母親仕込みの“野茂ワインドアップ” 阪神Women・坂東の復活支えたレジェンド

阪神タイガースWomenの坂東瑞紀【写真:川村虎大】

母が好きだった野茂のフォームに魅了、豪快なワインドアップに

両腕を高々と挙げたワインドアップは、海を渡った“先駆者”の姿と重なる。松山市で開催されている全日本女子硬式野球選手権。阪神タイガースWomenの坂東瑞紀投手が、6年ぶりの舞台で躍動した。このマウンドに戻るまで、決して平坦ではなかった日々。大切な存在からの支えに感謝する。【川村虎大】

「成長して戻ってくることができたと思います」。至学館大時代の2015年以来のマウンドに立った坂東は試合後、感慨深く語った。11日に行われた桃山学院教育大との2回戦に先発。4回まで毎回走者を出しながらも要所を三振で締め、4安打無失点にまとめた。チームは7-0の5回コールドで、初の全国大会でベスト8に進出した。

ゆったりしたフォームから最速122キロの直球とスローカーブを投げ分ける。天高く突き上げたワインドアップは、日米通算201勝を誇る野茂英雄氏の姿を真似た。兄の影響で小学2年から始めた野球。練習相手になってくれたソフトボール経験者の母との時間が、今でも色濃く出ている。

「毎日キャッチボールしてくれました。構えたところに投げないと取ってくれなくて、とても厳しかったです。でも、それが今のコントロールにつながっています」。母が好きだったという野茂氏のフォームに魅了され、小学6年時に2人で練習し、豪快なワインドアップに。当初はトルネード投法にも挑戦したが、「最終的にはシンプルな形になりました」と話す。

至学館大進学後は、投手としても活躍。2016年に女子プロ野球球団「埼玉アストライア」に入団した。投手としてプレーしたが、最初の3年間はいずれも防御率3点台。中でも2018年は、自己ワーストの3.78だった。「結果が出なかったら終わり」と焦りが募る中、声をかけてくれたのが三浦伊織外野手だった。

阪神タイガースWomenの坂東瑞紀【写真:川村虎大】

三浦の紹介でパーソナルジムに、2年で球速は14キロアップ、防御率は2点以上改善

2018年に坂東が京都フローラに移籍してチームメートに。当時すでにMVP1回、首位打者2回、ベストナイン6回を誇る女子球界のレジェンドだった三浦。それでも、まだ3年目だった自分に、積極的に話をしてくれた。

「投げているときに打席に立ってくれて、『この球は打ちやすいよ』『これは打ちにくいね』って打者目線でアドバイスをくれました」

復調できたのも、大先輩のおかげだった。2018年オフに三浦に紹介されたパーソナルトレーニングジム「からだオーダー」に入会。一からフォームを見直した。「ひとつひとつの動作を細かく指導してくれて、パワーの出る体のバネの使い方を学びました」。フォーム改造に不安もあったが、結果はすぐに現れた。翌2019年には、最速108キロから116キロに。さらに2020年には122キロまで伸びた。それに伴い防御率も2.09、1.48と大きく向上した。

2020年に女子プロ野球を離れ、今年創設された阪神タイガースWomenに加入。3年ぶりに三浦と一緒にプレーする。「個々のレベルが高いチームだが、チームとしてもまとまってきた。伊織さんが主将をしているから」と、話す。今では、面倒見のいい「お姉ちゃん」のような存在。野球以外の相談もし合う仲だ。

「あの時、伊織さんと出会っていなかったら、野球をやめていたかも」。今年の女子野球日本代表「マドンナジャパン」のメンバー入りを果たし、復活を遂げた右腕は、その恩を忘れない。「選手として、中学生や若い子たちに憧れられる存在になりたい。そして少しでも女子野球に関わり続けたい」。次は自分が若手を支える番だ。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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