天体観測に悪影響を及ぼす衛星コンステレーション 影響緩和するソフトウェア開発始まる

【▲ 2019年12月26日に撮影されたはくちょう座の二重星「アルビレオ」の合成画像。約150秒の露出を10回実施したところ、スターリンクの人工衛星による光の航跡が覆ってしまった(Credit: Rafael Schmall)】

地球低軌道(LEO)での衛星コンステレーションの運用や規制について議論する「衛星コンステレーション2(SATCON2)」ワークショップが、7月12日から16日にかけてオンライン開催されました。SATCON2では衛星コンステレーションが天体観測に与える悪影響を緩和するためのソフトウェアを提供する拠点「SatHub」の設置が提案されましたが、その実現には資金調達や支援が必要だといいます。

問題視された衛星コンステレーション

2019年5月、SpaceXは通信衛星コンステレーション「スターリンク(Starlink)」用の人工衛星60基を打ち上げました。初めて大量に打ち上げられたスターリンクの人工衛星が残した光の航跡に天文学者は懸念を抱き、衛星コンステレーションが与える影響について調査を開始しました。米国天文学会(AAS)と米国国立光赤外線天文学研究所(NOIRLab)は、LEOに10万基以上の衛星コンステレーションが打ち上げられると、どのような方法を組み合わせても衛星コンステレーションによる天体観測への悪影響を緩和できなくなるだろうと報告しています。

予測される影響を和らげるために、AASは衛星コンステレーションを計画する宇宙機関や企業と議論を開始。SATCON2もその一貫だといいます。

ソフトウェア開発と法規制の両面から展開

昨年のSATCON1に続いて開催されたSATCON2には、350人以上の天文学者が参加したようです。SATCON1で推奨された衛星コンステレーションによる悪影響緩和策を実行に移すため、SATCON2では天文学者やコミュニティメンバー、衛星事業者が衛星コンステレーションの問題に共同で取り組める拠点「SatHub」が必要だと提案されています。

SatHubの主な目的はLEOの衛星を観測し、その結果を適時外部に発信することですが、衛星コンステレーションの影響を緩和するためのソフトウェアの開発政策面での提案など個別の目的が立てられ、各作業部会にて検討されるようです。

▲オンラインで実施されたSATCON2ワークショップ▲

衛星コンステレーションによる影響を取り除くアルゴリズムを考案する作業部会では、人工衛星がどこを通過するかを予測するソフトウェア「PassPredict」やコンピューターシミュレーションを活用して、衛星コンステレーションの航跡による天体観測データの劣化を定量化することを検討中です。

また、衛星コンステレーションが現在や将来において、地上あるいは宇宙空間での天体観測にどのくらいの影響を及ぼすかをコンピューターシミュレーションで予測する必要性についても提案されました。「PassPredict」などの既存のソフトウェアは特定の科学装置に特化しているため、汎用化される必要があるといいます。

ただし、SatHubが稼働するには時間と資金が必要です。天文学者たちは国際天文学連合(IAU)への支援要請を含む資金調達モデルを検討しています。また、ソフトウェアによる解決だけでは天体観測への悪影響を完全には緩和できないといいます。天体観測への影響はもちろん、通信衛星が送受信する電波同士での干渉の発生も懸念されるなど、衛星コンステレーションが与える悪影響については更なる研究が必要だといいます。

衛星コンステレーションに対する法規制は、米国などではなかなか進んでいない状況です。SpaceXがスターリンクで運用する人工衛星を2,800基以上追加するよう連邦通信委員会に免許修正を申請したことに対し、米国通信会社のViasatが免許修正を停止するよう請求していましたが、米国控訴裁判所が7月20日に請求を棄却したばかり。Viasatは、SpaceXの免許修正には環境面での再検討が必要だと論じています。

SATCON2に出席したマサチューセッツ州ノーザンプトンにあるスミス大学のJames Lowenthal教授は、衛星コンステレーションに対する規制については、オゾン層の保護を謳ったモントリオール議定書(1987年採択)から学ぶべきことがあると述べています。

Image Credit: Rafael Schmall
Source: SpaceNews, SPACE.COM, SATCON1, SATCON2, NOIRLab
文/Misato Kadono

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