夏だ! T シャツだ! 筋肉だ! ぶっとい二の腕に包まれたいあなたに贈るアジア映画5選

夏だ! T シャツだ! 筋肉だ! でも哀しいかな。今年の夏もレジャーは”お預け”という状況。ならば映画で筋肉三昧。アジアを代表するマッチョ自慢に着目し、おうちで彼らのぶっとい二の腕に包まれている夢を味わってはいかが?

『バーフバリ 王の凱旋』© ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.

<韓国代表>マ・ドンソク

まずは筋肉と言えば、二の腕が太すぎて絶対”気をつけ”が出来ないこの男。『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)でゾンビたちを腕一つでバッタバッタとなぎ倒し、まさに身一つで世界中の人々を虜にしてしまった”マブリー”ことマ・ドンソク兄貴だ。

米国育ちで元ボディビルダーの異色の経歴を持ち、40歳代にしてブレイクした遅咲き。『新感染〜』以降は、一時期の哀川翔か? 竹内力か? というくらい出演作が制作され、おかげで1作ごとにビルドアップしていく肉体を見るのもフェチにはたまらない。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』© 2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved.

中でも兄貴のキャラクターが存分に生かされたのが『犯罪都市』(17)だ。本作は、激化する中国新興勢力の闇組織VS. 韓国マフィアの抗争を食い止めるべく立ち向かった警察の協力班(強行犯係)の死闘を描いたクライム・アクション。

兄貴演じるは、協力班の副班長マ・ソクトだ。ドラム缶並の肉厚なボディと顔圧は、極悪非道な奴ら以上の迫力。銃やナイフを武器に立ち向かうは、己の肉体のみという腹の座り具合で、存在そのものに痺れまくること間違いナシ。

その一方で堅気の人間には滅法優しく、それがソクトの弱味となってしまうのだが。それもこれも、Instagramで96.1万人のフォロワーがいながら、フォローしているのは噂の17歳年下の恋人でタレントのイェ・ジョンファのみという、あからさまなラブメッセージを送り続ける兄貴の、硬派だがお茶目な一面をも役に投影されているかのようでニンマリ。

そして11月5日(金)には、兄貴が”ドン・リー”名義で出演したハリウッド進出作『エターナルズ』(監督は、『ノマドランド』クロエ・ジャオ!)がいよいよ公開。”不死の種族”であるエターナルズの一員ギルガメッシュだ。

”アベンジャーズ”を継ぐ最強チームの触れ込み通り、アンジー姐さん(アンジェリーナ・ジョリー)演じるセナの背後に、アジャック役のラテン系美魔女サルマ・ハエックと兄貴が控えるという画ヂカラの強さ。今年50歳を迎えて、役者としての新たなフェーズに入った兄貴の活躍を見守ろうじゃないか。

<タイ代表>トニー・ジャー

そんな兄貴と同じく、アクションで海を渡ったといえばタイのトニー・ジャーを忘れてはいけない。タイ伝統のムエタイを駆使した映画『マッハ!』(03)を放つや、世界の筋肉野郎が即座に反応。

ヴィン・ディーゼルや”ロック様”ことドウェイン・ジョンソンが世界を股にかけて大暴れする『ワイルド・スピード SKY MISSION』(撮影は2013年だが、ポール・ウォーカーの事故死で一時中断。公開は2015年)から声がかかり、続いて極真空手の黒帯を持つスウェーデン俳優ドルフ・ラングレンとタッグを組んで国際的な人身売買組織を追い詰めるタイ・アメリカ合作映画『バトルヒート』(14)に出演。

その後もヴィン・ディーゼル主演『トリプルX』(17)、ミラ・ジョヴォヴィッチ主演『映画 モンスターハンター』(20)、妻夫木聡や長澤まさみも出演している中国映画『唐人街探偵 東京MISSION』(21)と引く手数多。役者は体が資本であることを印象付ける活躍だ。

ドンソク兄貴に比べると筋肉量と顔圧は劣るが、代わりに無駄のない肉体が繰り出される技と俊敏さで勝負。なにせトニーは、『燃えよデブゴン』シリーズサモ・ハン・キンポー『イップ・マン』シリーズドニー・イェンと同じくスタントマンからスターに昇り詰めた本格派。しかも香港仕込みだ。その経歴は『マッハ! 無限大』(13)からも見て取れる。

『マッハ! 無限大』©2013 SAHAMONGKOLFILM INTERNATIONAL COMPANY LIMITED All Rights Reserved

同作の主人公はムエタイ兵士の末裔カーム(トニー)。彼は田舎で象と一緒に静かに暮らしていたが、動物密輸入組織に象が拉致される事件が発生。悪の組織からの象奪還作戦が始まるわけだが、密集した住宅の屋上からの、公道でのバイク・チェイスシーンという怒涛の展開は圧巻。トニーVS.大集団、かつ生身のアクションで暴れ回る姿は、かつての香港の街を所狭しと活用しまくっていた香港映画を彷彿。脳内で勝手にジャッキー・チェン主演『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(84)の主題歌「英雄故事」が鳴りまくりだ。

