対談「平成生まれと昭和生まれ、松田聖子の歌に出てくる男の子、女の子」第2回 第2回 松本隆が描く歌詞の中の男の子、女の子

対談企画「平成生まれと昭和生まれ、松田聖子の歌に出てくる男の子、女の子」

第2回 松本隆が描く歌詞の中の男の子、女の子


松本隆作詞活動50周年を記念したリマインダーオリジナル対談企画、「平成生まれと昭和生まれ、松田聖子の歌に出てくる男の子、女の子」。世代も性別も違うリマインダーのカタリベ二人の対談から、今なおファンの心を捉えて離さない歌詞の魅力について掘り下げていきます。
第2回は、松田聖子の世界観をグッと深め多くの女性ファンを獲得した「赤いスイートピー」から様々な名曲にスポットをあて歌詞を深堀り。世代の異なる二人の考察が興味深いです。
第1回 → 「松本隆作品の魅力、キーワードは『少女マンガ』」


アヤ:
「赤いスイートピー」の解釈について、彼が時計を見たり、手をつながなかったりというところから私はずっと硬派な男性の曲だと思っていました。それで今まで聴いていたんです。
ところが、当時「赤いスイートピー」を聴いていた男性に「あれは、男子が硬派とかではなくて、むしろその逆で、デートの残り時間を気にして時計を見たり、手を繋ぐのに緊張したり、それでも自分についてきて欲しいっていう曲なんだよ」って聞いて、この曲の見方がすごく変わったんです。松本先生が “俺についてこい!” っていう昭和初期の男性像ではなく、ちょっとくらい至らないところがあっても、やわらかでチャーミングな男の子像を描いて、それを聖子ちゃんが歌っているというのが面白いなと思いました。

ししゃも:
自分はちょっと解釈が違うんです。もちろん歌にはいろいろな解釈があるから間違えているかもしれませんが…。自分がずっと思っていたのは、“この二人はまだ付き合っていないよね” っていうことなんです。“ついていきたい” と言っている女性の一方的な片思いで男性はさほど好きではないのではないかと冷静に見ていて、これを当時友達に言ったら、「なんて冷めたやつだ」って言われました(笑)。
でも、何て言うのかな? 男性側はカッコ良くもない普通の真面目な人物像で、二つ年上って自分で想像しているんですけど(笑)。その彼がなかなか振り向いてくれない。
それで次作の「渚のバルコニー」で女の子の気持ちが花開いたと思ったけど、それも女の子側の妄想で(笑)。
ただ、ストイックなんですよね。この頃の聖子さんの曲は。登場してくる男女は、普通にどこにでもいるようなキャラクターなんですよ。これまでのアイドルの曲は、割とキラキラしている男性だったり、女性だったりが出てきているのに、聖子さんにいる曲はそういう自分たちの周りにいるような男女で…。そうすると聴き手としては当然、そういう恋愛っていいなって、特に女性はスッと入れたと思うんです。だからこの時期から女性ファンがグッと増えたんだと思います。

アヤ:
聖子ちゃんの曲は、女子が強引なものが多いですよね(笑)。意外と相手にその気があるか分からないのに攻めてるな!って曲が多いんですよ。『ユートピア』に入っている「ハートをRock」もそうですけど、「♪デートのスケジュール この次は私にまかせて」だとか、『Canary』に入っている「Private School」では、「♪頬にKissをして Run Away」とあるように、学校の先生にいきなりキスをして逃げたりだとか…。とんでもないな(笑)。って思いながら聴いていて。
だから、「赤いスイートピー」にしても、半年を過ぎても手も握ってくれない硬派な人を聖子ちゃんが追いかけ回しているだけではないかと思ってもいました。意外と男子側がどぎまぎしながら聖子ちゃんにときめいてるという聞き方が新鮮でした。
「♪気が弱いけど 素敵な人だから」という歌詞も印象的ですよね。「赤いスイートピー」の頃から女子の中で理想とされる男子像が変わっていったのかもしれませんね。

ししゃも:
自分の印象としては、聖子さんの楽曲で、松本先生が手掛けた歌詞の中に出てくる男性は、女性慣れしていないんですよね。学生だったら男同士とばっかり付き合っている。だからと言って目立った感じでもない。本当に普通の男の子。どちらかというと地味目な男の子が多いのかなと思っていて。だから「ハートをRock」もそうですし、「P・R・E・S・E・N・T」も自分の誕生日のために彼氏がバイトをするように持っていってますよね(笑)。

アヤ:
「私のために無理させてごめんね」と言っていながら(笑)。

ししゃも:
そうそう。そういうところも男子として曲がスッと入っていったのかもしれない。自分とかけ離れた世界ではない。意外とリアリティを持って作品に触れることができた気がしましたね。

