長嶋さんの聖火リレーで蘇った96年アトランタの記憶 重なったモハメド・アリ氏の “雄姿”

東京五輪の最終聖火リレーに王氏(左)、松井氏(右)とともに登場した長嶋氏

【取材の裏側 現場ノート】史上初の1年延期となった東京五輪で日本は史上最多の金メダル27個を含む58個のメダルを獲得した。新型コロナウイルス禍の中、初の無観客開催。コロナ陽性となり、競技に参加できずに涙した選手、各地で行われた開催中止デモやコロナ対策違反、SNSでの選手批判、さらには亡命者が出るなど、数々のトラブルも起きた。

そんな中、2004年アテネ五輪の野球代表監督で同年3月に脳梗塞を患った長嶋茂雄氏(85)が開会式の聖火ランナーとして登場。右手足に麻痺が残る中、王貞治氏、松井秀喜氏とともに、ゆっくりの足取りながら必死に歩を進め、聖火をつないだ。後の談話でこの日のため、リハビリに励んだことが伝えられたが、多くの人々がその姿に感動したことだろう。

その雄姿と重なって見えたのは、記者が現地で取材した1996年のアトランタ五輪で最終聖火ランナーを務めたボクシングの元WBA、WBCヘビー級統一世界王者モハメド・アリ氏だ。現役時代に数々の伝説を残した「米国の英雄」で当時54歳。五輪時はパーキンソン病を患っており、手足の自由が効かない状態だった。

それでも震える手でしっかりとトーチを持つと、おぼつかない歩みで聖火台へ近づき、やっとのことで点火した姿は多くの方に勇気を与えた。大スター選手だったアリ氏はベトナム戦争で兵役を拒否し、物議を醸したものの、不屈の精神で逆境を跳ね返してきた現役時代のように、病に負けずに大役を務め上げた。

コロナ禍で開催された東京五輪はさまざまなトラブルがあった一方、アスリートの奮闘に多くの方が勇気づけられたのではないか。どんな困難な状況にあっても乗り越えられる――。長嶋氏の聖火ランナーはオリンピアンの奮闘とともに、苦境に立たされる日本国民を元気づけたに違いない。(スポーツ担当・三浦憲太郎)

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