田原俊彦の飽くなき探究心、レーベルを超えた初のオールタイムベストがすごい!  2021年8月18日発売開始! 田原俊彦「オリジナル・シングル・コレクション 1980-2021」

今の時代に生きるトップ・シンガー田原俊彦

“昭和” というキーワードが持てはやされるようになってどのくらい経つだろうか。

どうやら “昭和ポップス” とカテゴライズされる70年代から80年代の歌謡曲を愛好する若者たちの間で、田原俊彦は別格の存在のようだ。彼らはもちろん、『3年B組金八先生』で演じた、年上の美術教師(名取裕子)に密かな恋心を寄せる、どこか陰りのある不良少年、沢村正治も知らなければ、『教師びんびん物語』で演じた熱血漢の教師、徳川龍之介も知らない世代だ。

田原が80年代に放っていった数々のヒット曲は、そういったドラマの役作りやテレビ出演時の振る舞いなどのキャラクターイメージが大きく寄与していた。しかし、今の若い世代は、そういう背景にこだわることなく、純粋に田原のダンスや歌によいしれ、極上のエンターティナーだという認識を持っている。

そして還暦前夜にTVで披露したスペシャル・ワンマンライブでの二十代の頃と寸分も変わらない歌と踊りに驚愕し、熱狂した。つまり彼らにとって、80年代に隆盛を極めた田原俊彦という感覚ではなく、今の時代に生きるトップ・シンガーだということだろう。

田原俊彦の一挙手一投足が時代を反映

考えてもみれば、デビュー曲の「哀愁でいと」にしても、金八先生に登場した沢村正治そのままのイメージだったと思う。

哀愁があり、陰りがあり、それなのにキラキラとした王子様感があった。また楽曲の元ネタが当時のディスコヒット、レイフ・ギャレットの「ニューヨーク・シティ・ナイツ」というのも良かった。

ミラーボール煌めく都会の片隅で、悩める若者たちを躍らせていた楽曲を田原が歌うことにより、その存在をより身近に感じることもできた。そしてデビューから半年後バラエティ番組『たのきん全力投球』が始まり、田原の屈託のない明るいキャラクターが世間に浸透してくると「ブギ浮ぎI LOVE YOU」「キミに決定!」といった80年代というエンタメ感満載の、時代を象徴するような軽妙さがウリのヒットを連発するようになる。

つまり田原俊彦の一挙手一投足は、その時々にリリースされるすべての楽曲に反映され、それが時代を作っていった。「職業・田原俊彦」という称号は、彼が芸能界デビューを掴んだと同時に背負うことになった宿命だったのかもしれない。

田原俊彦の躍進ぶりを物語る「抱きしめてTONIGHT」

また、役者・田原俊彦の代表作である『教師びんびん物語』の主題歌が「抱きしめてTONIGHT」だったというのも、当時の躍進ぶりを物語っている。役者としての地位を確立し、そこに潜む情熱や優しさ、漲る自信を極上のダンスチューンに乗せたのが「抱きしめてTONIGHT」だ。

ちなみにこの楽曲は、リリースされた1988年、光GENJIの「パラダイス銀河」を抑え、『ザ・ベストテン』『歌のトップテン』という2大チャート番組で年間1位を獲得している。

このように田原俊彦という存在は、80年代を生きてきた者にとって、シンガーという肩書だけでなく、ドラマやバラエティも含め、職業・田原俊彦という視点で数々のヒット曲が時代の情景とともに頭の中にインプットされている。

エンタメ界の第一線で体を張ってきた男の凄みと楽曲のクオリティ

本日(8月18日)リリースされる田原俊彦初のオールタイムベスト『オリジナル・シングル・コレクション1980-2021』を聴けば、そんな風に、かつての田原に想いを寄せることもできる。しかし、この時系列に今年リリースされた最新シングル「HA-HA-HAPPY」までの全79曲を聴けば、今に続く田原俊彦の軌跡に、懐古よりも今へ、そして未来へと繋がる道筋が出来上がっていることに気づくはずだ。