アヤ:
聖子ちゃんって、ぶりっ子と言われていた時期もあって、アイドルの王道という印象がありますが、改めて松本先生が書く聖子ちゃんの歌詞と、それを歌う聖子ちゃんを考えた時に、すごく身近なイメージがあります。他のアイドルは少年マンガから見たヒロインみたいな、ミステリアスだったり、元気な子は元気だったり、輝いている印象がありますが、聖子ちゃんの方が、手触り感のある身近な女の子に感じます。
この前、聖子ちゃんのライブに行った時も思ったんですけど、ぶりっ子だけど、気取らないところが良さだと思います。MCでも、「みなさん、このアルバム曲覚えてる?(笑)」っていきなり素に戻る場面があったりもして。そういうところからも、普通の女の子であるにも関わらず眩しくってという印象です。
少女マンガでは、どこにでもいる女の子が恋をする話が王道だと思うんですが、そういう主人公感を聖子ちゃんにも感じます。
その中の流れでは『Strawberry Time』に入っている「Kimono Beat」という曲があって…。

ししゃも:
あれこそ少女マンガの世界!

アヤ:
ですよね! 歌詞の中の主人公が親に仕組まれたお見合いの場所にいるんだけど、彼が庭から見ていて、“私を連れ出してくれるんでしょ?” みたいな曲です。作曲が小室哲哉さんで、小室サウンドと松本先生のコラボなんですが、まさに松本隆の世界観で「♪窮屈な帯だけど 似合うでしょ意外にも」という歌詞があって、普通の女の子だったら “私可愛い?” とか言うのに、“意外にも似合うでしょ?” と言うのは、あえてギャップを出すあざとさがテンコ盛りだなって(笑)。

ししゃも:
「Kimono Beat」は少女マンガ的な曲の集大成という作品で、あそこに出てくる男の人も、見には来ているけど、連れ出すまでの勇気はなくって、様子をうかがうだけで来ている。

アヤ:
連れ出していくのは、聖子ちゃんの妄想みたいな(笑)。

ししゃも:
そうそう。歌詞の中で。「逃げ出そうよ」と言っているのは聖子ちゃん側であって、この後連れ出しているかはどうかは、ご想像にお任せしますになっちゃうんだけど…。

アヤ:
聖子ちゃんからのラブコールというか、期待の眼差しがすごいですよね!

ししゃも:
そう思うと、出てくる男性も女性もタイプがほぼ一貫していますよね。他の歌手だと、曲によって登場人物のキャラクターが変わってしまうけど、その辺の一貫性があるから、聴き手の方も同じように聴いて、同じように成長していけるという点が魅力だと思います。

アヤ:
なるほど! 蒲池法子さんと松本隆さんが作った “松田聖子” という主人公の映画という解釈で腑に落ちました。歌詞に出てくる男の子は松本先生本人なのでしょうか?

ししゃも:
松本先生は確かに、優しそうなイメージがありますし、そういう自分の姿を歌詞に当てはめているのかもしれませんね。


<次回予告>
第3回は、聖子ちゃんの楽曲が男性目線、女性目線、それぞれにどんな風に映るのか?どの部分に深く共感するのか? 松本先生の紡ぐ言葉に潜むマジックについて解明していきます。

第1回 → 「松本隆作品の魅力、キーワードは『少女マンガ』」

PROFILE

不自然なししゃも

ユーミンとPerfumeと80年代アイドルを こよなく愛する50代の大阪在住のオッサン。
3人の姉から様々なジャンルの音楽の洗礼を受け、ガキのころから流行りの音楽にはそれなりに敏感だった。音楽の仕事に就きたくてピアノ調律師になるも限界を感じて早々に挫折。
お堅くサラリーマンになるも音楽は続けたいから今もユーミントリビュートバンドで鍵盤弾き。音楽を取り上げられたら間違いなく死にます。

 不自然なししゃもさんのリマインダーコラム一覧

ミヤジサイカ(アヤ)

昭和的サロン「ニュー・パルリー」の店主。昭和カルチャーをテーマにしたイベント・企画をオンライン上で運営する。昭和歌謡についてのエッセイを執筆。歌謡曲バーでのアルバイトを経験。昭和の音楽と共にある人の思い出を聞くのが好き。安井かずみに憧れており、六本木のレストラン「キャンティ」をきっかけに”サロン”に興味を持つ。

 アヤさんのリマインダーコラム一覧

司会・構成:本田隆(リマインダー)

特集・松本隆×松田聖子

© Reminder LLC