「ドント・ブリーズ2」の老人は「T2」のシュワだ! 【飯塚克味のホラー道】

飯塚克味のホラー道 第1回「ドント・ブリーズ2」

ホラーと言うお題を頂いたものの、いきなりホラーとは言い難い作品を紹介することになってしまった。とは言え、前作『ドント・ブリーズ』は間違いなくホラーであったのだから、ちょっとややこしい。

前作のあらすじはこうだ。ケチなコソ泥の若者3人が、地下に大金を隠しているとにらんだ盲目の老人宅を襲撃することを計画。ところがその盲目の老人は元軍人で驚異的な聴覚を持ち、更にはとんでもない異常者だった。最初は被害者だったはずの老人が、次第に立場が逆転し、その異常性が際立ってくると、観客の気持ちも小悪党の若者たちに傾いていくという、かなり歪(いびつ)な作品だったと言える。そして何よりも通常であれば、上質のサスペンス映画という扱いになるところが、老人のあまりの異常性により、ホラー映画として宣伝され、映画を観た観客もホラーと認知したことが特徴的だった。特に忘れられないのが、スポイトブチューの場面だ。凍らせたアレを軽く溶かし、スポイトに入れ、老人が若い女性に近づいてくる瞬間は、映画館が静まり返って、誰もが固唾を飲んでいた。自分も「この映画が4DX(あるいはMX4D)でなくて、本当に良かったと思ったものだ。あの瞬間、『ドント・ブリーズ』は間違いなく誰もが知っている体験を味わわせてくれるホラー映画としての地位を獲得したのだ。

対して今回の続編は、どう来たか?設定は8年後。老人にはなぜか娘がいて、二人で仲良く暮らしている。この娘は一体どういう関係なのか?老人の知人女性も出てきて、まさかの一般人のような暮らしぶり。疑問だらけで、何が何だか分からない内に、武装集団が老人宅を襲撃。彼らの目的は一体何なのか?というのが大まかなストーリーだ。

老人と武装集団のバトルで接着剤のやってはいけない使い方とか、いきなり窓から手が伸びるなど、ホラー的なショッカー描写が見られるものの、実際は『ランボー』などと同様で、殺戮マシーンの主人公と武装集団の対決を楽しむという内容になっている。見ている観客も前作では老人の行為に驚きや恐怖を感じたものの、本作では娘を誘拐しようとする武装集団に孤軍奮闘する老人に感情移入して、いつの間にか「やれやれ!もっとやれ!」と応援してしまっているはずだ。

映画を見ている内に、自分には過去のあるインタビュー映像が思い浮かんだ。それは『ターミネーター2』公開時のジェームズ・キャメロン監督のもので、「前作(=『ターミネーター』のこと)で人気が出たアーノルド・シュワルツェネッガーを、一作目同様に悪役にはできなかった」というものだった。そう、本作では老人はヒーローに生まれ変わっていたのだ。スポイトのことは大目に見てあげよう(笑)。しかし盲目の状態でこんなに強いなら、盲目になる前はどんなに強かったのか?老人が盲目になる前を描くスピンオフも見たくなってきてしまう。ホラーの枠から少々はみ出してしまった続編ではあるが、前作が好きなら観ないという選択肢はあり得ない。あと、エンドロールの後にもおまけ映像があるので、最後まで席を立たないように!

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


■作品情報
ドント・ブリーズ2
2021年8月13日(金)全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
R15+

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