「ナックル姫」と「安打製造機」 初の“女子野球日本一”を支えた2人の兼任コーチ

エイジェック・川端友紀内野手兼任コーチ【写真:川村虎大】

エイジェック・広橋公寿監督を支えた吉田えりと川端友紀

強い雨が降りしきる松山市の坊っちゃんスタジアム。女子野球日本一を決める第17回全日本女子硬式野球選手権大会は意外な形で終焉を迎えた。12日、エイジェックと環太平洋大が戦うはずだった決勝戦は、降雨中止。規定により両チーム優勝となった。少し名残惜しそうな表情も見せたのは、エイジェック・広橋公寿監督。ただ、選手らの成長に嬉しさも感じていた。

「前回はベスト4で敗退してしまったので、決勝はこういった形になりましたけど、このタイトルを取るために厳しい練習もやってきたので。これは日本一だと思います。選手らが妥協せずにやってくれたおかげです」と称えた。2018年に創部して3年目で全日本選手権初優勝の栄冠を手にしたエイジェック。今大会は、ベテランから若手まで、幅広い世代が活躍し、チーム一丸で得た勝利だった。

昨年10月に行われた全日本女子硬式クラブ野球選手権では埼玉西武ライオンズ・レディースに1-2で敗戦。「打倒・西武」を目標に練習を積んできた。そのライオンズ・レディースが、準々決勝で東海NEXUSに敗退。目の前で見ていたエイジェックナインは、気を引き締めて阪神タイガースWomenとの準々決勝に臨んだ。

「目の前で西武が負けたのでね。なかなか簡単には勝てないなと思っていました」。初回2死二塁から川端友紀内野手の左前適時打で先制すると、虎の子の1点を先発・小松圭保投手が守り抜き、1-0で勝利を手にした。勢いそのままに、ダブルヘッダーで行われた準決勝の東近江バイオレッツにも4-1で勝ち、決勝進出を決めた。

エイジェックの強みは「当たり前のことを当たり前にやること」。練習中のダッシュや試合中のバックアップなど、細かいことを広橋監督は厳しく指導してきた。そんな指揮官の“両腕”になり支えた2人がいる。兼任コーチを務める川端友紀内野手と吉田えり投手である。

広橋監督「僕と選手の橋渡し役になってくれている」

「ナックル姫」と呼ばれ、男性とともにプレーする初の女子プロ野球選手となった吉田。ヤクルト・川端慎吾内野手を兄に持ち、女子プロ野球「埼玉アストライア」などに所属して首位打者4度、通算打率.373をマークした川端。2人は共に女子野球界を盛り上げてきた存在だ。

「1番練習するから若い選手もそれに続くし、チームとしても引き締まる」と広橋監督が評価するように、川端は主に3番に座り、準々決勝で決勝打、準決勝でも適時打を放ち勝利に貢献。吉田も出番こそなかったが、指導した投手が4試合で計1失点と好投。磐石な投手王国を築き上げた。

「あの2人には『選手8、コーチ2でいい』って言っているんですよ。でも、僕と選手との橋渡し役になってくれています。(吉田は)ベテラン投手にもかかわらず、出番がなくても球を磨いてくれてね。その背中を見ているから選手もついてくる」。指揮官の口から賛辞の言葉が尽きることはなかった。

「女子野球を盛り上げていくためにも、強いチームがしっかりしていなくてはならない」。そう意気込む広橋監督が求めるのは「女子指導者を充実させること」。だからこそ、女子野球界の“レジェンド”ともいえる存在の2人がコーチを務めるエイジェックは勝利を求める。

次の目標は、10月開催予定の全日本女子硬式クラブ野球選手権。日本一の余韻に浸る間もなく、今月15日から予選に臨む。「自分たちが勝つことでその取り組みをしっかり証明させないとね」。クラブ選手権では、ライオンズ・レディースや阪神タイガースWomenなどがリベンジを期して臨むだろう。最強の兼任コーチ2人を擁し、女子硬式野球の頂点に立ったエイジェック。使命感を胸に次なる戦いに挑む。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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