観測ロケットMOMOv1で情報理論的に安全な実用無線通信に成功

2021年8月17日
国立研究開発法人情報通信研究機構
インターステラテクノロジズ株式会社
法政大学

ポイント

■ 観測ロケットMOMOv1から地上局に飛行状況を伝送する実用チャネルでセキュア通信の実証実験
■ 開発した情報理論的に安全な通信セキュリティ技術の動作確認に実用速度(512 kbps)で成功
■ 小型宇宙機の飛行の安全確保に不可欠な伝送データの保護に寄与

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)サイバーセキュリティ研究所、インターステラテクノロジズ株式会社(IST、代表取締役: 稲川 貴大)及び法政大学(総長: 廣瀬 克哉)は、共同で開発した小型衛星・小型ロケット用通信セキュリティ技術を観測ロケットMOMOv1に搭載し、2021年7月31日(土)、機体から地上局に飛行状況を伝送する実用チャネルにおいてセキュア通信の実証実験に成功しました。
本研究の目標は、小型宇宙機の乗っ取り防止による飛行の安全確保と、小型宇宙機から伝送される飛行状況や学術的・商業的価値の高いデータの保護のため、第三者によるなりすまし・改ざん・盗聴を防ぐことです。本実験によって、通信の秘匿・認証を最も高いセキュリティである情報理論的安全性で実現できることを実用速度(512 kbps)で確認しました。本成果は、小型宇宙機の飛行の安全確保等に不可欠な伝送データの保護に寄与します。

背景

民間事業者による小型衛星が学術・商用目的で多数打ち上げられるようになり、平成30年11月15日に「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」が施行されました。本法律に基づく基準等に関するガイドラインにおいて、人工衛星の打上げ用ロケットの型式認定や飛行許可に当たり、重要なシステム等に関する信号の送受信については適切な暗号化等の措置が求められています。NICT、IST及び法政大学は2018年から共同で、NewSpace時代に向けた小型宇宙機用通信セキュリティ技術を研究開発しています。
本研究の目標は、小型宇宙機の乗っ取り防止による飛行の安全確保と、小型宇宙機から伝送される飛行状況や学術的・商業的価値の高いデータの保護のため、第三者によるなりすまし・改ざん・盗聴を防ぐことです。これまでに、通信の秘匿・認証を最高レベルのセキュリティである情報理論的安全性で実現する通信セキュリティ技術を開発し、民生電子デバイスを用いたプロトタイプ通信装置を観測ロケットMOMOv0に搭載し、実験チャネルで動作確認を実施してきました。

今回の成果

図1 本実証実験に用いた開発技術のプロトタイプ通信装置と実験期間中の機体高度とパケット受信状況

今回の実験の目的は、我々が開発した情報理論的に安全な通信セキュリティ技術が小型宇宙機から地上局への通信の実用に資することを実証することです。
本年7月31日(土)の観測ロケットMOMOv1の打上げ時に、開発技術を民生電子デバイスで実装したプロトタイプ通信装置を搭載し、機体から地上局に情報を伝送する実チャネル(8 Mbps)のうち機体情報分(512 kbps)に開発技術を適用し、動作確認に成功しました。動作環境は、アメリカ連邦航空局の基準80 kmに到達する宇宙空間への弾道飛行として典型的なものであり、軌道投入ロケット初段に類似します。民生電子デバイスを利用して、情報理論的安全性という最高レベルのセキュリティを高速な実用チャネルで達成したことは、世界初の成果になります。なお、本開発技術は軽量なため、実チャネル全体に適用範囲を拡張することは容易にできる見込みです。
本開発技術は、他の情報理論的に安全な技術と同様、送信側と受信側で多量(通信データの総量以上)の鍵を事前共有し使い捨てていきます。開発においては、MOMOv0の実験結果を踏まえ、高速な実用チャネルにおける潜在的脅威を分析しました。そして、通信遅延が変動しても送信側と受信側が同時に同じ鍵を使い(鍵同期)、同期情報の損壊から復帰する(同期復帰)ように設計し、セキュリティ喪失への対策を施しています。また、装置コストを価格面のみならず装置重量や必要部品点数、消費電力に至るまで削減し、多様な小型宇宙機に適用可能としています。

今後の展望

今後も、情報理論的に安全な通信セキュリティ技術の実用化に向けて、更なる技術検証と技術改良を進め、民間事業者による宇宙ビジネスに欠かせない小型宇宙機の飛行の安全確保等に不可欠な伝送データの保護に寄与します。