早まる温暖化:IPCC、20年以内に1.5 度上昇と予測 脱炭素化の加速が不可欠に

David Aughenbaugh

IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は9日、これまでの予測よりも10年早い2021-2040年に世界の平均気温上昇が産業革命以前から1.5度以上に達するとの新たな予測を発表した。すでに今年も国内外で異常気象が観測されているが、今後も全世界で熱波の増加や温暖な季節の長期化が進行し、豪雨や干ばつなどの災害、海面上昇などの地形の変化が深刻化するという。報告書は、温暖化の要因が人類の活動にあることは明白だと断言。温度上昇を1.5度程度に抑えるには、二酸化炭素(CO2)の排出量実質ゼロを目指し、CO2を含む温室効果ガスの排出量削減を早急かつ広範囲に進めていかなければならないと警鐘を鳴らす。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

人間の活動がもたらした地球の変化

IPCCは2018年に臨時発行した『1.5度特別報告書』で、気温上昇を2度ではなく1.5度未満に抑えることは人間が心身ともに安全・健康に暮らし、世界が抱える貧困などの社会課題を解決する上でも重要だと示した。例えば1.5度の上昇でサンゴ礁は70-90%、2度の上昇で99%が消失すると予測されており、世界人口が増え続ける中、1.5度は現在の生活を維持するために人類が守らなければならない限界値と言える。

このほど新たに公表された「第6次報告書(第1弾:物理科学的根拠)」は2013−2014年の「第5次報告書」に次ぐもの。世界の政治指導者に対し対策を提示することを目的に、66カ国234人の専門家が参加し作成された。来年2月、3月には気候変動の影響、気候変動対策に関する2本の報告書が、9月には統合報告書が出される予定。

1990年の「第1次報告書」から5-7年ごとに報告書が発行されてきたことを考えると、次回の報告書発行時には手遅れなことが増えているかもしれず、気候変動を抑制できる最後の世代といわれるわれわれにとって無視できない重大な警告書だ。

産業革命以前から1.09度上昇

人間の活動と自然現象による温度上昇の変化(茶色)と、自然現象のみによる温度上昇の変化(緑色)。産業革命以前の気温と比較

国際社会は現在、パリ協定の下で世界の平均気温の上昇を2度より十分に低く保ち、1.5度以下に抑えようと取り組んでいるが、世界の平均気温はすでに産業革命以前(1850-1900年を基準とする)と比べて2011-2020年平均で1.09度上昇していることが分かった。2018年発表の特別報告書では、2006-2015 年平均で0.87度上昇したと報告されており、依然として気温上昇に歯止めがかかっていない状態だ。なお2018年の報告書から0.22度上昇したことになるが、このうちの約0.1度は予測技術の向上による増加分という。

現在の世界的な気候の変化は、数百年、数千年の歴史の中でも前例のない状態にあると報告書は指摘する。2019年の大気中のCO2濃度は過去200万年で最も高く、そのほかの温室効果ガスのメタンや一酸化二窒素の濃度も過去80万年で最も高くなっているという。さらに1970年から現在に至るまでの50年間の気温は、過去2000年間でも例のない速度で上昇している。

地球は寒冷期と温暖期を繰り返してきたが、2011-2020年の気温はおよそ6500年前の最新の温暖期(産業革命以前に比べ0.2-1.0度)を上回る高さに到達している。この間、北極海の海氷の面積は1850年以来最も小さくなり、1950年から世界規模で進む氷河の融解は過去2000年間でなかった現象だ。海面上昇も過去3000年の中のどの世紀よりも、1900年以降の上昇が急速に進んでいるという。

こうした気候の変化は熱波や豪雨、干ばつ、熱帯低気圧などの異常気象として現れ、1950年以降、熱波などの極度の暑さは頻度と激しさを増し、一方で極度の寒さは減っている。海洋熱波の発生頻度は現在、1980年度比の約2倍に達し、豪雨も1950年代以降、増加と激化を続け、一部の地域では干ばつが増えている。

報告書は、これが人間の活動の影響によるものということは科学的に明らかだとしている。

起こりうる未来

1.5度、2度、4度上昇の年間平均温度の変化。熱帯よりも北極や南極の温度が上がる

IPCCは5パターンの排出量に基づくシナリオから将来的なリスクを予測している。しかしどのシナリオを検討しても、気温は今世紀半ばまで上がり続けるという。

これまで世界の平均気温上昇は2030-2050年に1.5度に達すると予測されていた。しかし報告書によると、2021-2040年までに、温室効果ガスの排出量が非常に多いシナリオ(化石燃料に依存)、多いシナリオ(気候変動対策が限定的)、中間のシナリオ(各国の2030年国別削減目標を集計した排出量上限にほぼ等しい)で、産業革命以前と比較して1.5度以上になる可能性が非常に高い。

排出量が少ないシナリオ(2度未満に抑え、2070-2080年にCO2排出量が実質ゼロ)、非常に少ないシナリオ(約1.5度に抑え、2050-2060年にCO2排出量が実質ゼロ)でも1.5度を超える可能性が5割以上の確率である。

排出シナリオごとの年代別推定気温上昇 (報告書をもとに作成)

