我が「NHK改革」具体案|高市早苗 高止まりする受信料や営業経費、肥大化する放送波、子会社等との「随意契約率」93・5%という驚くべき実態、国民に還元されない多額の繰越剰余金――「伏魔殿」と称されるNHKを国民の手に取り戻すために、高市早苗前総務大臣が掲げたNHK改革の具体案!

「NHKに手を出すと痛い目に遭うぞ」

初めて総務大臣に任命された平成26年9月3日に、先輩国会議員からいただいたアドバイスは、いまでも忘れられない。

「総務省に行ったら、とにかく地方行政分野に没頭すればいい。NHK問題には、できるだけかかわらないほうがいいよ。NHKは『伏魔殿』だから、手を出すと痛い目に遭うぞ」

安倍内閣において、平成26年9月から平成29年8月までの間と令和元年9月から令和2年9月までの間で、合計5回、総務大臣に任命され、通算で約4年間、総務省で働いた。

総務省は、平成13年の省庁再編により、旧自治省、旧郵政省、旧総務庁が統合して誕生した官庁で、所掌範囲は、地方税財政を含む地方行政制度、消防・救急行政、放送行政、郵政行政、情報通信技術を活用した成長戦略、他の府省庁を含む国の基本的な行政制度の管理・運営と多岐にわたる。

先輩国会議員の親切なアドバイスの真意をほとんど理解できないまま、早々に「NHK改革」に踏み出してしまった私は、やがてNHKという長い歴史を誇る巨大組織による巧妙で強烈な抵抗や、一部NHK幹部による罵詈雑言に苦しむこととなった。

平成29年に私が総務大臣を退任した時には、NHK職員の皆様が祝杯を挙げたという話を聞き、昨秋、再任された時にはNHKでは失望の声が広がったということも知っている。

最初の大臣就任翌年の平成27年4月に、『クローズアップ現代』という番組に関してNHKに行政指導をした。NHKは行政指導文書の受け取りを拒否し、文書を持参した職員は、深夜まで数時間も屋外で待たされるという可哀想な目に遭った。

大臣として最初に国会で審議をしていただいた『平成27年度NHK予算』に付した『総務大臣意見』には、「公共放送への高い信頼を確保するため、子会社等を含め、コンプライアンスのより一層の確保に向けて組織を挙げて全力で取り組むこと」と書いた。

相次ぐ不祥事や苦情の声

前年3月に2件の不祥事が発覚したことを受けての『総務大臣意見』だったが、NHK予算が国会で承認されて3カ月後の平成27年6月にはNHKアイテックでカラ出張問題、同年7月にはNHKインターナショナルで危険ドラッグ事件、平成28年にはNHKアイテックで総務省の補助事業だった地デジ難視対策のお金の着服疑惑、別の社員による新たな不正受領疑惑と、立て続けに問題が発覚していた。

組織ぐるみではなく個人による犯罪だったとしても、「長期にわたって、子会社の経理が適切に行われていなかったこと」 「NHK本体が、出資先の子会社の経理をチェックできなかったこと」は大きな問題だ。

当時の籾井勝人会長に対しては「抜本的な子会社改革」を要請したが、現在も残る課題があり、それらは後記する。

2019年秋、2年1カ月ぶりに総務省に戻ってみると、日本郵政グループとNHKの間で、かんぽ生命不正勧誘問題を取り上げたNHKの番組の取材手法などを巡って争いが勃発していた。

国民の皆様のご批判は、不適切な勧誘活動をしていながらNHKに圧力をかけたとされる日本郵政グループにも、日本郵政グループに対して弱気な対応をしたNHKにも向けられており、国会でも本件と『放送法』の解釈が取り上げられ、私も答弁対応に苦慮することとなった。

私宛の手紙や公式サイトのご意見コーナーでも、「NHKの受信料が高過ぎる」「左傾化した番組が多いので、NHKを観たくない。NHKにスクランブル(衛星放送などで使われているが、特定チャンネルを受信できないように変調すること)をかけて、テレビを持っていてもNHK受信料を払わなくていいように制度を変えて欲しい」「急に訪ねてきたNHKの訪問員が、テレビの有無を確認すると言って無理やり部屋に上がり込んできて、怖かった」など、多くの苦情やご意見が寄せられていた。

