「救えた命、なぜ」入院調整中死亡した40代の男性 遺族が伝えたいこと

 「このままだと弟と同じ目に遭う人が出てしまう。無駄死にはさせたくない」。那覇市の1人暮らしの40代男性が新型コロナウイルスに感染し、入院調整のめどがつかないまま自宅で死亡したことを受け、大阪府に住む姉(46)が琉球新報に連絡を寄せた。弟が発症した7月27日から自宅で発見される8月8日まで10日余り。いくらでも救いようはあったのではないのか―。コロナ禍で沖縄に渡ることもできず、離れた地でやるせなさを募らせる。 姉によると、大阪出身の弟は三つ年下で43歳だった。沖縄が好きで、10年ほど前から那覇市内で居酒屋を経営していたが、最近はコロナ禍で店を閉めていた。7月27日に発症し、8月4日午前中に検査のため医療機関を受診。陽性となり5日夜に発熱やせきの症状を訴えていた。保健所は6日、7日、弟と電話連絡がつかず、8日に死亡が確認された。

 開封されずに腐ったコンビニの弁当や、脱ぎ捨てられた衣類。遺品整理のため自宅を訪れた知人男性(49)=那覇市=は、散らかった部屋を見て「コロナなので誰かに助けを求めるわけにもいかず、一人で苦しかったと思う」と感じた。知人男性によると警察などの情報から、男性は自宅のベッドに横たわり、7日の日中には亡くなっていたとみられるという。

 10日、弟の突然の死を知らせる連絡に女性はがくぜんとし、保健所などから経緯を知るうちに疑問が膨らんだ。弟は7月27日の時点で症状を訴え、PCR検査が受けられないか問い合わせていたという。なぜ8月4日まで待たなければいけなかったのか。陽性が判明してすぐ入院できなかったのかを保健所に聞くと「沖縄はそういう状況ではない」と伝えられた。

 女性は12日、玉城デニー知事が記者会見で弟の死について発表するのをインターネット中継で見た。「対策を講じるといっても、弟はもういない。発症後の対応が少しでも早ければ、救えたかもしれない」。弟に降りかかった死が“人災”に思え、悔しさがこみ上げた。

 今年5月に母親が病気で亡くなり、大阪で会ったのが最後になった。「沖縄で骨を埋めるので大阪には帰らない」。両親が他界し、気持ちの整理がついた弟はそう言い残したという。女性は「沖縄好きな弟に報いるためにも、同じ犠牲を出さないためにも、命への向き合い方を考えてほしい」と声を詰まらせた。【関連ニュース】
▼沖縄コロナ「1日最大1466人感染」予測 グーグルAI、現時点で的中
▼沖縄のコロナ感染、世界最悪レベル 10万人当たり256.09人
▼ランチでドライブで披露宴で…陽性者が急増する沖縄のコロナ感染7例
▼浦添総合病院でクラスター ワクチン接種後の「ブレークスルー感染」も
▼【グラフで見る】沖縄の感染者数推移
▼沖縄、自宅療養者に酸素吸入器 病床ひっ迫「今までの医療受けられない」

© 株式会社琉球新報社