<インド代表>プラバース

一方で、CGをバリバリ使った人智を超えたアクションで笑いと感動を呼び起こし『バーフバリ』シリーズのような熱狂的な作品を生み出してしまったのも今どきか。インドの神話や伝説・史実をベースに、マヒシュマティ王国の王位継承争いを描いた本作。ドロドロした愛憎劇は、ギリシャ悲劇かシェイクスピア劇か。

そんな普遍的なテーマを、説得力あるものに仕立て上げているのが国王バーフバリと、その血を受け継いだシヴドゥの二役を演じる主演のプラバースの筋肉だ。189cmの恵まれた体に付いた三角筋・胸筋・上腕二頭筋は、観客に「そりゃ巨大な岩だって動かせまっせ!」と何の疑問も抱かせずに納得させてしまうご立派なもの。映画プロデューサーの父と、叔父は俳優というサラブレッドならではが持つ気品と甘いマスクは、恋に浮かれて、大滝を飛び越えたとしても許せてしまう。

一昔前にインド映画ブームを巻き起こした『ムトゥ 踊るマハラジャ』(95)のラジニカーントがインドスターの基準になっていた筆者としては、時の流れやら人類の進化すら見る思い。

<中国代表>リー・トンシュエ

さらに2人のモムチャンをご紹介。スティーブン・セガール&マイク・タイソンという映画界とボクシング界の狂犬が顔を揃えた『沈黙の大陸』(17)だ。

「こんなおっさんたち、もうお腹いっぱい」と思ったでしょ? そうこの作品、セガールが出ていると日本では自動的に「沈黙」のタイトルがついてしまうのでそのシリーズかと誤解されていがち。確かに、一応セガールVS.タイソンのガチンコ対決も用意されてはいるが、原題は『中国推銷員』(英題は『Chaina Salesman』)。つまり、本当の主演はタイトルの中国のセールスマンを演じたリー・トンシュエだ。

トンシュエといえば日本では、テレビドラマ「宮廷の諍い女」の果郡王役、同「運命の桃花〜宸汐縁〜」の景休と、時代劇が似合う文化系の香り漂う俳優だ。

本作では、北アフリカ某国の通信インフラ整備プロジェクトに入札中のサラリーマン役。だが、ライバル会社が?仕掛けた妨害工作に巻き込まれるという一大事に遭遇。知恵と体力と、アフリカでの中国パワーを活かして乗り切るのだが、目が行くのはサラリーマン然としたファッションでも隠すことのできない筋肉美。実際、Tシャツ姿で出演した中国のテレビ番組を見ると鍛えているのが一目瞭然。トンシュエの違った魅力と可能性を感じられる作品だ。

<トルコ代表>ブラック・オズチヴィット

そしてトルコ発のアクション大作『レッド・ホークス』(18)からは、主演のブラック・オズチヴィット。ドラマ「オスマン帝国外伝〜愛と欲望のハレム〜」シリーズで、英雄マルコチョール役で日本で知られる存在だ。そう、元モデルという完璧な容姿を持つ彼は英雄がお似合い。

トルコ軍の実話を描いた戦争アクション大作『レッド・ホークス』でも、武装テロ組織が支配する地域に墜落してしまったパイロットを救出するため、危険を顧みずに敵陣に向かった特殊部隊ホーク隊を率いる隊長役だ。

トルコは欧州とシリアやイランといった未だ戦火くすぶる中東を結ぶ位置にあることから軍備に力を入れており、成人男性の徴兵制度をとっている。そのトルコ軍が全面協力した作品だけに、戦闘シーンのリアルさは戦慄を覚えるほど。そして韓国同様、兵役経験のある俳優陣の銃器の扱いと鍛え上げられた肉体はホンモノだ。そんな中で命を賭けて戦うイケメンの姿を見たら、恋に落ちるな! という方が無理。

この2作品の役の影響か、オズチヴィットのInstagramのフォロワーは、先にあげたドンソク兄貴やプラバースはもちろん、あの世界を代表するセクシーのジョニー・デップ様よりも遥かに上回る1800万人超え。美意識って、世界共通であることを改めて実感。

『レッド・ホークス』

それにしてもこの5人。二の腕が立派すぎて腕枕されたら首を痛めそうだし、うっかりヘッドロックをかけられたら確実に窒息死。彼らの二の腕に包まれるのは、空想だけがよろしいようで。


TEXT: 中山治美(映画ジャーナリスト)

Edited:小俣悦子(フリーランス編集・ライター)

© 株式会社エスピーオー