直木賞作家青山さんに市民栄誉賞

 時代小説「つまをめとらば」(文芸春秋)で直木賞を受賞した大和市在住の青山文平さん(67)に8日、市から市民栄誉賞が贈られた。青山さんは「生きるために書いた作品。厳しい時代を頑張るひとりとして栄誉賞をもらい、いまを生きる市民の方々の元気につながれば」と感謝した。

 受賞作は、江戸後期の市井に生きる武家や町人らの姿を描いた短編集。この日、市役所で表彰状を受け取った青山さんは、返礼にサイン本を大木哲市長に贈った。

 市立図書館の受賞作の貸し出しは、8日現在で145人待ち。青山さんは「時代小説の売れ筋は戦国と幕末」とおどけたが、「こんなに一般的でない本を、まして読んでもらい、ありがたい。うれしい」と笑った。

 青山さんは、20歳前後で横浜市から大和市に移住。相鉄線希望ケ丘駅から「3駅移動しただけ」と言うが、「カルチャーショックみたいな感覚があった」。ベトナム戦争ただ中の「基地のまち」は「アナーキーだった」と振り返る。

 市内には、下鶴間のようにかつて宿場町としてにぎわった江戸期の面影も残る。「国道246号、大山街道を舞台にしたロードムービーのような小説が成り立たないか、いまでも考えている」と市内周辺を舞台にした構想の一端も明かした。

 青山さんの作品に共通する時代設定は、18世紀後半から19世紀前半。太平の江戸後期で、武士が存在意義を見失った時代だ。青山さんは答えの見いだせない現代と重ね合わせ、「いまを書いている」と強調する。「次の一作は、この時代を書くことになるだろう」と宣言した。

 市民栄誉賞は、サッカー女子日本代表の川澄奈穂美選手らに次いで6人目で、作家は初めて。

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