情感豊かなギタープレイが味わえるアルバート・キングの『アイル・プレイ・ザ・ブルース・フォー・ユー』

『I’ll Play the Blues for You』(’72)/Albert King

今もそう呼ばれているのかどうかは分からないが、半世紀ぐらい前にはB・B・キング、アルバート・キング、フレディ・キングの3人をブルース界の「3大キング」と呼んでいた。当時のロック好きの若者はブルースをあまり知らなかったが、エリック・クラプトンやマイク・ブルームフィールドらが彼らの曲を取り上げていたこともあって、3大キングのアルバムをよく聴いていたのは確かである。その中のひとりのアルバート・キングのギターワークは、粘りのある独特のチョーキングと哀愁を帯びたフレージングが特徴で、ロック界に大きな影響を与えたアーティストだ。中でも、マイク・ブルームフィールド、ジミ・ヘンドリクス、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、ジョン・メイヤーなどは弟子と言ってもいいぐらいの存在であろう。今回取り上げる本作『アイル・プレイ・ザ・ブルース・フォー・ユー』はタイトルトラック(名曲!)をはじめ、良質のファンキーなブルースが詰まった傑作に仕上がっている。

3大キングの特徴

3大キングの面々は誰もがギタリストとして名声を得ており、そのスタイルはそれぞれタイプが違う。一番早くデビューし、ギターの腕はもちろん歌のうまさも群を抜いているB・B・キング(1925年生まれ)は別格で、近代アーバンブルースのギターテクニックは彼が作り上げたといっても過言ではない。ジャズと比べてシンプルなスタイルが特徴のロックギターは、B・Bのフレージング(とチャック・ベリーのコードプレイ)をもとに展開させたものと言いきってもいいのではないだろうか。また、B・Bはロックやファンクといったブルース以外の音楽を取り入れることも多く、柔軟な思考を持っていることで、ジャンルにとらわれない幅広い彼のスタイルは進化し続けたのだと思う。

アルバート・キング(1923年生まれ)も、B・Bと同じくブルースマンでありながらジャンルにこだわらない活動を続けたアーティストだ。クリームやロベン・フォードが取り上げた彼の代表曲のひとつ「悪い星の下に生まれて(原題:Born Under A Bad Sign)」はスタックスレコード(南部のソウル専門レーベル)からリリースされており、南部ソウルのレーベルから彼はブルースを発信し続けていた。アルバート・キングは右利き用のギターをそのまま左で使用し、独自のオープンチューニングをいくつか使い分けるという独特のスタイルを生み出しているのだが、何より1音以上のチョーキングを多用し、そこから生み出されるエモーションに満ちた哀愁あるギタープレイが素晴らしい。ギターを弾く人ならわかっていただけると思うが、彼のギターをコピーするのはそう難しくない。しかし、深みのある音には絶対ならないというところに彼の凄さがある。

3大キングの中で一番年下のフレディ・キング(1934年生まれ)は、テキサスブルースを礎にR&B;、ロック、ファンクなどに影響されたサウンドを持ち味に多くのロックミュージシャン(レオン・ラッセル、ドン・ニックス、カール・レイドル、ジェイミー・オールデイカーなど)をバックにスワンプロックのアルバムもリリースするなど、キャリア後半はロック寄りのブルースマンとして活動し、多くのロックアーティストに影響を与えている。ギタープレイの巧みさはもちろん、特に優れたリフを持つソングライティングが得意で、彼もまたアルバート同様クラプトンに取り上げられて知られるようになった「ステッピン・アウト」や「ハイダウェイ」など、初期の頃はインストの名演が多い。彼は1976年に42歳の若さで亡くなっているので、アルバムのリリースは他のふたりと比べると少ないが、全キャリアを通して注目すべきアーティストである。また、彼は歌もうまく、パンチのあるソウルフルなヴォーカルは彼のギタープレイと同様にアツい。

