日本とEUのプラスチックリサイクルは定義が異なる!日本の高いリサイクル率86%のカラクリと直面中の課題とは?

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世界で大きな課題となっているプラスチックごみ問題。2018年時点で年間のプラスチックごみ発生量は3億200万トン、被害総額は130億ドル(約1兆4千億円)報告されており、このままではその数値はどんどん増えていくことが予想されます。世界の一人ひとりが当事者として取り組むべき問題だといえるでしょう。

しかし、残念ながら日本のプラスチックごみ対策は遅れています。その実情と世界の動向、日本が今着手していることについて押さえておきましょう。

データの力がプラスチックごみ対策に役立っている現場もあります。現状を把握することで今日からプラスチックごみを見る目がちょっと変わるかもしれません。

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日本のプラスチックリサイクル率86%のカラクリ

序文を読んで「日本のプラスチックリサイクルは世界でも進んでいるんじゃないの? リサイクル率が高いと聞いたけど……」と困惑した方もいるかもしれません。

確かに日本のプラスチックリサイクル率(有効利用率)は2017年時点で86%と非常に高い数値を記録しています。しかし、その内訳に注目してみてください。

出典:プラスチックリサイクルの基礎知識2019┃一般社団法人プラスチック循環利用協会

上図の通り、マテリアルリサイクル(23%)、ケミカルリサイクル(4%)、サーマルリサイクル(58%)と3種類のリサイクル手法のうちサーマルリサイクルが大半を占めることがわかります。

サーマルリサイクルとは、“プラスチックごみを燃やした際に得られる熱エネルギーを回収するリサイクル”のこと。ごみから固形燃料を製造する、そのままゴミを燃やして発電するなどの方法があります。

燃えやすいプラスチックごみをエネルギーに変えられるという点でサーマルリサイクルにも一定の意義はありますが、欧米基準ではサーマルリサイクル(ENERGY RECOVERY)はリサイクルに含まれません。欧米ではプラスチックごみをそのままプラスチック製品へ生まれ変わらせるマテリアルリサイクル、化学分解したあとプラスチック製品へ生まれ変わらせるケミカルリサイクルだけをリサイクルと呼び、サーマルリサイクルは「熱回収」「エネルギー回収」としてリサイクルとは別個に扱われます。

Plastics – the Facts 2020

同様に、OECDが2013年に調査した各国のリサイクル率の統計においてサーマルリサイクルは「焼却とエネルギー回収」としてリサイクルの範疇に含まれていません。同統計において日本のリサイクル率は19%でOECD加盟国34カ国中27位タイと他国に対して大きく後れをとっているのです。

出典:OECD加盟34ヵ国、一般廃棄物の処理とリサイクル率(2013年)┃東京23区のごみ問題を考える

進みゆく世界のプラごみ対策……日本は遅れている?

ここで世界のプラスチックごみ対策の歩みについて見てみましょう。

2015年9月の「国連持続可能な開発サミット」にて国連加盟193カ国が2030年までに達成すべき17の目標(SDGs)が掲げられました。その目標の12番目「つくる責任つかう責任」と14番目「海洋・海洋資源の保全」においてプラスチックごみを含む廃棄物のリサイクル・環境汚染防止が定められています。

その後、2016年5月のG7伊勢志摩サミット、2017年7月のG20ハンブルクサミット、2017年12月の第3回国連環境総会(UNEA3)といった重要な国際会議で海洋プラスチックを中心にプラスチックごみ問題は何度も取りざたされてきました。

そして2018年6月に開かれたG7シャルルボワサミットにて英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの5カ国とEUがより具体的なプラスチックリサイクルの数値目標などを定めた「海洋プラスチック憲章」に署名。しかし日本は産業界との調整が追いついていないことなどを理由に署名を拒否し、非難を浴びました。

もう一つ日本への影響が大きかった国際的な出来事が、2017年12月末から中国が実地した「廃プラスチック輸入禁止措置」です。それまで中国に年間約150トンもの廃プラスチックを資源として輸出していた日本は大きく打撃を受けました。代替手段として中国以外への輸出を進めましたが、2018年6月にタイでも廃プラスチックの輸入制限を強化する方針が示されるなど廃プラスチック輸入規制の流れは世界的です。

