「出生時育児休業」とは?育児・介護休業法の改正で男性が育児休業を取りやすくなる理由

育児・介護休業法が改正され、男性でも育児休業が取得しやすくなると期待されています。なかでも2022年秋から新しく始まる「出生時育児休業」は、子どもが産まれた直後に男性が育児休業を柔軟に取れる仕組みとなっています。

現状では男性の育児休業取得率は約7%(厚生労働省「2019年度雇用均等基本調査」)と低く、取得したいと言い出すのには勇気がいるかもしれません。新制度の内容や活用法を知って、職場と家庭の両方が円満となるような育児休業取得の計画作りに役立てましょう。


改正で男性も育児休業が取得しやすくなる

2021年6月に成立した改正育児・介護休業法により、男性でも育児休業が取得しやすくなると予想されます。なぜなら、育児休業が取得しやすいように、事業主は職場の環境整備や育児休業の取得率公表を義務づけられるからです。

<育児・介護休業法の改正ポイント>

・2022年4月1日から(全ての事業主)

妊娠・出産を申し出た労働者に対する個別の周知・意向確認(面談での制度説明、書面による制度の情報提供など)や、育児休業を使いやすい環境制度(研修、相談窓口設置など)が義務となる

・2023年4月1日から(従業員数1,000人超の事業主のみ)

男性の育児休業の取得率など、育児休業等の取得状況の公表が義務となる

個別の周知・意向確認や環境整備は全事業主に義務づけられるため、自然と育児休業の制度を知り、取得したいと言い出しやすくなることが期待できますね。また、育児休業の取得状況が公表となる大企業では、企業人気を高めるために積極的に育児休業取得をすすめる動きが加速すると予想されます。

産休の男性版?「出生時育児休業」とは

また、改正育児・介護休業法では「出生時育児休業」が新設されます。これは現行の育児休業をパワーアップさせたようなもので、男性が子どもの出生直後に4週間まで休業することができる制度です。取得可能な期間は、女性の産後休暇と同じ「出生後8週間以内」で、男性の産休と言われたりもします。

現行の育児休業と大きく違うポイントは、「申請時期の短さ」「取得できる回数の多さ」「労使協定を締結すれば休業中も就業可能」の3つです。ひとつずつ解説していきます。

<出生時育児休業の概要>

資料:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内等をもとに執筆者作成

なお、出生時育児休業の取得中は、現行の育児休業と同じく、雇用保険から最大で休業前賃金の67%相当の「育児休業給付金」が支給されます。そのほかにも社会保険料免除や税金の負担減などがあるため、稼ぎ頭の男性でも収入面で過度に心配する必要はありません。(関連記事:男性の育休で収入は…育児休業給付金で「実質9割カバー」は可能?)

ポイント1:予定外の事態に対応しやすい2週間前申請

出生時育児休業は、原則2週間前までに取得申請すれば良いこととなっています(現行の育児休業制度は1カ月前まで)。

そのため、「出産予定日がずれたので育児休業の取得時期をずらす」「産後の母子の健康状態を見て取得日数を決定する」など、本当にサポートを必要とする時期・期間に合わせて柔軟に取得しやすくなります。

ポイント2:取得できる回数が増えて自由度アップ

出生時育児休業は、分割して2回取得できます。そのため、例えば妻が里帰り出産する場合には「産後すぐ」と「自宅に戻ったタイミング」の2回に分けて取得することなどができるようになります。

同時に、今回の改正により現行の育児休業でも2回に分割して取得ができるようになります。つまり、出生時育児休業と育児休業を合わせると、全部で4回に分けて休業できるようになるのです。

育児休業を複数回取得できるようになることで、育児休業を利用する上での自由度は大幅にあがるでしょう。「妻と交代で育児休業を取得する」「双子育児や上の子の夏休みなど、育児の負担が大きい時期をサポートする」など、妻の産後サポートとは別に、個々の家庭の事情に合わせて取り方をカスタマイズしやすくなります。

ポイント3:一定条件下では育児休業中の就業が可能

育児休業中は原則就業不可ですが、出生時育児休業中は、労使協定を締結している場合に限り、労働者と事業主で事前に調整して合意した範囲内で就業することが可能となっています。

これにより、完全に休業するのではなく、1日のうち一定時間は仕事をしつつ家事や育児をする時間を確保して妻をサポートするという「半育休」の実現が可能になりそうです。

就業可能な日数や時間は、育児休業給付金の支給要件に合わせて「休業期間中の労働日・所定労働時間の半分」が上限となる予定です。働き方次第では育児休業と認められなくなる危険もあるので、出生時育児休業中の育児休業給付金や社会保険料免除の条件などをしっかり確認したうえで実行に移すことが不可欠です。

出生時育児休業中におすすめのサポート

出生時育児休業が始まっても、男性の育児休業取得が女性に比べてハードルが高いことは変わらないでしょう。貴重な休業期間を最大限に活かすためには、休業中にやることを事前に具体的にイメージしておくことが大切です。

産後の女性は、体調不良で起き上がるのも苦労したり、ホルモンの急激な変化によって産後うつに悩んだりすることもあります。出生時育児休業の時期は、次のようなサポートがおすすめです。

__<出生時育児休業中のサポート例>
・赤ちゃんのお世話
・出生届・児童手当・健康保険などの手続き
・兄姉の育児(通園・通学サポートなど)
・身の回りの家事(掃除・洗濯・料理・買い物など)
・出産祝いへのお返し(内祝い)の準備
・産休手当金や高額療養費制度などの情報集めや手続きサポート
・妻が1人で外出できる自由時間を作る__ など

子どもが2人いる筆者の実体験から言わせてもらうと、最も大事なのは妻のメンタルサポートです。「大変なときに、夫がそばにいて味方してくれた」という経験がその後の夫婦関係に与える影響は大きいでしょう。ここは、祖父母や家事代行サービスなどではカバーできません。

もし収入や職場の事情などから育児休業の取得が難しい場合でも、「産後はいつもより早く帰宅して家事を手伝う」「妻の悩みをやさしく聞く・励ます」といった形などでサポートできると良いでしょう。

育児休業をうまく活用して円満な家庭を作ることは、安らげる家庭があることで仕事に集中できたり、早く帰るために仕事を効率的に進めるモチベーションにつながったりと、長い目で見れば事業主にとってもプラスに働くことでしょう。ぜひ男性も、育児休業の取得を前向きに検討してみてください。

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