「三位一体改革」に着手

総務大臣在任中に私が提唱し、長い時間を費やして懸命に取り組んできたことは、ひと言で表現すると「業務」「受信料 「ガバナンス」の「三位一体改革」だった。

最初の大臣就任直後から様々な問題が続けて発生したことから、平成27年10月に、総務省に「放送を巡る諸課題に関する検討会」を設置し、翌月からNHK改革を含む本格的な議論を開始した。

この検討会は現在も続いているが、有識者など構成員に加えて、民間放送事業者やNHKなど関係者にも出席していただいてオープンに議論を進めている。検討会の結論を受けて、総務省が『放送法』の改正案を作成したり、NHKが改革案を検討したりと、影響力のある検討会だ。

大臣再任後に、この検討会の下に「公共放送の在り方に関する検討分科会」を設置して、NHKの課題に特化した議論を進めていただき、2020年6月には、『三位一体改革推進のためNHKにおいて取組が期待される事項』を取りまとめていただいた。

2020年1月に就任された前田晃伸NHK会長は、就任後初となる『中期経営計画(案)』(令和3年度から3年間の計画)を取りまとめるにあたり、前記分科会の意見も参考にして下さり、「スリムで強靱なNHK」を掲げ、番組編成や放送波の削減などを通じて支出規模の圧縮に取り組むことなど、構造改革への決意を示された。

特に衛星やラジオの「放送波の削減」については私の持論でもあったので、前田会長が過去のNHKではあり得なかった強い改革姿勢を示されたことについて、大いに敬意を表し、その実現を期待している。

NHK内部には、会長の改革案に対する反発が強く、相当な苦労をしながら奮闘しておられると仄聞している。

「NHK改革に係る私の問題意識」について、以下、整理して書かせていただく。

NHK受信料を引下げるために

第一に、「受信料の高止まり」だ。

籾井会長の後任として平成29年1月に就任された上田良一会長は、2019年10月の消費税率引上げ(8%から10%)に際して受信料額を据置き、実質引下げを実現して下さった。

上田会長の後任として2020年1月に就任された前田会長には、2020年春、新型コロナウイルス感染症の拡大により、とりわけ旅館やホテルをはじめとする中小企業の経営が悪化していたことから、受信料の負担軽減策の検討をお願いしたところ、早々に実現していただき、感謝している。加えて、2020年10月には、地上契約で月額35円、衛星契約で月額60円の受信料引下げをしていただいた。

それでも、「NHK受信料が高い」というお声は、依然、多数の方々から寄せられている。

現在のNHK受信料は、地上契約で月額1225円(年額1万4700円)、衛星契約で月額2170円(年額2万6040円)となっており、多くの方は、地上と衛星の両方の受信料を含む「衛星契約」をしておられると思う。

特に、衛星放送を全く観ないのに、予め衛星アンテナが設置された集合住宅に入居された方は、年額2万6040円ものNHK受信料負担に納得しておられないだろう。この「衛星付加受信料」は、「受動受信問題」と呼ばれている。その負担額の一部が8K放送への投資によって「付加」されていると聞いても、納得できる方は多くはないはずだ。

諸外国の公共放送受信料と比較することは、為替変動による誤差が生じるので困難だが、概ね、フランスは約1万8000円、イギリスは約2万2000円、韓国は約3000円でカーナビは受信料徴収対象外だ。

NHK受信料を引下げるためには、後記する様々な改革により、NHKのスリム化と効率化を行っていただくことが必須である。

衛星波については、「番組編成の重複」を排除して波数を減らし、それに応じて、「衛星付加受信料」については撤廃が必要だと考える。

2020年9月、自民党総裁選挙が始まってすぐに、菅義偉候補(当時は官房長官)に対して、「NHK受信料の引下げも、総裁選挙の公約として発言していただきたい」旨をお伝えし、NHKの諸課題と解決策案を簡潔に一覧表にした資料もお渡ししたのだが、総裁選挙では私の希望は叶わなかった。

菅内閣の最優先課題は「携帯電話料金の引下げ」だが、携帯電話料金ならば、ユーザーがMNO(移動通信サービスに係る無線局を自ら開設・運用して、移動通信サービスを提供する電気通信事業者)のサブブランドの安価なサービスを選択することもできるし、MVNO(移動通信サービスに係るインフラを他社から借り受けて、移動通信サービスを提供する電気通信事業者)の格安スマホに乗り換えることもできる。データ使用量を自らセーブして節約することもできる。

