投資信託の長期保有「年平均リターンの落とし穴」、複利の効果はどこまでホント?

投資信託を長期保有した場合、本当に資産は大きく増えるのでしょうか。時々、年平均リターンの概念を用いて、「30年間運用すると、ほら、こんなにお金が増えたでしょ」という記事を目にしますが、この考え方には大きな落とし穴があるのです。


長期投資に複利運用効果はある?

年平均リターンの考え方は、「複利運用効果」について説明する際によく用いられます。

「仮に年平均リターンを5%として30年間複利で運用すると、100万円が432万1942円になります。でも、年5%の単利運用だと、同じ100万円を運用しても250万円にしかなりません。その差は182万1942円にもなります。どうですか。複利運用ってすごいでしょ。だから、投資信託も分配金を受け取らずに再投資した方がいいんですよ」。

長期投資の複利運用効果については、このように説明されるケースが多いかと思いますが、この説明はいくつかの点で問題があります。

その最たるのは、預貯金の複利計算と同じ方法が用いられていることです。ご存じのように預貯金の収益の増え方は右肩上がりの直線で描くことが出来ます。もちろん、預入期間のなかでマイナスの収益になることもありません。100万円を年5%(今の時代にはあまりにも非現実的な数字ですが)で運用するとしたら、毎年5万円ずつ10年間増えるという前提で考えることができます。

したがって、年5%を1年複利で運用し続けると、100万円が10年後には162万8,894円になるという計算が成り立つわけですが、これを価格変動商品である投資信託にそのまま当てはめるのは、いささか無理があります。

投資信託に複利運用を当てはめることの問題点

実際の投資信託の基準価額は、皆さんもご存じのように一直線には増えません。マーケットの動向によって、基準価額は値上がりすることもあれば、値下がりすることもあります。

同じ年平均5%のリターンというのであれば、むしろ以下の方が現実的でしょう。

1年目=10%
2年目=▲20%
3年目=30%
4年目=5%
5年目=▲10%
6年目=20%
7年目=25%
8年目=▲10%
9年目=5%
10年目=▲5%

各年のリターンを平均すると年5%になります。収益が生じた年は、それを分配せずにそのまま翌年の運用に回します。実質的に複利に近い運用を行うわけですが、この結果、10年目に100万円がいくらになるのかというと、145万5,809円なのです。

同じ年平均5%のリターンでも、一直線に増えていく場合と、価格が上下した場合とでは、このような違いが生じてくるのです。どうしてこのような違いが生じてくるのでしょうか。

第一の問題点は、リターンがマイナスの翌年は、複利運用効果が利かないことです。たとえば上記の計算で考えると、1年目のリターンは10%なので、投資元本が100万円であれば、1年目には110万円になり、それを翌年の運用に回します。

ところが、2年目にはマイナス20%ですから、110万円が88万円まで目減りすることになります。1年目までの運用で得られた10万円の収益も含めて損失が及んでしまうことになります。

これがもし単利運用であれば、1年目に得られた10万円の収益を除外できるので、同じ20%のマイナスでも100万円に対する損失だけで済みます。結果、10万円の収益をそのまま預貯金で運用しておけば、収益に対しては損失が及ばないので、2年目の元利合計額は90万円になります。

つまり第二の問題点として、複利運用で損失が生じると、それまで得られた収益に対しても損失が及ぶ形になるため、複利運用することが、むしろあだになるケースがあるのです。

そして第三の問題は、大きな損失を被った場合、それを回復するためにはより大きなリターンを必要とすることです。たとえば100万円が50万円になったとします。ちょっと極端なケースですが、この場合、損失率は▲50%です。

では、50万円が100万円に回復するためにはどれだけ値上がりすれば良いのかというと、100%のリターンが必要になります。リーマンショック級のショックが起ると50%くらいのマイナスは簡単に生じますが、100%戻すのは大変なことです。これは株価でも為替レートでも何でも良いのですが、下げるのは一瞬ですが、上がるにはかなりの時間を要します。つまり一度、大きな損失を被ると、ポートフォリオが損失を回復させるには、より長い時間を必要とするのです。

投資商品に複利運用効果は期待できない

投資信託をはじめとする投資商品は時々、価格が大きく下落します。

「価格が上がった時も、下がった時も含めて平均なんだ」という反論もあるかも知れませんが、マイナスリターンが収益全体に及ぼすインパクトの大きさを考えると、平均値であろうとなかろうと、マイナスになった時のことを考慮せずに複利運用効果を語るのは、誤解を招くことになります。

年平均リターンを用いた複利運用効果は、確かに長期投資のメリットを説明するうえで非常に便利なので多用されるわけですが、それを鵜呑みにしないようにしましょう。決算日ごとに分配金が生じた時、課税後分配金で同一の投資信託を買うことにより「複利運用効果」が得られますという説明は、明らかに間違っています。誤解を恐れずに言うならば、絶えず値動きが生じる投資商品に複利運用効果は期待できないと言っても良いのかも知れません。

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