そのため、国内で廃プラスチックをリサイクルできる体制もしくはそもそも廃プラスチックを出さない体制の構築は我が国の急務となっています。

出典:プラスチックを取り巻く国内外の状況 平成30年8月┃環境省

【国・企業・個人】進む日本のプラスチックごみ対策

最後に日本が現在進めているプラスチックごみ対策について国、企業、個人という3つの観点で見ていきましょう。

まずは国の動きからです。

2018年6月、2つの大きな動きがありました。海岸漂着物処理推進法」の改正と「第4次循環型社会形成推進基本計画」の閣議決定です。前者ではプラスチックごみの排出抑制やマイクロプラスチックの使用抑制についての内容が盛り込まれました。後者においては3R+Renewable(再生可能資源への代替)を基本原則とした「プラスチック資源循環戦略」が盛り込まれ、2019年5月31日に策定される運びとなりました。

「プラスチック資源循環戦略」中では以下のように具体的なマイルストーンが設定されています。

出典:プラスチック資源循環戦略(概要)┃環境省

2019年6月にはG20大阪サミットが開かれ、それに先駆けて「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」と「G20 海洋プラスチックごみ対策実施枠組」が定められました。同プラン・枠組に沿って海洋汚染対策に取り組み、その進捗をG20各国で共有することとされています。

国内の企業もプラスチックごみ対策に乗り出しています。日本製紙は2017年、ポテトチップスやシリアルの袋に使われているプラスチックの代わりとなる紙製の包材「シールドプラス®」を発表しました。大手精密機器メーカーのリコーは部品の交換時期や経年劣化についてのデータを活用。年間約11.5万台の使用済み製品を回収し、1.5万台を再生機として生産した実績があります。ほかに飲食業界でプラスチック製のストローを廃止する動きがあるなど少しずつ各業界で対策が進められているのが現状です。

個人の取り組みとして期待されるのはマイバッグ・水筒の使用やごみの分別の徹底、企業への使い捨てプラスチックの削減の要望など一見スケールの小さなことです。しかし、世界のプラスチックごみのうち約半数がペットボトルやレジ袋、食品トレーなどの“パッケージ用”だというデータもあります。

環境省の調査によると、日本の小売店においてレジ袋、袋、フォーク、スプーンなどのサービスが過剰であると回答した方は6割超。このような実感を行動に生かすだけで、私たち一人ひとりの手による環境保護が進められるはずです。

終わりに

日本・世界のプラスチックごみ問題の現状と動向についてご紹介しました。「環境保護が大切だ」といわれてもピンとこない気がしますが、レジ袋はタダといった今までの常識が世界的に変わりつつあるのは事実です。

実際、先日筆者がインドネシアを訪れたところ土産屋にプラスチック製のレジ袋はなく、手ぶらの客は布製のバッグを購入して商品を持ち帰るルールとなっていました。日本でもレジ袋が有料の店舗は増えてきています。

将来の世代に資源やきれいな海を残すためにも、賢くプラスチックごみ対策ができる生活にシフトしていきたいものですね。

参考URL

プラごみ、年3億トン発生 OECD報告書 世界の損害 年1.4兆円に 不適切な廃棄横行┃日本経済新聞
プラスチックリサイクルの基礎知識2019┃一般社団法人プラスチック循環利用協会
OECD加盟34ヵ国、一般廃棄物の処理とリサイクル率(2013年)┃東京23区のごみ問題を考える
知ってほしい、リサイクルとごみのこと┃国立環境研究所
プラスチックを取り巻く国内外の状況 平成30年8月┃環境省
なぜ減らせない?プラスチックごみ┃クローズアップ現代(NHK)
議案情報 第196回国会(常会)┃参議院
プラスチック資源循環戦略(概要)┃環境省
「つなぐコラム」“地球にちょうどいい暮らし方” 第4回 海洋プラスチックごみの問題と、解決に向けて私たちができること┃三沢 行弘(NTTグループ)

宮田文机

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