#あちこちのすずさん 夜の土間、大人が黙って酒を…配給品だった砂糖との交換、子には「見るな」

 戦時下の日常を生きる女性を描いたアニメ映画「この世界の片隅に」(2016年)の主人公、すずさんのような人たちを探し、つなげていく「#あちこちのすずさん」キャンペーン。読者から寄せられた戦争体験のエピソードを紹介しています。

(女性・88歳)

 戦争が激しくなると生活必需品が配給になりました。学校では1学年に学生服1着、靴1足が配給され、体に合う人がもらいました。

 小柄な私は対象外。米、砂糖、塩、酒も配給。わが家では祖父も父も一滴も飲まない酒も、配給されました。

 電気もついたり消えたりなので、夕食は早めに済ませます。家は村のはずれにあって、夜になると通る人もいません。

 ところがある夜、薄暗い土間に見慣れない人がいるのです。のぞいていると、母が「見ないで奥へ行け」と無言で合図しました。土間に立つ人も一言もしゃべらず、酒を飲んでいます。

 また何日かすると、同じように土間に人がいて、黙って酒を飲んでいました。

 配給の大事な砂糖を持ち込んで、わが家の酒と交換していたようです。家族に隠れて砂糖を持ち出して、こっそり酒を飲んで、おいしいのかなと思いました。

 土間での光景を、小さな弟たちは知りません。夕食は、母の用意した甘いだんご汁でした。

 母が亡くなり、自由に酒も砂糖も買える今、ふと思い出します。

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