しかし、NHK受信料は定額であり、NHK視聴の有無に関係なくテレビ受信機を設置したら支払わなければならない。民放各社は、「NHK受信料が高額だから、余計にテレビ離れが進んでいる。民放も被害者だ」と憤っている。

菅内閣には、受信料の引下げに繋がる「NHK改革」にも、優先課題として取り組んでいただきたい。

営業経費の高止まり

第二に、NHKの非効率性として私が度々指摘してきたことだが、令和2年度予算額で779億円にも上る「営業経費の高止まり」だ。

前年度の『令和元年度決算』の「営業経費」は759億円だった。令和元年度の「受信料収入」は7115億円だったから、受信料収入のうち10・6%を、受信料を徴収するために使ってしまった計算になる。

受信料収入に占める「営業経費」(徴収費用)の比率は、イギリスで2・7%、フランスで1%、ドイツで2・2%だから、10%を超える日本はダントツに高い。

徴収コストが約31億円と特に安価なフランスでは、政府が徴収している。経済財政省が、個人からは住居税とともに、法人からは付加価値税とともに一括徴収している。イギリスは民間委託。韓国は電力公社に委託している。

フランス、ドイツ、フィンランド、韓国では、受信料は強制徴収であり、支払わない場合には罰金や追徴金が課される(イギリスは強制徴収ではないが罰則はある)のだから、強制徴収制度も罰則もないNHKの苦労には同情すべき点もある。

訪問要員に係る経費に305億円

そもそも、NHKの「営業経費」なるものの内訳はどうなっているのだろうか。

『令和元年度決算』で見ると、「契約収納費」に627億円、「人件費・減価償却費」に132億円が使われている。

内訳は、「地域スタッフ等手数料・給付金」(契約取次や収納業務を行う地域スタッフ等への手数料や給付金)が71億円、「法人委託手数料」が233億円、「契約収納促進費等」(口座振替やクレジット等の請求・収納に係る経費、各種団体による収納取りまとめに係る手数料、未契約者や未収者への文書や電話による対策経費、事務情報処理およびシステム運用に係る経費)が322億円となっている。

このように細かく分けて示すと見えにくいのだが、「訪問要員に係る経費」は、令和元年度に305億円もかかっている。

この訪問要員による「訪問巡回活動」は、未契約や入居者の入れ替わりを把握するための「点検」、契約が確認できない家屋の「訪問」、住人に会えるまで訪問を繰り返しての「面接」、受信機設置の有無を確認する「設置把握」、受信料制度の意義などを説明する「説明・説得」という順を踏んで、ようやく新規契約・住所変更・地上契約から衛星契約への変更・支払再開などの「契約取次」に至る。

NHKによると、訪問要員が粘り強く対応することによって、クレームやトラブルが発生するのだという。

改革に立ちはだかる壁

2020年9月30日にNHKが総務省の「公共放送の在り方に関する検討分科会」に提出した資料によると、総世帯数5523万のうち契約世帯は4151万なので、世帯支払率は82%。問題は、残る1327万世帯のうち「誰が受信契約の対象か把握できない」 「受信機を設置しているかどうか把握できない」ということだった。

多大なコストをかけて人海戦術で訪問活動をしなければならない現状を変えるための方法として、前田会長からは同日、「受信機の設置届出義務の設定」と「居住者情報の活用」が可能となるよう、『放送法』の改正を求める要請がなされた。

前田会長の二点の要請に応えるためには、クリアするべき法的論点がいくつか存在する。

一点目の「受信者からNHKに対する受信設備設置の通知義務」を設定する場合には、「契約義務」を規定している現行の『放送法』のままで「通知義務」まで課すことができるかどうかが論点になる。

二点目の「居住者情報の活用」を可能にするためには、情報を保有する主体に係る法律との整合を議論しなければならない。

仮にNHKが日本郵便から転居情報を取得しようとする場合には、転居情報は『郵便法』第8条2項の「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に該当し、日本郵便はこれを守らなければならない。

平成28年の最高裁判決では、『弁護士法』に基づく弁護士会からの転居情報の照会に対して日本郵便が回答を拒絶したことが不法行為ではない、と判断された。法令に基づく照会への対応であっても、『郵便法』のハードルは高いと考えられる。