今世紀末(2081-2100年)には、排出量が非常に少ないシナリオで産業革命以前と比べて1.0-1.8度上昇(最良推定値1.4度)、中間のシナリオでは2.1-3.5度(同2.7度)、非常に多いシナリオでは3.3-5.7度(同4.4度)に上昇する可能性が高い。排出量を少ないシナリオ、非常に少ないシナリオに持っていかなければ、21世紀半ばには2度以上の上昇を迎える可能性が極めて高くなる。2度上昇すると、極度の暑さによって農業や健康の面でも許容できる閾値にさらに頻繁に達することになる。

こうした温度上昇には地域差がある。北極の気温は世界平均の2倍以上の速さで進む可能性があり、北極海では2050年までに少なくとも1回は9月末に海氷のない状態になることが予測される。

温暖化の進行は異常気象を加速させていく。極度の暑さ、海洋熱波、豪雨の頻度や強度、一部地域での農地や生態系の干ばつ、台風などの強い熱帯低気圧の増加、北極海の海氷や積雪、永久凍土の減少などが予測され、仕事や食、健康、文化など暮らし全般に大きな影響をもたらす。

気温が0.5度上昇するごとに熱波や豪雨、干ばつの頻度や強度が目に見えて増加し、1度上昇するごとに1日の降水量は約7%上がるという。

1.5度、2度、4度上昇の年間平均降水量の変化。降水量は高緯度や太平洋赤道域、モンスーン域の一部で増加し、亜熱帯や熱帯の一部で減少する

継続的な温暖化は、降水量や湿度の変化といった地球の水循環を活発化させる。世界の陸地降水量は2081-2100年までに、1995-2014年と比較して、非常に少ない排出シナリオで0-5%、中間シナリオでは1.5-8%、非常に多いシナリオでは1-13%増加する。季節風(モンスーン)による降水量は世界で中長期的に増加し、特に南アジア、東南アジア、東アジア、西アフリカで増えることが予測されるという。

海洋への影響が深刻に

海の温暖化も進む。報告書によると、気候変動がもたらす地球の変化は数世紀から数千年にわたる不可逆的なもので、とりわけ海洋、氷床、海面上昇の変化は後戻りできない状況になっていくという。21世紀末までに、海の温暖化は温室効果ガスの排出量が少ないシナリオで1971-2018年の変化の2-4倍、最も排出量の多いシナリオでは4-8倍に達する。

海面上昇は今世紀を通じて続き、沿岸の浸食や沿岸洪水の頻度・深刻さが増す。さらに、海洋の生態系に深刻な影響を与える海洋密度成層の強化、海洋の酸性化、海水中の酸素が減る海洋貧酸素化が増加し、海洋に関連する人々の暮らしにも影響が及ぶ。

炭素吸収源にも変化が生じる。CO2排出量がこのまま増加すると、CO2を吸収する陸域や海域といった炭素吸収源の累積蓄積量が増えて吸収する割合が減り、大気中に残るCO2の量が増える。今世紀中に大気中のCO2濃度を安定化させるシナリオであっても、陸域や海域で吸収されるCO2の割合は21世紀後半には減少するという。

都市では人為的な温度上昇が一部で増える。都市化がさらに進むと、極度の暑さが頻繁に起こるようになり、熱波が深刻化する。都市上空や風下での降水量や豪雨が増加する可能性もある。沿岸部の都市では、海面上昇や高潮などの異常な海面現象と異常な降雨の頻度や河川の水量が増え、洪水の発生率が高まる。

アジア地域で起こり得る気候変動の影響

地域別に見ると、アジア全域でも温暖化は進む。アジア周辺の海面水位は世界平均よりも速く上昇し、海岸の侵食や海岸線の後退が発生している。海水温の極端な上昇が一定期間続く、海洋熱波は今後も増加すると予測される。21世紀半ばまでに積雪期間や永久凍土の面積はさらに減少する。東アジアの一部の地域では極端な降水が増加しており、豪雨の頻度と強度は今後も増し、山岳部では山崩れが起きやすくなるという。

気温上昇を抑えられても、自然の回復には膨大な時間がかかる

報告書は、人間の活動によって引き起こされる温暖化を一定レベルに抑えるには、CO2の累積排出量を抑え、少なくともCO2排出量を実質ゼロにすると同時に、その他の温室効果ガスの削減を強化していくことが必要だと結論づけている。さらに人為的にCO2の回収・除去を行うことで、大気中のCO2濃度を下げ、海域のCO2吸収量を低下させる要因となる海洋酸性化を改善していけるだろうとしている。

世界のCO2吸収量が排出量を上回り、その状態を持続できれば、CO2によって引き起こされる気温上昇は徐々に逆転できると見込まれているが、地球の変化自体は数十年から数千年かけてすでに動き始めた方向へと進んでいくという。CO2が大幅に削減されたとしても、上昇する世界の平均海面水位が逆転するには数百年から数千年かかる。

温暖化の進行を厳しく指摘した今回の報告書の内容は、今年10月末から英グラスゴーで開かれるCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)での議論に引き継がれる。このCOP26では各国とも、今回の報告書に立脚した排出量削減に向けての強力な方針が問われてくる。

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