三つ巴を制したヒット曲「原宿キッス」田原俊彦・近藤真彦・松田聖子の戦い!  田原俊彦「オリジナル・シングル・コレクション 1980-2021」発売間近!

田原俊彦・近藤真彦・松田聖子が繰り広げた首位を巡る攻防戦

1981年から1982年の歌謡界を振り返った時に、トシ、マッチ、聖子が三つ巴の戦いをしていた事実は見逃せない。レコード売上を集計したオリコンのヒットチャートや歌番組のランキングでは、シングルの発売ごとに、首位を巡る攻防戦が繰り広げられた。1981年の日本レコード大賞の授賞式で沢田研二が「トシちゃんや聖子ちゃんと戦いたかった」と発言したのも、この攻防を後ろから眺めていたジュリーならでは。歌謡界の首位争いのメンバーは、1980年を境に一変していたのだ。

その戦いの中で、トシちゃんこと田原俊彦は常に聖子、マッチの後塵を拝し、なかなかトップに立てなかった。デビューシングル「哀愁でいと」が売上70万枚を超えるロケットスタートを記録し、3作目の「恋=DO!」まではオリコンと『ザ・ベストテン』の両チャートで首位を獲得したが、それ以降は売上が伸び悩み、2人のライバルから約10万枚の差を付けられる。

『ザ・ベストテン』では、ハガキによるリクエストの力で健闘したが、2人を抜いて首位には立てず、抜いた時も「ルビーの指環」のような大ヒット曲に首位を阻まれた。私が好きだった「悲しみ2ヤング」も両チャートで2位を4週間キープしたが、首位を独走していた「ハイスクールララバイ」に阻まれた。

首位を取るべくして取った「原宿キッス」

そうしたなか、トシちゃん9枚目のシングル「原宿キッス」は、オリコン、『ザ・ベストテン』の両チャートで久々に首位を記録したメモリアルソングとなった。しかも、初めて首位になった週のランキングは、両チャートとも聖子の「渚のバルコニー」が2位、マッチの「ふられてBANZAI」が3位。「渚のバルコニー」を蹴落としての首位獲得というのも同じだった。「恋=Do!」から1年3ヶ月ぶりの首位に、トシちゃんファンは歓喜したに違いない。一方、『ザ・ベストテン』でトシちゃん首位の感想を聞かれた聖子は、「ちょっぴり悔しいですけど」と話していたが、内心では相当悔しかったはず。そんな聖子の悔しさが通じたのか、翌週の『ザ・ベストテン』では聖子が首位を奪還。トシちゃんの首位は1週のみに終わる。

しかしオリコンでは、「原宿キッス」が3週間首位をキープする。この時期は「聖母たちのララバイ」が大ヒットする直前で、強豪曲と直接当たらなかった運にも恵まれた。

しかし、運だけではない。「原宿キッス」は、トシちゃん専属作家と言っていい宮下智が作詞し、昭和歌謡のレジェンド、筒美京平が作曲した肝入りの曲で、前作「君に薔薇薔薇…という感じ」を上回る40万枚以上のセールスを記録した。楽曲の力により、首位を取るべくして取ったと言っていいだろう。この時ばかりはトシちゃんも、三つ巴の戦いで、がっぷり四つに組んだのだ。

筒美京平が田原俊彦に贈ったトリッキーなメロディー

その楽曲だが、この作品はメロディーラインが複雑で、音程が掴みにくい。まず出だし。

 スカートのすそ AH HA
 ヒョイとつまんで AH HA  原宿の交差点
 あの娘はタクシー止めたよ

低音が微妙に変化するメロディーはトシちゃんの音域に合わず、正確な音が聞き取れない。続くBメロもセブンスコードの連続で、音程がつかみにくい。カラオケで歌うのも難しそうだ。

 待ちぶせして
 お茶しないとまじめに迫る
 I love motion
 だめなら肩ふいに抱いて口唇奪う
 原宿 motion

しかし、Bメロ最後の「原宿motion」から急に盛り上がる。そして、決めゼリフ “一度お願いしたい”をはさんでサビにつながるメロディーラインは、まさに職人芸。AメロとBメロの不明瞭な音程が一気にクリアになり、安心してサビが聴けて心地よいのだ。

このトリッキーな筒美さんのメロディーに宮下智さんのご機嫌な歌詞がピタリとはまり、何度か聴くうちに耳に引っ掛かる。この、少し王道を外したような曲作りが40万枚のヒットにつながったと思うが、どうだろう。

田原俊彦、アイドル黄金時代の生ける伝説へ

ところで、私がこの曲で真っ先に思い出すのは、80年代前半に一世を風靡していた “竹の子族” である。当時、原宿の歩行者天国では、休日になると竹の子族と呼ばれる奇抜な衣装を着た若者が大勢集まり、ラジカセから流れる音楽に合わせ踊っていた。だから、“原宿” をタイトルに冠したこの曲が出た時は、「原宿は青少年の間で全国区になったのだな」と感じたものだ。

あれから40年の時が経ち、昭和の面影も薄れた。名物だった原宿の歩行者天国は廃止され、木造の原宿駅舎もリニューアルされた。しかし原宿の街は、アンノン族や竹の子族の聖地からポップカルチャーの中心地へと変化しながら、若者の憧れの街であり続けている。

それは、今年2月に還暦を迎えたトシちゃんも同じ。当時を彷彿させる歌とダンスをTVなどで披露し、6月には新曲もリリース。これからも現役を続けると宣言した。トシちゃんの昔からの友人で今も現役でプレーするサッカー界のレジェンド、三浦知良(キング・カズ)のように、80年代のアイドル黄金時代の生ける伝説、キング・トシの活動を、これからも見守り続けたい。

カタリベ: 松林建

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