ガロが「学生街の喫茶店」後に発表した『CIRCUS』THE ALFEEが敬愛を公言する、そのバンドの本質

『CIRCUS』('74)/ガロ

今週は堀内 護、日高富明、大野真澄の3人グループ、ガロの名盤を紹介する。彼らのデビューは1971年10月で、今年デビュー50周年でもあるので、どこかで取り上げようとそのタイミングを計っていたのだが、先日、ひょんなことからガロの名前を聞き、それならば…と今週に繰り上げた次第である。まずはそのひょんなことから書き始めてみることとする。

本質は「学生街の喫茶店」ではない

先日、THE ALFEEにインタビューさせてもらった。すでに公開されているので、未読の方はぜひこちらをご参照いただければ…と思うが、個人的に興味深く思ったのは、今回の新曲「The 2nd Life -第二の選択-」のカップリング曲「光と影のRegret」についての言及である。THE ALFEE の3人は、この楽曲が先輩バンド、ガロへの敬愛であることを堂々と口にされたことに少し驚いた。その後、調べたら、本サイトに限らず、同時期に行なわれた取材でほぼそこは強調していたから、決して軽い気持ちではなく、心からの尊敬と愛情の表れであったのだろう。CDには“With our respect to GARO”とクレジットされているというから恐れ入る。

また、THE ALFEEほどの大ベテランがガロへのリスペクトを公言したこともさることながら、メンバーが“ガロの本質は「学生街の喫茶店」ではない”と言ったことだ。半可通以下の自分としては、ガロと言えば「学生街の喫茶店」のイメージしかなかった。実際、「光と影のRegret」には「学生街の喫茶店」の雰囲気は微塵もない。余談だが、そのTHE ALFEEの取材から数日経ったのち、とあるアーティストに軽くその話をしたら、その人も“THE ALFEE のルーツは「学生街の喫茶店」なのかぁ”と言ったくらいだから、多くの人はーー特にある程度以下の年齢の人は、やはり“ガロ=「学生街の喫茶店」”というイメージが強いと思う。まぁ、依然そんな現状であることもまた、THE ALFEEがここに来て再びガロを推した理由だとも想像できるが、個人的にはその取材を機にガロに少し興味が沸いたのも事実。それが今回ガロの名盤を紹介するに至った経緯ではある。

しかし、半可通以下である筆者はどのアルバムを選んでいいか分からない。「学生街の喫茶店」収録の『GARO2』は件の理由から何か違う気もするし…と思っていると、Wikipediaに[1974年にはコンセプトアルバム『CIRCUS』がリリースされる]、さらには[後期には「ソフトロック」というジャンルにおいて、またアルバム『CIRCUS』『吟遊詩人』ではプログレッシブロック的な、『三叉路』ではハードロック的なアプローチをしたこともあり、ロックバンドとしても再評価されている]とあるのを発見。全収録曲が作詞:阿久 悠、編曲:松任谷正隆の『吟遊詩人』も、ガロ以前に堀内 護、日高富明と共にGSバンドを組んでいた松崎しげるも参加している『三叉路』も興味深く思ったが、今回は『CIRCUS』を選ぶこととした。

『CIRCUS』は「学生街の喫茶店」がヒットし、[その年末には第15回日本レコード大賞大衆賞、第6回日本有線大賞新人賞を受賞。第24回NHK紅白歌合戦にも出場した]翌年の1974年にリリースされた。[「学生街の喫茶店」に相当するヒットには至らなかった]ともあるから、“「学生街の喫茶店」的なガロ”との比較においてもベターではあろうと判断した。今後、機会があれば、『吟遊詩人』も『三叉路』もしっかり聴いて文章にしたためたいと思うが、そういうことでご理解いただければ幸いである。まぁ、言ってしまえば、完全Wikipedia任せで何となく選んだことには違いないのであるが、『CIRCUS』を聴いた瞬間、このチョイスが適切であることをはっきりと確信した(上記の[]は全てWikipediaからの引用)。

ガロの『サージェント・ペパーズ』!?

