「生きるか死ぬかの戦い」 増える重症患者に懸念 済生会病院

転院のため、ドクターカーで新型コロナ患者を搬送する済生会宇都宮病院の医療スタッフ=8月中旬(同病院提供)

 「生きるか死ぬかというぎりぎりの戦いだ」。県内で新型コロナウイルスの累計感染者が1万人を超えた13日、済生会宇都宮病院の関係者が逼迫(ひっぱく)する医療現場の実情を明かした。助かるはずの命が救えなくなる-。感染の「第5波」で医療への負担が増え続ける中、最悪の事態に陥る懸念が強まっている。

 取材に応じたのは、篠崎浩治(しのざきひろはる)副院長(56)と小倉崇以(おぐらたかゆき)救命救急センター長(37)。重症患者を受け入れるほか、人工心肺装置ECMO(エクモ)を備えるドクターカーを運用し、重症コロナ患者の転院搬送も担っている。

 8月上旬、別の病院をあるコロナ患者が訪れた。車で来院して外来を受診。状態が悪かったため入院の準備をしていると、数時間で一時的に心停止の状態となった。済生会側がドクターカーを出動させ、エクモを装着したことで一命を取り留めたが、「ぎりぎりの戦い」を余儀なくされている。

 小倉センター長は「(年末年始の)第3波より感染拡大が速すぎる」と感じる。7月末から重症患者が増え始め、2週間ほどで「あっという間に」病床が埋まった。重症者対応の経験がない病院にドクターカーを派遣する「有事対応」は、8月だけで10件を超えた。要請に応じられない事例も複数あった。

 小倉センター長は「重症患者があふれれば、中等症の受け入れ病院に負担がかかる。中等症の患者が宿泊療養施設に行き、軽症者が自宅療養となる。そして自宅死亡が起きてしまう」と懸念する。「重症者が増えて、受け止めきれるか不安が大きい」

 済生会宇都宮病院は、来週から重症患者を中心としたコロナ用の病床を計約30床に拡充する。それに伴い、手術を延期したり救急車の受け入れを制限したりせざるを得ない状況だ。篠崎副院長は「今は通常の診療体制が取れないということを、どうか理解してほしい」と呼び掛ける。

 夜間や休日には、県や宇都宮市の協力を得てワクチンの接種も実施する同病院。「ここが本当の正念場。地域の皆さんの協力をいただいて乗り切りたい」と話した。

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