仮にNHKが自治体から住基情報を取得する場合には、『住民基本台帳法』との整合を議論しなければならない。

『住民基本台帳法』第12条の三第1項は「自己の権利を行使するために住民票の記載事項を確認する必要がある者」であれば、住民票の写し等の交付を受けることが可能である旨を規定している。たとえば、「債務者の情報を入手しようとする債権者」が該当するとされる。

『放送法』第64条は「協会(NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」とし、同条の二では「協会は、あらかじめ、総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ、前項本文の規定により契約を締結した者から徴収する受信料を免除してはならない」とも規定している。

よって、「債権者としてのNHK」が住基情報を取得する方法が現実的にも感じられるのだが、今回の前田会長の要請に対しては「受信機設置の確認前、つまり、債権発生前の段階で、1300万世帯を超える居住者情報を取得しようとするもの」だとして、『住民基本台帳法』との整合を疑問視する声もある。

諸外国では、どのようにして支払対象者を把握しているのだろう。フランスは「住居税支払者情報」を、ドイツは「住民登録情報」を、韓国は「電気料金支払者情報」を、イギリスは「郵便局の住所情報」を活用しており、受信器設置などの申告をしない者には、罰金や追徴金が課される。

最も明快なのは、『放送法』を改正して、テレビ受信機の有無にかかわりなく「公共放送維持負担金(仮称)の支払義務」を明記したうえで、公共料金や税金との共同徴収を可能にする制度を導入することだ。これは大きな議論を誘発するテーマなので、本稿最後に「抜本的改革案」として詳記する。

肥大した放送波の削減を

第三に、「放送波の肥大化」だ。

現在のNHKは、「地上テレビ」で二波(総合、教育)、「ラジオ」で三波(AM第1、AM第2、FM)、「衛星」で四波(BS1、BSプレミアム、BS4K、BS8K)の放送波を使用している。

私が大臣としてご一緒した3名のNHK会長に対しては、「本当にこれだけ多くの放送波が必要なのか。同じようなコンテンツが別々の放送波で重複している。整理できるものを検討してもらえないか」と申し上げ続けてきた。「ラジオ」に限っては、災害発生時を想定すると、中波放送のAMのほうが到達範囲は広いというメリットがある一方、到達範囲が狭い超短波放送のFMのほうが高音質で雑音なく聴き取れるので、両方を一波ずつ残す必要性も伝えた。

この提案に初めて真剣に応えて下さったのが、前田会長だった。

前田会長は、「衛星」については早期にBS1とBSプレミアムの二波を一波に減らしたうえで、残る4Kと8Kの在り方も検討し、「ラジオ」についても三波から二波に整理する予定だ、と言って下さった。

8Kも、貴重な受信料を投じて世界に誇れる技術開発を行ったものなので、2021年の東京五輪での活用とともに、医療をはじめとした多様な分野での社会実装を目指すべきだと考える。

この「放送波の削減」が実現できると、受信料引下げにもがる大きなコストカットの余地が生まれる。

NHKが建設中の「新放送センター」については、箱物の建設費として約1700億円、放送設備の整備に約1500億円の経費を要するとされていた。

この「新放送センター」は、平成28年8月30日にNHKが『放送センター建替基本計画』を公表し、すでに着工した「情報棟」(報道・情報スタジオ等)に続き、「制作事務棟」(映像・音声スタジオ、事務室等)、「公開棟」(公開スタジオ等)と順次、工事が進む予定だ。

その「建設積立資産」として、NHKは現在、1694億円を保有している。

しかし放送波が減るのなら、「情報棟」や「制作事務棟」に必要なスタジオなど部屋数の減少、建物内に入れる放送設備整備費の圧縮ができるはずだ。大規模災害対策やサイバーセキュリティ対策は万全にする必要があるが、設備のシンプル化は可能だ。