『CIRCUS』は確かにコンセプトアルバムである。誤解を恐れずに言えば、The Beatlesの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』を意識したアルバムであろう。いや、誤解を恐れず…も何も、本作がCD化された際(多分1998年)、その帯に“ガロの“サージェント・ペパーズ”と呼ばれるコンセプトアルバムが遂にCD化!”とあるから、その辺はメンバー、スタッフも当然意識していたことは間違いない。というか、M1「団長のごあいさつ」からそれは明白である。軽快なブラスとストリングスは、『Sgt. Pepper's~』のオープニングを彷彿させるし、中盤以降リズムがミドルに落ち着いてからの雰囲気、空気感もそれに近い。《これからのひとときをごゆるりとお楽しみを》の歌詞は《We hope you will enjoy the show》の意訳というと大袈裟だろうか。3声の美しいハーモニーは半可通以下の自分でも感じる、まさしくガロらしさと言ったところであろう。新鮮だったのはバンドサウンドのロック感である。新鮮というよりも、いい意味で意外ではあった。エレキギターの鳴りといい、ドラムの響きといい、どう聴いてもロック。ハーモニーやストリングスの美しさに隠れてはいるが、バンドサウンドだけを抽出したら、ソフトロックどころではない。『CIRCUS』1曲目から、THE ALFEEが言った “ガロの本質は「学生街の喫茶店」ではない”との意味が少し分かったような気がした。

M2「空中ブランコ」はガロらしい美しいハーモニーから始まるが、テンポといい、柔らかなメロディーといい、穿った見方かもしれないが『Sgt. Pepper's~』の2曲目「With a Little Help from My Friends」を彷彿させる。The Beatlesを参考にしたうんぬんというよりも、軽快な1曲目からややテンポが落ち着いた2曲目につなげるというのは、アルバムの構成として王道なのであろう。そこから、M3「オートバイの火くぐり」、M4「猛獣使い」、M5「ピエロの恋唄」、M6「曲馬団」…と、サーカスの演目さながらに曲が連なっていく。M3、M4はもろにロック。M3がソリッド、M4はややポップとタイプこそ異なるが、いずれもグイグイと迫る。そんな中でも、M4のコーラスワークはさすがだし、それぞれにバイクの音、ライオンか虎の吠える声が前の曲に被り気味に入っているのが、いかにもコンセプトアルバムらしい作りでもある。M5「ピエロの恋唄」で再びテンポがスロー~ミドルになるが、この楽曲での注目はストリングスだろう。M5まででも弦楽器の重ね方が十分に堂に入っていることは分かったが、このように若干サイケデリックな入れ方もするというのは、やはりガロが単なるフォークグループではない証拠と言えるかもしれない。

M6「曲馬団」のヨーロッパ民謡的な感じは、まさにサーカス。悲哀のあるメロディーもいい雰囲気だ。続くM7「なぞの女」がアメリカンフォークというのも面白い。「Norwegian Wood (This Bird Has Flown)」に近い進行を感じたのは、おそらくThe Beatlesのことが筆者の頭に残っていたからだと思うが、歌もギターも滑らかでスムーズに耳に入って来る心地良いナンバーだ。M8「大男の歌」もメロディアスなナンバーで、きれいなハーモニーと細かいギターのアルペジオによるアンサンブルが印象的。かと思えば、サビではヴォーカルの主旋律にエレキギターがユニゾン風に絡む。そして、これもまた絶妙な絡み方をするストリングスもいい感じで、短い曲ながらこのバンドのポテンシャルを感じざるを得ない楽曲と言える。エレキギターが主旋律を引っ張るM9「綱渡り」は少しプログレ風味のインスト。ガロのインストはバンド史上、本作に収められたこの楽曲だけだという。後半で聴こえてくる奥行きのあるコーラスワークはどこかゴスペルチックで、これまたさすがの貫禄と言えるだろう。M9終盤の拍手喝采からつながるM10「この世はサーカス」は、M1「団長のごあいさつ」のリプライズで、この辺からも本作が『Sgt. Pepper's~』の影響下にあることがうかがえる。ストリングスもそうだが、ブラスのアレンジもうまく、ドラマチックに仕上げているので、フィナーレに相応しくもあると思う。