ブッカー・T&ザ・MG’sから バーケイズへ

アルバート・キングが南部のソウルレーベル、スタックスと契約するのは1966年、当初はブッカー・T&ザ・MG’sをバックにしていた。クリームが「悪い星のもとに生まれて」を取り上げることで一気に名前が知られるようになるアルバートの出世アルバム『悪い星のもとに生まれて(原題:Born Under A Bad Sign)』(’67)は、シングル作を集めたコンピレーションアルバムである。この頃すでにアルバート・キングのサウンドはサザンソウル風味のあるブルースとして完成されていたと言えるだろう。

ところが、MG’sは71年に活動停止してしまう。その前後、スタックスは第2のMG’sとしてアイザック・ヘイズが育てたバーケイズをスタックスのハウスバンドとして起用している。バーケイズはオーティス・レディングのツアーバンドを務めていたが、不幸なことに67年に不慮の飛行機事故でオーティスとメンバー6人中4人を失い、残ったふたりが立て直しを図るという過去があった。ヘイズの尽力もあって、バーケイズは後継メンバーと新たなスタートを切っていた。

本作『アイル・プレイ・ザ・ ブルース・フォー・ユー』について

そのバーケイズやメンフィスホーンズらをバックに迎えて72年にリリースされたのが本作『アイル・プレイ・ザ・ブルース・フォー・ユー』で、マイナーブルースのタイトルトラックは7分以上にわたり(シングルリリース時はパート1とパート2に分割されていたため、正式タイトルは「アイル・プレイ・ザ・ブルース・フォー・ユー(パート1&2)」となっている)、アルバートの哀愁あるギタープレイと枯れたヴォーカルが見事にはまり、彼の筆頭代表曲になった。この曲は全米ブルースチャートで1位を獲得し、のちの2017年にこの曲はブルースの殿堂入りも果たしている。

アルバム収録曲は全部で8曲、アン・ピーブルズでお馴染みの「ブレイキング・アップ・サムバディズ・ホーム」も7分以上の熱演で、バーケイズのファンキーでタイトなリズムセクションをはじめ、アルバートのギターもエモーショナルなプレイを聴かせている。マービン・ゲイで知られる「アイル・ビー・ドッゴーン」は完全にファンクスタイルで演奏されており、この曲でのメンフィスホーンズのプレイはアヴェレージ・ホワイト・バンドのようなキレの良さだ。

70年代に入ってスタックスのサウンドは徐々にソフトになっていくのだが、本作でのバーケイズとメンフィスホーンズのサポートはMG’sのようなタイトさがあり、そこに情感たっぷりのアルバート・キングのギターワークが加わることで素晴らしい相乗効果が生まれている。

なお、現在のCDはボーナストラックが4曲入っており、タイトルトラックの別テイク(9分近い)や、オリジナルよりロック的なアレンジの「ドント・バーン・ダウン・ザ・ブリッジ」の別テイクなどが収録されており、4曲とも充実度は文句なし!

このアルバムを気に入ったら、ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィメン」のカバーを収録した前作『ラブジョイ』(’70)や、よりファンクの要素が濃くなった次作『アイ・ワナ・ゲット・ファンキー』(’74)も良いので、ぜひ聴いてみてください。

TEXT:河崎直人

アルバム『I’ll Play the Blues for You』

1972年発表作品

<収録曲>
1. I'll Play The Blues For You (Pts 1 & 2)
2. Little Brother (Make A Way)
3. Breaking Up Somebody's Home
4. High Cost Of Loving
5. I'll Be Doggone
6. Answer To The Laundromat Blues
7. Don't Burn Down The Bridge ('Cause You Might Wanna Come Back Across)
8. Angel Of Mercy
9. I'll Play The Blues For You (Alternate Version)
10. Don't Burn Down The Bridge ('Cause You Might Wanna Come Back Across) (Alternate Version)
11. I Need A Love
12. Albert's Stomp

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