですが、いずれはインクルーシブな遊び場が当たり前の時代がくると感じました。
多様な子どもたちが ごく自然に遊ぶ姿は、もしかすると当たり前のことなのかもしれません。
そのような環境で育った子どもたちは、誰に対しても優しくできるのではないでしょうか。
素敵な未来を想像しつつ、活動に注目していきたいと思いました。