すでに前田会長は、自らの査定で「新放送センター」の放送設備整備費を1500億円から1000億円に圧縮したことを明らかにされた。

さらに、放送波の削減による制作費の圧縮、クラウド化や拠点集約による効率化を行えば、数百億円規模のコストカットが可能だろう。

多額の繰越剰余金

第四に、NHKの「財務体質」にも課題があると感じていた。

NHKは、令和元年度末で1280億円を超える「繰越剰余金」を計上している。

一般論としては、民間企業が利益剰余金などの「内部留保」を必要以上に貯め込むことは、「成長のための投資」や「株主に対する適切な還元」に反し、好ましくないとされる。

しかしNHKの場合、「費用」に基づいて「収入」を決める総括原価方式であり、番組制作や機材購入への投資は拡大しやすい傾向にある。 「株主」にあたる国民・視聴者への「還元」、言い換えれば「受信料水準の引下げ」について、真剣に検討していただきたいと要請してきた。

この点についても、一部週刊誌では前田会長が否定的な発言をしておられるように報じられていたが、事実は逆である。

去る9月30日の「公共放送の在り方に関する検討分科会」の席上、前田会長がこう踏み込んでいる。

「私は、剰余金が出た場合には、剰余金のなかから一定額を値下げのための勘定に利用し、一定額が貯まったところで視聴者に還元する、そういう受信料還元に関する勘定科目の新設が必要だと思っています」

そのうえで総務省に対して、繰越剰余金の受信料への還元のための『総務省令』改正による「勘定科目の新設」を要請された。

肥大化する子会社や関連会社、グループ経営改革を

第五に、NHKの「肥大化」として批判されている子会社や関連会社を含めた「グループ経営改革」が不十分だということだ。

私が大臣在任中に、歴代NHK会長に対して改善を求めてきたことは、「適切な業務範囲の見直しをすること」「子会社における適正な経営及びコンプライアンスの確保」「NHK本体と子会社・関連会社との取引における透明性と適正性の確保」 「NHKは子会社に多額の出資をしているのだから、子会社の利益剰余金のNHK本体への適正な還元を実施すること」の4点だった。

現在、NHKの「子会社」は11社、「関連会社」は4社、「関連公益法人等」は9団体ある。

下の資料の表をご覧いただきたい。

全体的に、従業員に占める役員の比率が高い。「子会社」のNHKプロモーションでは、従業員58名に対し、役員が11名だ。「関連会社」4社の役員比率も驚くべき高さだ。

そのようなこと以上に、私が問題視しているのは、NHKは子会社等との「随意契約率」が高いということだ。令和元年度は93・5%だった。近年、90%超で推移している。より安価に外注できる業務も多くあるはずだ。

NHKグループ全体の人員数は、令和2年度で1万343名だ。子会社や関連会社の業務内容を一覧すると、「NHK本体では一体何の業務をしているのか」と不思議になるくらい、多様な業務が展開されている。業務の「分割ロス」に繋がりかねない細分化された子会社・関連会社の構成についても、大胆な改革が不可欠だと思う。

これまでにも、子会社数を減らすために合併した例はあった。資料の表に太枠で囲んだ2社である。
平成31年4月1日には「NHKアイテック」と「NHKメディアテクノロジー」が合併し、現在の「NHKテクノロジーズ」になった。令和2年4月1日には「NHKエンタープライズ」と「NHKプラネット」が合併して、現在の「NHKエンタープライズ」になった。

前田会長によると、過去の子会社合併では、給与が高いほうの会社に合わせて合併後の会社の従業員の給与が高止まりするなど、単純に子会社同士を合併するといういままでの手法では、時間とコストがかかる割に統合効果が発揮されていなかったということだった。

前田会長から私に対しては、「中間持株会社の設置」という提案がなされた。

NHKの業務と密接に関連する業務を担う子会社を中間持株会社の傘下に入れ、グループのグリップ力を強め、機動的にリソースを配置できるようにするほうが業務の合理化を加速できるということだった。

これは私には考え付かなかったアイデアで、大いに感心した。『放送法』の改正が必要になるが、長年かけても進まなかった「グループ経営改革」が実現する可能性が高い。

武田良太総務大臣や秋本芳徳情報流通行政局長(当時)には、前田会長の心意気を受け止めて、「グループ経営改革」に資する『放送法』の改正をぜひ実現していただきたい。

受信料制度の抜本的改革

最後に、とても困難だが、逃げてはならない課題を記す。「受信料制度の抜本的改革」だ。

「通信・放送融合時代」を迎え、若年層を中心にテレビ受信機を設置しない世帯が増加し、インターネット上の動画配信サービスの視聴が拡大するなど、テレビ視聴を巡る環境は大きく変化している。 前記したとおり、現行の『放送法』に基づく受信料制度は、あくまで「テレビ受信機の設置」が基準となっている。

