【高校野球】東京五輪の“不思議な縁”に導かれた8人 初出場の東北学院支える「イタリア組」

中学3年時に仙台市選抜としてイタリアの大会に出場し東北学院に進学した8人【写真:高橋昌江】

創部50年の節目に初の甲子園、1回戦は愛工大名電と対戦

全国高校野球選手権で、初出場の東北学院(宮城)は、11日の第4試合で愛工大名電(愛知)との1回戦に臨む。3年生24人中、8人が中学3年の時に東京五輪に関わる仙台市の交流事業で、15人で組まれた硬式野球チームの仙台市選抜に入り、イタリア遠征を経験。1年延期になった東京五輪が開催された今年、奇しくも創部50年の節目に初めて甲子園出場をつかみ取った。イタリアで白球を追った夏から3年後、今度は高校野球の聖地に立つ。【高橋昌江】

仙台市は東京五輪の開催に伴い、イタリア代表チームのホストタウンに名乗りを上げた。仙台市とイタリアは、初代仙台藩主・伊達政宗が慶長遣欧使節をヨーロッパへ派遣したことから400年以上もつながりがある。2002年のFIFAワールドカップの際も、サッカー代表チームの事前合宿が行われるなど、スポーツや文化で交流を図り、友好関係を築いてきた。五輪に向け、市ではさまざまな取り組みをしてきたが、そのひとつが野球チームのイタリア派遣だった。

今年の高校3年が中学3年だった2018年。宮城県内のリトルシニアとボーイズに所属する選手の中から15人が選ばれ、仙台市選抜を編成。大会では、イタリア3チームと試合をして優勝。観光名所も訪れ、授業で習った世界最小の国・バチカン市国やコロッセオなどの世界遺産を目にしたり、地中海を泳いだり。宿舎では、互いにカタコトの英語ながら、イタリアの選手たちと卓球で盛り上がった。また、2016年のイタリア中部地震の被災地も訪問し、現地の園児に扇子をプレゼントした。

何度もあった事前練習、そして10日以上もともに生活したことで絆が深まり、15歳の夏に最高の思い出ができた15人の選手たち。そのうちの8人が東北学院に進学した。「同じ高校に8人も集まるとは想像していなかった。何かの縁ですね」と話すのは、身長187センチのエース・伊東大夢(宮城黒松利府シニア)。9番や2番で打線をつなぎ、遊撃の守備でチームを救ってきた武田修弥(仙台南シニア)も「なんか、奇跡だなって思いました」と入学時を思い返す。

イタリアでの試合の様子【写真提供:伊東大夢の母・裕子さん】

福島・日大東北にも2人、仙台市選抜の15人中10人が甲子園切符

8人の中には当初、別の高校を見据えていた選手もいたが、進学状況など偶然が重なって“集結”。その場所が、私学で学力が高く、文武両道で進学率がほぼ100パーセントの東北学院だった。

彼らの入学直後、東北学院は春夏秋を通じて初の県ベスト4入りを果たした。宮城3位で出場した東北大会は初戦をコールド勝ちすると、2回戦で花巻東(岩手)を下して8強入り。準々決勝はサヨナラ負けしたが、大健闘だった。スタンドから見た先輩の背中を指針に練習に励み、最上級生となったこの春も、県大会で3位になった。そして、迎えた夏。8人中7人がベンチ入り。4人がレギュラーとしてチームの中心を担った。

宮城大会は逆転勝ちを続け、初めて決勝へ。仙台三に対し、3回に2点を先制されたが、試合をひっくり返してきた東北学院は慌てない。5回に打者13人の猛攻で8点を奪って逆転。6回に3点を返されたが、9回に4点を奪って突き放し、12-5で甲子園切符という“金メダル”をつかんだ。宮城大会でチームトップの11打点を挙げた攻撃の要・及川健成(仙台宮城野シニア)は「すごいっすよね、本当に。これも何か、運命とまで言わなくても、縁があると思います」と喜んだ。