フォークにとらわれない多彩さ

ここまでーーM1からM10までがLPでのA面。M11以降はB面である(WikipediaではM8までがA面となっているが、他を見ると、M1からM10までがA面のようである。手元にアナログ盤がないため、再確認できないが、もし間違っていたらすみません)。M11「風にのって」は軽快なリズムにポップな歌とサウンドを乗せたナンバー。そこから一転、機関車のSEを挟んで、これまたサイケなストリングスを配し、独特のベースラインを持つM12「演奏旅行」。さらには、デキシーランドジャズ風のブラスセクションがサウンドを彩るM13「酒びたり人生」につながっていく。ここもまた、3曲ともまったくタイプが違うけれども、こうした並びで収録してくる辺りがイケている。アルバム作品ならではの曲の配置方法、抑揚の持たせ方を知る者の仕業という感じがする。

M14「通りすがり」はやわらかなメロディーが印象的で、そこからタイムラグなく入るM15「旅人が眠る丘」はスローで、どこか幻想的な雰囲気を醸し出す。M16「絵ハガキ」は歌がフォーキーというか、和風な印象なので、出だしこそ“B面はあまりロック寄りではないというコンセプトなのだろうか”なんて聴き進めていくと、後半に進むに従って、ハードロック、プログレ風に展開していく。Led Zeppelinばり…というと、いささか大袈裟過ぎるかもしれないけれど、グイグイと進んでいくリズム隊と、ノイジーだが流麗に鳴らされるエレキギターには、少なくともフォークグループの印象はない。最後にさまざまな動物の鳴き声が聞こえてきて、B面も『CIRCUS』というコンセプトアルバムに包括されていたことを気づかせられる。

……なるほど。アルバムを全てを聴き終わると、そこに「学生街の喫茶店」のイメージはほぼなく、それどころか、ガロは決してフォークグループの枠にとらわれることなく活動したバンドであることがよく分かる作品ではあった。

こうしたコンセプトアルバムを制作したということは、これがバンドとしてやりたかったことであり、もっと言えば、ガロがアーティストとして発信したいものがここにあったと言っていいだろう。その点も『CIRCUS』は明確だ。大きく分ければ、A面が“サーカス”をモチーフにした歌詞、B面はM12「演奏旅行」がその象徴だろうが、いわゆるツアーバンドのこと=おそらくガロ自身のことを綴ったものだろう。

《また汽車に乗り遠くの街へ/僕たちは行くギターを抱え/また初めての舞台が待つよ/ただ歌うのさ 僕らが今日も》《なぜ歌うかと訊かれたなら/生きているからと言うだけ》(M12「演奏旅行」)。

ガロの直系の後輩であるTHE ALFEEが“トラベリングバンド”を自称し、年2回のツアーを欠かさないのは、こうしたところにも影響があるのではないかと想像してしまった。

また、M10「この世はサーカス」で《サーカスはこの世に似ている》《サーカスはこの世のひな型》と言っているのだから、本作ではガロの活動そのものを“サーカス”に重ねていると見ることも出来る。そう思うと、以下の歌詞がなかなか興味深い。

《君はどうして僕のこの心を見ようとはしないのか/いつもおどけているがこの胸は悲しみに震えてる》《誰も仮面を被り生きてるよ その心秘めたまま/人の本当の姿 君だけは見極めてほしいのに》《形ですべてを君は見る人か/うわべですべてを君は見る人か/気付いて僕の愛に》(M5「ピエロの恋唄」)。

このアルバム『CIRCUS』は「学生街の喫茶店」がヒットした翌年に発表されたものだと前述したけれども、それゆえに今聴くと、“ヒット曲が本当の姿ではない”と言ってるようだと考えてしまった、果たして、それは穿った見方だろうか。
※手元に『CIRCUS』歌詞がなかったため、本稿の歌詞は全て聴き取りしたものです。正式なものではないことを予めご了承ください。

アルバム『CIRCUS』

1974年発表作品

<収録曲>
1.団長のごあいさつ
2.空中ブランコ
3.オートバイの火くぐり
4.猛獣使い
5.ピエロの恋唄
6.曲馬団
7.なぞの女
8.大男の歌
9.綱渡り
10.この世はサーカス
11.風にのって
12.演奏旅行
13.酒びたり人生
14.通りすがり
15.旅人が眠る丘
16.絵ハガキ

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