田原をリスペクトする若い世代にとって、彼の一連のヒット曲は、まっさらな未だ聴いたことのない “新譜” という感覚が強い。音楽に古い新しいは関係ない。初めて耳にしたその時が新譜であり、その楽曲が聴いた瞬間の時代に響いたのであれば、その人のエバーグリーンとなって輝き続けるのだ。

だから田原と同じ時代を歩んできたリアルタイムのファンにしても、そんなまっさらな気持ちで楽曲に触れることで、デビューから40年、一瞬たりともブレることなくエンタメ界の第一線で体を張ってきた男の凄みや、時代を超越した楽曲のクオリティに驚くだろう。

シンガーとしての成熟、メインストリームの音楽を自分の持ち味に

この全79曲のシングルボックスを聴き終え特筆すべきことは、田原がテレビから遠ざかった90年代以降も、80年代の軌跡を振り切ることもすがることもなく、シンガーとしての立ち位置を成熟させていったということだ。

テレビからライブへ自らの主戦場が変わることより、過去の栄光を切り売りすることは、彼の本懐ではないだろう。もちろん楽曲のクオリティを上げていくことも必至である。そこには、常にアメリカ発のメインストリームの音楽を探求しながら、近年ではエンタメ先進国である韓国のムーブメントにも着目した音作りも垣間見ることができた。

つまり、世界で発信されているポピュラーミュージックのメインストリームに位置するサウンドをどのように自分の持ち味の中に落とし込んでいくか… というのも近年の田原の命題だったと思う。

例えば、2010年にリリースされた60作目のシングル「シンデレラ」を聴いてみても、そのメロウな音作りは、時代に即しながら練り上げられたものだというものが分かるし、逆に日本を代表するダンス&ヴォーカルグループ、EXILEのパフォーマンスの源流の一部には、田原の軌跡があったのだと思わずにいられなくなる。また、シンガー田原俊彦の持ち味を十二分に発揮しているバラードも、休むことなく現役を貫き続ける男だからこそ歌える雄大なものに仕上がっている。

また2017年、作詞家に阿木燿子を迎えリリースされた「フェミニスト」では、こんな風に歌っている。

 守るもののある人は強い
 あなたを見ているとそう思うのさ
 泣きじゃくる僕を抱いてくれた
 膝のかすり傷
 幼い日の記憶
 世界中を敵に廻したとしても
 揺るがないリスペクト
 女性に告げよう

… この楽曲に潜む大きなテーマは、田原自身から幼いときに父を亡くし女手ひとつで自分を育ててくれた母へ、そして自分から娘へ… 悠久の時間の中で普遍的に輝く女性賛歌である。それは田原の生き様を体現したものであり、そこに潜むシンガーとしての力量を感じずにはいられなかった。

デビュー40周年の集大成「HA-HA-HAPPY」

このような楽曲以外にも、ここ十年、田原の活動歴から言えば近年のクオリティはすこぶる高い。デビュー40周年の集大成といえる田原の生き様を凝縮した極上のダンスチューン「HA-HA-HAPPY」にたどりつくまで―― 2011年以降の10曲には、時代を模索し新たな音楽に挑戦する飽くなき探究心が伺える。

2012年リリース、氣志團の綾小路翔がソングライティングを手掛けた「Mr.BIG」では、歪ませたギターの音を主体としたロックサウンドで新境地を開拓し、2015年にリリースされた「BACK TO THE 90’S」では、90年代の幕開けを象徴するような新たなR&Bのグルーヴとして時代を躍らせたニュージャックスウィングを導入。そういった試みが田原の円熟味を増したヴォーカルと相俟って、新境地を開拓しながらも揺るぎない唯一無二の世界観を醸し出していた。

このように、現在に至るまでコンスタントにリリースされている楽曲の進化が田原のタフな現役感を物語っていた。懐かしさにすがることもなく、常に現在進行形で、100%の自分を見せ続ける。これが、田原俊彦が現在も輝き続ける理由に他ならない。

カタリベ: 本田隆

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