甲子園を掴み取った“イタリア組”は、東北学院の8人だけではない。18年ぶりに出場する日大東北(福島)にも、仙台市選抜のメンバー2人が所属している。「9番・三塁」の相澤柊吾(仙台中央シニア)は福島大会の決勝で2打数2安打1打点。4-4の9回裏には、1死一塁で犠打を決め、1番・大塚健太外野手(3年)のサヨナラ打につなげた。

15人中、10人が甲子園に辿り着いた。昨夏の独自大会も含め、宮城は仙台育英が4年連続で、福島は聖光学院が14年連続で夏を制覇している厳しい状況での快挙。グループラインでは「東北学院、おめでとう」「日大東北、おめでとう」と盛り上がったという。「学院に15人中、8人が来たというのもすごいと思うんですけど、他の学校、県でも活躍した人が多い」と及川は胸を張る。

甲子園に行けなくても地方大会で躍動した“イタリア組”たち

東日本国際大昌平(福島)で主将を務めた菅原立稀(南仙台ボーイズ)もメンバーのひとり。昨秋の福島県大会で初優勝に導き、東北大会8強入りした。今夏は第1シードで臨んだが、準々決勝で日大東北に逆転負け。菅原自身は4打数1安打1打点で、チーム唯一の打点を挙げ、気を吐いた。

イタリア遠征メンバー2人が所属する山形城北は山形大会初戦で、春優勝で第1シードの酒田南を撃破。主将だった中村成良(仙台ボーイズ)は3打数2安打2打点でチームを牽引した。東北生活文化大高(宮城)の手代木瑠(仙台太白シニア)はリードオフマンとして躍動。夏は3回戦で4強入りすることになる聖和学園と対戦。手代木は延長10回表2死二塁で左前に安打を放ったが、二塁走者が本塁でアウト。延長11回の末、0-1のサヨナラ負けと惜敗だった。

「公立校で仙台育英を倒したい」と、仙台市選抜メンバー15人の中で唯一、公立校に進んだ宮澤太陽(仙塩東シニア)も仙台商で活躍した。背番号3をつけ、打順は4番。身長187センチの長身左腕として先発投手も任された。4回戦の仙台育英戦も先発し、4回を被安打3、無失点と好投した。強力打線を相手に投球テンポを工夫。同じく打力がある東北学院との練習試合でも試してきた秘策を大一番で披露した。5回からエース・齋賢矢(3年)にリレーし、3-2で勝利。仙台育英の県内公式戦を「44」でストップし、昨夏の独自大会を含む夏5連覇も阻止。選抜大会8強の強豪から金星を挙げた。

「次の試合が一番、大事」と心して準々決勝も先発したが、1回2失点で降板。3回にタイムリーを放つなど、5打数3安打とバットで存在感を示したが、延長12回、3-4のサヨナラ負けで高校野球を終えた。宮城大会決勝は悔しさも抱きながら、会場の石巻市民球場で観戦。試合後は「自分たちが行きたかった。羨ましい」と思いながらも、イタリアメンバーを祝福した。東北学院と仙台商は何度も練習試合をしてきた。だから、「打線が強いし、ショートの武田は守備が上手いし、(エースの)大夢がしっかり投げれば、大崩れしないチーム。学院の野球ができれば、勝負ができると思う。悔いなく頑張ってきてほしい」と自信を持ってエールを送る。

東京五輪は、本来であれば彼らが高校2年の時に開催されるはずだった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で1年延期され、交流事業としてイタリアで熱い夏を過ごした中学生は高校3年になった。東北学院から約1キロの仙台市民球場では、イタリアのソフトボール五輪代表チームが合宿を行い、大会に臨んだ。不思議な縁で結ばれ、何かに導かれるように、オリンピックイヤーに“高校野球の聖地”にたどり着いた東北学院の選手たち。武田が「負けたチームの分も全力プレーをしたい」と言えば、及川も「みんなでベストを尽くして、最後までいい勝負をしたい」と意気込む。(高橋昌江 / Masae Takahashi)

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