ほぼ全ての世帯がテレビ受信機のみを通じて放送番組を視聴していた時代には、NHK受信料は「負担金」として一定の合理性があったと思う。

しかし、いまやテレビ放送用チューナーを搭載していない大型ディスプレイパネルが販売されており、インターネットによる多様なニュース番組や討論番組はもちろん、デバイスを挿して映画やドラマなど無料や有料の様々なサービスを楽しむことができる。

すでにNHKでは、「テレビ受信機は持っていないけれども、インターネット常時同時配信サービスでNHKの番組は視聴したい」と希望される方に対して、適切にサービスを提供することができないという課題が顕在化しており、『放送法』に規定する受信料制度の抜本的見直しは不可避になってきている。

具体的には、二種類の方法が考えられる。

第一は、イギリス方式で、「地上」と「衛星」と「ネット」の料金を一元化したうえで、全体的な料金水準を引き下げる「総合受信料」への変更だ。前田会長は、「衛星付加受信料」に係る不公平感解消の手段として、この方法を希望しておられると承知している。

第二は、ドイツ方式で、テレビ受信機の保有に関係なく、全ての住居占有者および事業主に対して「公共放送維持負担金」(仮称)を義務付ける方法だ。この場合は、公共料金や税金との一括徴収が可能となり、前記した「営業経費の高止まり」や「不公平感」の課題は解決する。

いずれの方法を選択するにしても、「低所得世帯については支払を免除すること」や「現状の受信料よりも格段に安い水準にすること」が求められると思うが、現在は支払っていない方々にも負担を求めることとなるため、政治的には相当な困難を覚悟する必要がある。

しかし、技術革新や生活スタイルの変化に法律が追い付いていないことはたしかで、「受信料制度の抜本的見直し」は避けてはならない課題である。

実は過去にも、「受信料の支払義務化」に向けた『放送法』改正案が、数回にわたって議論されている。

昭和48年には、「契約義務を支払義務に改正」 「罰則規定なし」という内容の法案が国会に提出された。衆議院逓信委員会で審議されたが、国会閉会時に審議未了で廃案になった。

昭和55年には、「契約義務を支払義務に改正」「受信設備設置の通知義務」「延滞金の規定を追加」という内容の法案が国会に提出された。審議は行われないまま、衆議院解散による審議未了で廃案になった。

平成18年には、『通信・放送の在り方に関する政府与党合意』において「支払義務の導入」が提示され、平成19年には、総務省が、受信料を2割程度引下げることを前提に「契約義務を支払義務に改正」「受信設備設置の通知義務」「延滞金の規定を追加」「罰則規定なし」という内容の法案を準備した。

ところが、NHKが受信料引下げに難色を示したため、「支払義務化」の条項を法案から取り下げ、結局、『放送法』の改正は実現しなかった。

大臣再任後、総務省の「放送を巡る諸課題検討会」で、諸外国の公共放送制度も参考にしながら、有識者や放送関係者の皆様に「受信料制度の抜本的改革」について議論をしていただいてきた。大臣を退任したいまでも、検討会の結論が政府による法改正への再トライを認めるものになることを期待している。

視聴率狙いの番組制作をする必要はない

ただし、「公共放送維持負担金(仮称)の支払義務」を明記するような『放送法』改正を実現するためには、「NHKは日本にとって大切な公共放送の担い手という存在なのだから、必ず維持しなければならない」という声が国民の皆様から湧き上がるような、NHKに対する揺るぎない信頼感が醸成されることが必須だ。

いまさらだが、NHKは『放送法』第15条に基づいて、「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送(略)を行う」ことなどを目的として設置されている特殊法人だ。

多くの方々が負担して下さる貴重な受信料によって運営されている法人だからこそ、前田会長がおっしゃるように「質の高いNHKらしい充実したコンテンツを、合理的なコストで提供していくことが重要」なのだ。

そもそも企業スポンサーが不要なのだから、民放と競って視聴率狙いの番組制作をする必要はないし、民放や新聞社の業務を圧迫するような事業を行う必要もない。

(初出:月刊『Hanada』2021年1月号)

高市早苗

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