米野智人さんはメットライフドームに料理店を出店、涌井は50万円を援助するなどした
西武の本拠地、メットライフドームの一塁側外周コンコースに、ピンク色の外観が目を引くヴィーガン料理店「BACKYARDBUTCHERS」がある。オーナーはヤクルト、西武、日本ハムで17年間プレーした米野智人さんだ。米野さんは引退後、現役時代に学んだ食の知識を生かし「健康・ヘルシー」をコンセプトにしたレストランを東京・下北沢で営んでいた。そのとき「改修して新しく生まれ変わるメットライフドームにお店を出さないか」という話が舞い込んだ。
「球団の方から、セカンドキャリアを応援したいというお話をいただきました。球場にお店を出すなんて考えたこともなかったので最初は迷いました。でも、去年試合を見に行った時、自分がいた頃とは球場の雰囲気がだいぶ変わっていて『ここにお店を出してみたいな。野球がメインでお客さんが集まる場所でお店を出したら面白そうだな』と思いました」
新たに出店するには、初期費用がかかる。そこで、お店の存在を知ってもらうためにも、クラウドファンディングを募ることにした。しかし、設定した目標金額に約50万円届かなかった。そこで男気を見せたのが、かつて西武でチームメートだった楽天の涌井秀章投手だった。
「足りない50万円分をリターン商品を購入して支援してくれました。そうしたら、ファンの方もさらに買ってくれて、金額が予想以上に伸びました。本当に助かりました」
涌井とは、米野さんが西武に移籍した2010年から4年間チームメートだった。学年は米野さんが5つ上だが、当時から仲が良かった。
「涌井は先輩にも友達みたいな感じで接します。でも、それが楽に感じることがある。プロは実力の世界でお互いに認め合っているので、先輩も後輩に気を使うことがあります。そういう意味では、あんまり気を使わない後輩でした。でも、それが涌井の気の使い方なんだと思います」
涌井は「誰がエラーをしても顔に出さない。そういうのも気使いなんだなと…」
「相手に気を使わせないように、気を使う」。そんな心遣いは、プレー中にも感じることがあった。
「エラーした時にピッチャーの表情を見ちゃうじゃないですか。顔に出されたら『自分のところに飛んでこないでくれ』と思ってしまう。でも涌井は、内心は色々あると思いますが、誰がエラーをしても全く顔に出さない。そういうのも気使いなんだと思います」
涌井の協力もあり、今年3月のオープン以来多くのファンが訪れ、店に立つ米野さんに声を掛けていく。近い距離で接し、ファンの野球への熱い思いを感じている。
「これだけ人々に愛されるスポーツなんだなと、選手を離れて改めて感じています。皆さんがいい試合を見られるのが一番ですが、負けてしまった日でも『あそこのお店のあれが美味しかった』と少しでも記憶に残ってくれたら嬉しいです」
米野さんは、出店に力を貸してくれたかつてのチームメートやファンの思いを胸に「長く愛されるお店にしたい」と、新たな夢に向かって挑戦を続けている。(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)