#あちこちのすずさん 学校の演劇…「死んでこそ忠義」 生還の子を母がなじった場面 

 戦時下の日常を生きる女性を描いたアニメ映画「この世界の片隅に」(2016年)の主人公、すずさんのような人たちを探し、つなげていく「#あちこちのすずさん」キャンペーン。読者から寄せられた戦争体験のエピソードを紹介していきます。

(女性・87歳)

 戦時中、私は中国東北部のハルビン市に住んでいた。

 男性教師は召集され、女性教師は幾つも学級を受け持ち、私たち6年生は自習が多かった。

 運動会は中止になり、校庭に深さ1.5メートル、長さ2.5メートル、幅1メートルくらいの防空壕を掘った。かなりの重労働だった。

 月初めには、ハルビンの駅近くにあった神社に参拝。武運長久を祈り、東に向かって、遠い日本の皇居遥拝。生徒の多くは、内地も桜も見たことがなかったのだが。

 そんな折、私が進学する予定だった女学校の生徒が学校を訪れ、演劇を披露してくれた。演題は「水兵の母」。

 「祖国を後に太平洋の波まくら」とオルガン演奏があり、場面が進むと「なんで生きて帰って来た。天皇陛下の御為に死んでこそ忠義というもの」と母親が息子をなじった。

 私は納得いかなかった。無事だった息子を抱きしめてこそ母親ではないかと思ったからだ。今も鮮明に覚えている。

 死ぬことが美談と言われた時代。そうやって皆、洗脳されていったのだろう。

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