北朝鮮の軍幹部が震え上がる「処刑公開ビデオ」の中身

北朝鮮当局が積極的に取り組んでいる非社会主義・反社会主義行為の取り締まり。当局が好ましくないとみなした行為にそのようなレッテルを貼り、死刑を含めた厳しい罰を与えることで、「社会主義の楽園」とやらを打ち立てようとしているが、取り締まっても取り締まってもきりがないのが現実だ。

そんな状況に業を煮やしたであろう当局は、動画を利用した非社会主義・反社会主義根絶のための教育を始めたと、デイリーNK内部情報筋が伝えた。

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の総政治局宣伝扇動部のコンピュータ講演宣伝処で制作され、先月24日に公開されたと思われるこの30分の動画は、「全軍をチュチェ(主体)思想、社会主義守護精神で一色化し、人民軍内の非社会主義、反社会主義的行為が浸透できないように強力な思想闘争を繰り広げなければならない」との解説者の言葉から始まる。

次いで、各部隊の指揮官やその家族が行った様々な非社会主義・反社会主義の実例を羅列した上で、いずれに対しても厳罰が下されたと締めくくられる。

実際に紹介された実例を挙げると、「某連合部隊政治部の責任指揮官のチェ某という輩は、党と首領(金正恩総書記)に任せられた革命軍隊の指揮官の地位が、あたかも生まれ持ったものであるかのように考え、誕生日の宴会を5年ごとに開いていた」としている

北朝鮮においては、整周年(5や10で割り切れる年)に行われる記念行事は非常に重要なもので、誕生日が祝われるのは最高指導者だけだ。特に問題となったのは、今年5月の宴会だ。コロナ防疫規定で集まりが禁じられているにもかかわらず、部隊の宣伝隊を動員し、資本主義思想に染まった退廃的な曲を演奏させ、歌って踊ったという。

「宣伝隊の女性軍人たちを抱き上げて、社交ダンスだの、タンゴだの、(K-POP)アイドルダンスだの、醜悪にもおしりを振り続けた」
「この世に許されざる反党、反国家的な犯罪を犯した」
(動画より)

チェ指揮官は、部隊の沿革を記録する歴史記録参謀を呼びつけて、上記の様子を撮影させたとのことだが、どうやらこれが外部に流出してしまったようだ。

動画ではチェ某のみならず、5人の政治、保衛、後方、行政担当の指揮官が派手な服装や行動により腐敗、堕落したとして、一家もろとも政治的、法的処罰を受けたとも指摘している。解任、撤職(更迭)、除隊、出党(労働党からの除名)に加え、革命化(下放)処分を受け、山奥の農村に追放されるというのが一般的なコースだが、動画で公開された事実はいっそう厳しいものだった。

特に、金日成軍事総合大学政治部の組織部長(大佐)については、「わが国の革命武力の指揮官の骨幹(エリート)を育てる最高の原種場(養成機関)の政治イルクン(幹部)の資格を喪失したこいつを、革命の名の下に、7月初頭に断固として処刑した」(動画より)

動画を見せられた軍幹部らは、自分もいつか殺されるのではないかと震え上がり、自己修養、家庭革命化(家族の行動を律する)、部下の言動に非社会主義、反社会主義的行為がないか点検し、総政治局が指示通りに自己批判書を作成するなど、生き残るために必死になっている。

庶民には非常に評判の悪い非社会主義、反社会主義的行為の取り締まりだが、その対象が幹部に向けられると、その横暴さに苦しめられている庶民からは拍手喝采が上がる。だからこそ、当局は幹部の締め付けに熱を上げるわけだが、楽しいことを我慢しろということ自体が無理な話。ほとぼりが冷めれば、また美酒に酔いつつ、社交ダンスに興じることだろう。

ちなみに、今回の動画の実物はまだ入手できていないようだ。

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