原爆の日

 宿題をさぼった子が苦し紛れに言う。「えっと、別のノートにやったんだけど家に忘れてきちゃいました」。何十年も昔の懐かしい教室の光景を不意に思い出した。のりで変な所がくっついていてうまく読めませんでした。“別のノート”と似たり寄ったりの子どもじみた釈明が大まじめに政府関係者の口から▲その日、本欄で「何を語るか」と書いた矢先だった。正反対の意味で期待に応えてくれた。6日の広島原爆の日、菅義偉首相が式典のあいさつで原稿を読み飛ばした▲誰にだってミスはある。大失態だ-などとあげつらうのは本意ではない。でも、やっぱり、あまりにひどい。記事に「真剣に考えていない証拠」と広島の被爆者の感想があった。反論はできまい▲台風が近づいている。8日の夜は五輪の閉会式で、首相はまだ東京だ。きょう長崎の原爆の日、まずは無事に来県できることを願う▲その閉会式。競技の緊張から解き放たれた選手たちの笑顔がいい。五輪のたびに思う。笑う時と泣く時はどこの国の人も同じ顔になる。この星の未来に核兵器はいらない▲首相に提案がある。棒読みのあいさつなどやめて、五輪の閉幕に立ち会った昨夜の感動とそこで感じた平和への決意をそのまま語ってくれればいい。原稿がなければ読み飛ばしもあるまい。(智)

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